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完売する商品


「そんなレベルじゃないですよ! そのバッジを所有しているのは世界で二人! 貴方が三人目です!」

「……え」


 レインがバッジを軽く認識していたら、混血種の一人がその価値を伝えるように前に出てきた。

 世界で三人? 魔王の従者なら誰でも貰えるようなものだと思っていたが、その認識のズレはあまりにも大きかったらしい。


 長くアルナの従者をしている者たちでも得られないようなものが、自分のような存在に与えられても良いのだろうか。

 既にこのバッジを貰っていた二人も、レインという存在に憤りを感じるはず。自分にこのバッジを付ける資格があるとは到底思えない。

 もちろんレインはすぐにバッジを返そうとした。


「アルナ! このバッジは俺には相応しくないよ」

「相応しいかどうかはレインが決めることじゃない。アルナが決めることだよ」

「うっ……」


 魔王の従者なら飛び跳ねて喜びそうなセリフだが、レインだと少したじろいてしまう。

 アルナが自分の存在を認めてくれている何よりの証拠なのだが、それにしてもそのバッジは重すぎる。

 憧れているバッジをよく分からない人間が付けていたら、不満を持つ従者も何人か出てくるだろう。


 それに、バッジを付けるということはアルナの存在を常に背負うということ。考えたくはないが、自分が何かしてしまった時、アルナの顔に泥を塗る可能性が高い。

 これらのことを考えたら、バッジを受け取らないのがお互いのためになる。


 しかし、アルナはどれだけ説明したところで聞く耳を持たないはずだ。アルナはそういう魔王である。

 レインは少し考えると、グッとバッジを握りしめた。


「……分かった。このバッジはありがたく受け取る」


 だけど――とレインは付け加える。


「このバッジを付けるかどうかは俺次第なんだよな?」

「……? うん」

「なら、俺はまだ付けないことにするよ」


 アルナは少しの間固まる。想定を超えたことを言われたら固まってしまうのは、人間でも魔王でも同じことのようだ。

 きっと今はどうしてレインがこんなことを言ったのか考えている最中だろう。


 今回はレインの中にも確固たる意志がある。アルナには理解されないかもしれないが、その意思を伝える義務がレインにはあった。


「今後この仕事をしていく中で、さっきみたいなことは何回もあるはずなんだ。その度にアルナの力に頼っていたら、俺自身何も身に付けられない気がする。せめて自分の力で乗り越えられるようになった時、付けることを許してほしい」

「…………レインは面白い」


 アルナは今までとは種類の違う笑みを見せる。

 あのバッジを渡してこのような反応をする者は、世界中を探しても恐らくレインだけ。見せびらかすこともせず、自分の成長のためにむしろ隠すことを選択するとは。



 きっとレインは、地位や名誉や金などでは振り向かせられない。

 だからこそ、余計にレインを近くに置きたくなってきた。


「とにかく。レインが偽物を売ったりしていないって分かった?」

「も、もちろんでございます!」

「我らが英雄のアルナ様がおっしゃるなら、信じぬ者などおりません!」


 めでたくレインの疑いは晴れたが、それまでの過程で気になったことが一つ。

 それは、混血種たちの異様とも言えるアルナへの忠義。

 今思い出したが、魔界祭の時も屋台を開いていた混血種がアルナに忠義を示していた。


 いくら魔王と言えども、この態度の変わりようは何か理由があるはずだ。

 そう――過去にこの関係性を作った何かが。


「アルナはここでは英雄なのか?」

「そういうことになってるらしい。別に過去何回か助けてあげただけなのに。食糧危機とか魔物の襲撃とか」

「いや、十分すぎるくらい英雄だよ」


 アルナは軽く当たり前のように話しているが、まさかそんな過去があったとは。ここに来た時から、どこか混血種たちのことを気にかけているような空気を感じ取れたが、これなら納得だ。


 外との関わりを断っているということは、もちろん味方なんて存在するはずがない。そんな状態で助けてくれたアルナは、混血種たちにとってどれほど大きく見えたのだろう。


「外の世界のものをレインはたくさん持ってる。みんなの役に立つと思った」

「そ、そこまで我々のことを……ありがとうございます!」

「欲しいものがあったらレインに言って。お金は気にしないでいいよ。アルナが払っておくから」


 混血種たちがざわざわと驚いた様子を見せる。

 レインの凄さにだろうか。それともアルナの太っ腹さにだろうか。……恐らくその両方だ。


「アルナ、良いのか?」

「いいのいいの。せんこーとーし? ってやつ」


 アルナは混血種たちに何か光るものを見出しているようだ。今のうちに恩を売っておこうというつもりらしい。

 そういえばこの地域に来る前に混血種たちの良さを語っていた気もする。


「それに、きっとレインは頻繁にここを訪れることになる」

「俺が頻繁に?」

「うん。今から混血種の倉庫に行ってみる。そこに色んなものがあるから見てほしい」


 アルナはレインの手を取る。場所自体は頭に入っているようで、その足取りには迷いがない。

 レインに早くその倉庫とやらを見せたくて仕方がないようだ。


「あ、でもまだ店を出しっぱなしだし――」

「……む。なら少しだけ待つ」


 アルナはピタッと止まり、混血種たちの買い物が終わるのを待つ。買い物と言っても、代金を支払うのはアルナなのだが……。

 混血種たちも遠慮することの方が失礼にあたると察したようで、並べられている商品を興味津々に見ていた。


 外の世界にしかないものを見ている彼らの目はキラキラとしたものだ。


「絶対に枯れない花瓶……夢のようだわ。息子がプレゼントしてくれたお花をずっと飾ることができるなんて……!」

「どれだけ歩いても疲れない靴なんて本当にあるんだな。採取活動で毎日山に登らなきゃいけないからピッタリだ」


 結局、十分もしないうちに並べられていた商品は完売することになり、ここにいる混血種十五人全員の手に渡ったのだった。



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