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半獣人


 山の麓にある倉庫に向かって歩を進めるレインとアルナ。アルナはちょっと肌寒いという理由で再びローブを着て歩いている。レインとしても、こちらの方が無駄に混血種たちを驚かせないだろうし安心だ。

 二人はこの道中で他愛のない会話をしていた。


「――で、倉庫って聞いたけど、何が置いてあるんだ?」

「彼らの技術で作った道具とか。この地域付近でしか取れない鉱石とか。希少な魔獣の毛皮とか」

「えっと……とにかく凄いものがあるってことだな?」


 アルナが例に挙げたのは、とてもレインの興味を惹く代物ばかり。アルナも商人が好きそうな物が分かってきた頃なのか。

 一人の商人として、ぜひとも行ってみたい場所である。


「うん。アルナのところにもたまに送られてくる。でも、アルナだけじゃ手に余るからレインに紹介したい」

「なるほど。運が良かったら、新しい仕入先になるかもな」

「しいれさき?」


「んー……仕事の用語だからアルナは気にしなくても大丈夫だよ」

「――それなら教えて。絶対教えて」


 アルナは首を傾げて頭にはてなを浮かべる。聞き慣れない単語に引っかかったようだ。

 レインは説明するか迷ったが、アルナの強い希望があったため説明せざるを得なくなる。

 これで説明しなかったら、拗ねて口を聞いてもらえなくなるか、とんでもない癇癪を起こされるかのどちらかだ。


「と言っても簡単なんだけど……仕入先っていうのは、商品を仕入れる相手のことを指すんだ。仕入れは分かるよな?」

「なんとなく。買うってことだよね」


「そんな感じ。見積して確認して発注して――まぁ、混血種と仕事したいっていう意味だ」

「なるほどなるほど。また一つ賢くなった」


 アルナはうんうんと頷く。これくらいは理解しないとレインの役に立てるパートナーにはなれない。とりあえず一次試験には合格したような気分だ。もしパートナーになった場合は、こういう難しそうなことはレインに任せるつもりだが……少しかじっておくくらいの知識は必要である。


 それに、混血種とレインの関係が上手くいけば、レインはまた一歩ステップアップすることに。それと同時に、混血種をレインに紹介したアルナの株も上がるため、一石二鳥の試みということだ。

 レインのパートナーになるための計画は順調に進みつつある。


「倉庫はもう近いよ。大きいからすぐに分かる」

「え。あの御屋敷みたいなのが倉庫か?」

「そう。広そうでしょ」


 レインが見つけたのは、木製の豪邸のような倉庫。一階建てで横に広い。倉庫として使うにはやけに気合の入った造りだ。

 倉庫として運用するために造ったのではなく、元々あったものを倉庫として運用しているといった方が正しそうに思える。


 もしその予想が真実なら、元々何の建物として運用されていたのか気になるところではあるが……それはレインに関係のないことだ。

 二人はどんどん倉庫に近付いて行き、気が付いたらもう扉を叩ける位置にいた。


「この中に誰かいるのか?」

「責任者がいるはず。アルナの記憶だと、余所者に厳しそうだった」

「できれば聞きたくない情報だったかもな……」


 アルナから出てきた情報のせいで、レインの心に緊張感が走る。これなら嘘でも友好的な人だと伝えてほしかった。

 とにかく会ってみないと話が進まないため、レインは意を決して扉をコンコンと叩いた。


「すみませーん。どなたかいますか?」


しばらくすると、奥の方からドシドシと大きな足音が聞こえてくる。


「誰だ? 貴様、ここに来るのは初めてだな?」

「商人をやっている者です。敵対する気はありません」

「……ふむ。良いだろう。信用する」

「……え?」


 責任者らしき男は、意外にもあっさりとレインのことを信用した。

 レインの想定だと、どうやって信頼してもらうかが鍵になるはずだったのだが……あまりにも速い。

 しかも、アルナの姿を見たというわけでもなく、レインの声を聞いただけ。


 何か他に断定できるような材料があっただろうか。

 そうこうしているうちに、倉庫の鍵が開いて中にいた責任者が姿を現した。

 これは――獣人と人間の混血種だろうか? 体毛は並の獣人と同じくらいだが、尻尾の長さや耳の大きさは人間の血が反映されているのかあまり発達していない。


「は、初めまして。レインといいます」

「俺はガガールドだ」

「あの、どうして俺のことを信じたんですか……?」


 レインの疑問は当然なもの。敵対しない意思は伝えたつもりだが、それを信じるのはあまりにもリスキーな気がする。

 貴重なものが保管されている倉庫なら、盗賊のような輩も警戒するべきであろう。


 それに、ガガールドはレインが敵でないことを確信して扉を開けたような感じだった。不思議だ。


「扉越しに仲間たちの臭いがした。それも一人や二人じゃない。直近で複数人の同胞と関わったことになる。それなのに血の臭いは一つもしなかった。おまけに、敵対しないと宣言した時も心音の乱れはなかったから嘘はついてない。こんなところか」


「あ、あの一瞬でそんなことが分かったんですか?」

「鼻と耳には自信があるからな」


 ガガールドの圧倒的な感覚機能に驚きを隠せないレイン。

 扉越しなのにも拘わらずこの精度。アルナやリリアやティアラとはまた違った凄さだ。


「凄い……これが獣人族の感覚なんですね」

「獣人って言っても俺は半分しか血が流れてない。本物の感覚はもっと鋭いさ」


 お前は……とレインを見て呟くガガールド。


「純度百パーセントの人間だな。お前たちからしたら、俺たちのような混血種は気味が悪いだろ」

「そ、そんなの思ったことありません!」

「……嘘、じゃないのか。珍しい人間だ」


 ガガールドはまた心音を聞いたのか、レインが嘘を言っていないことを見抜く。

 ガガールドがこれまで関わってきた人間は、混血種を見たらほぼ確実にマイナスな印象を抱いていた。一切反応を変えなかったのはレインだけだ。今までたくさんの種族と関わってきたことが窺える。


「ここに来たからには何か目的があるんだろ? まぁ、商人っていう時点で察することはできるが」

「そうでした! 混血種の皆さんと取引させていただきたいんです!」


「だろうな。だが……すまない。断らせてもらう」



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