混血種
魔王城から西方に進むこと約一時間。
川を飛び越え森を抜け、ようやくアルナの言う目的地が見えてき始める。
外見としては、もちろん規模や細かいところは違うが、エルフの国に似たものを感じた。自然と共に生きている感じというか、空気が澄んでいて綺麗だとか。背の高い木が道なりに並んでおり、自分たちを導いているように思える。枝に止まっている鳥たちも、二人の存在に気付いて、呼び鈴の役割をしているみたいに鳴き始めた。
ここで魔獣が足を止める。そしてアルナはぴょんと降りた。ここから先は歩いて行くとのことだ。
まだこの地域の住民は見えてこないが、きっと温厚な種族が住んでいるのだろう。アルナに問いかけてみる。
「アルナ。この地域には何の種族が住んでるんだ? 隠れるような暮らしをしてるってことは……もしかして何かの希少種とか?」
レインの予想は珍しい種族が住んでいるというもの。移動中に聞いた情報だと、この地域は地図にも載っていない隠れた場所。まるで他人から隠れるというか、見つからないようにしている。
わざわざそんなことをする理由を考えたら、存在価値が高い希少種に分類される者たちが浮かんできた。
「希少種じゃない。むしろその逆かも」
「逆? 希少種の逆って言うと……どういうことだ?」
「混血種。レインも知ってるでしょ」
もちろんレインはその存在を知っている。
混血種とは、それぞれ違う種族の親から生まれた存在。エルフとドワーフの混血種とか、吸血鬼と人狼の混血種とか。別にそんなに希少価値があるわけではない。希少種の逆と言うのも納得できるくらいに、魔界には混血種が溢れかえっている。まあ、有象無象の種族で溢れかえっている魔界では当たり前の状態だ。
どうして混血種がこんな隠れるようにして生きているというのか。レインも何回か混血種と会ったことがあるが、彼らは魔界の中でも特に変わった様子を見せずに生きていた。
この前行われた魔界祭にも、混血種が普通に参加していたはずだ。
「混血種が集落を作って生きてるのか? 俺が知ってる限りだと、普通に暮らしてる混血種ばかりだったけど」
「受け入れられる混血種もいれば、受け入れられない混血種もいるの。ここで暮らしてるのは受け入れられなかった混血種たち」
「受け入れられなかったって……どうして受け入れられなかったんだ?」
「あのね――人間の血が流れてるの」




