本物か偽物か
「――! おい、誰か来たぞ。武器は持っていないが油断するな」
「誰? 人間? 人間がどうしてここに?」
「隣にいる小さいのは何だ? 見るからに怪しそうだけど……」
混血種たちがレインとアルナに気付く。人間と怪しいチビという組み合わせはやはり目立つようだ。
あっという間に周囲の視線が全てレインたちに向いた。きっとこの混血種たちにはレインの名も伝わっていない。誰か一人でも自分のことを知っている者がいればやりやすくなるのだが……それも望み薄だろう。
まずはいきなり攻撃されなかったことに安堵する。
「何者だ! 何の用があってここに来た!」
「アル――ごほん。私たちは行商人。ただ仕事で立ち寄っただけ」
「行商人? 初めて見たな。悪いが貴様らに用はない。怪我しないうちにこの地から出て行くんだ」
アルナが自分たちのことを行商人だと名乗ると、混血種たちは数歩だけ二人との距離を詰めた。
大半の者が行商人を初めて見たという感じであり、まだ二人のことを警戒している。実質的に隔離されてきた混血種なら、そんな者たちが多いのも仕方がない。
レインもこういった警戒の視線は経験済みなため、怯むことなく話を進められる。
「待ってください! 僕ならきっと皆さんのお役に立てます! 話を聞いてもらえるだけでもいいんです!」
「話だとぉ?」
「はい! ここでは美味しい食べ物も、質のいいアイテムもあると聞きました。僕ならそれらを外の世界で売ることができます!」
「外の世界で売るってことは、俺たちに金や対価が入ってくるっていうのか?」
「もちろんです」
まずはメリットを提示して、レインの話に興味を持ってもらうところから始まる。
自分たちの作ったものが、知らないところで売れてお金になると聞けば、とても魅力的に感じるだろう。
レインの予想通り、さっきまで警戒していた混血種が食いついてきた。
「アンタが俺たちの代わりに商売してくれるっていうのは良いんだが、本当に売れるんだろうな?」
「僕も何年もこの仕事をしてるので大丈夫です。噂となって僕に伝わるくらい質がいいものなのですから、買う人は何人もいます」
「……にわかには信じられんが、そこまで言うならアンタが良い商人だっていう証拠を見せてみろ」
良い商人である証拠と、これまた難しいことを言われたが問題ない。
自分がどんなものを取り扱っていて、どのような規模なのか知ってもらう良い機会だ。混血種たちが興味を持ってくれているということも間違いないため、レインは自信を持って行動に移す。
「レイン、店を出して」
「あぁ。簡易的なものだけどな」
アルナも考えていることは一致していた。レインは昨日と同じように簡易的な店を作る。その作業は手慣れたもので、あっという間に混血種たちの前に商品がずらりと並んだ。
今まで見たことのないものばかりが並ぶ棚に、混血種たちの視線は釘付けになる。
……しかし、誰も手に取ろうとはしない。
「なぁ、貴重な宝石とかあるけどよぉ……これって本物なのか?」
「なっ、本物に決まってます!」
混血種の懐疑的な声に、レインはついつい言い返す。商人として、自分の扱っている物が偽物だと疑われるなんて最も不名誉なこと。こればかりは、絶対に本物だと理解してもらわないと気が済まない。これまでにも、疑われた時はどんな小さな疑いだったとしてもしっかり証明してきた。
混血種たちの言う良い商人であることを証明するためにも、レインは必死だ。
「そうは言ってもなぁ……流石に信じられんぞ。こんな宝石が何個も並べられるなんて」
「確かに。人間の商人がこれだけ手に入れられるのも不自然だしな」
「どれだけ歩いても疲れない靴とか、絶対に枯れない花瓶とか……冷静に考えたらやっぱり偽物かも」
レインが訂正しようとしても、なかなか混血種たちの疑いは晴れない。
混血種たちの言うように、レインが並べている商品は人間の扱うものとしてはあまりにも価値が高い。今までは自分の名を名乗ればすぐに納得してもらうことができた。しかし、ここはその方法が使えない場所。どうやって本物だと納得してもらうか……レインは頭を悩ませる。
どうにかして自分を知っている者を探すか。それとも鑑定の能力を持っている者を探すか。
残念ながら、どちらもすぐには実現できそうになさそうだ。
「並べているものはどれも本物です! 宝石だって確認する術はあります! 模様が描かれた紙の上に置いて透かせば、本物なら透かして見えないという特徴があります!」
「それが正しい見分け方という確証もないからなぁ――そうだ」
混血種の一人が並べている宝石の中から一つを手に取る。
「これは確かヒスイっていう硬い宝石だろ? これを叩いて割れなければ本物だっていう証拠になるんじゃないか?」




