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リリアの決意


「なんだ、レイン君。良い嫁さん見つけたな!」

「へ? い、いや、そんな関係じゃないですよ! 失礼でしょ!」


 オークがレインを肘でつつく。そうしたら、レインは顔を赤くしてムキになったように反論していた。

 リリアのことを思っての行動だろうが、当の本人からしたらちょっと複雑な心境である。願わくは、嫁とまではいかなくとも彼女的な紹介をしてほしかった。


 もちろんレインを責めるわけではなく、むしろ自分のアプローチ不足を悔やんでいる。

 いつかレインの口から紹介してもらえる日が来るように頑張らなければ。

 そんな風にムーっとしているリリアに気付いたのか、レインは慌ててオークに帰るよう促した。そして、申し訳なさそうに近寄ってくる。


「ごめんごめん、リリア。あの人は良い人なんだけどデリカシーがなくてさ」

「いえいえ、気にしてないですよ。ええ、気にしてないです」

「お、おう……」


 それなら良かった――と、レインは店仕舞いを始める。初めての仕事に夢中で忘れかけていたが、既に結構な時間が経過していた。充実していると時間の経過が早く感じるというアレだ。レインと一緒だったことも相まって、本当に一瞬で今日が終わってしまった。


「今日は手伝ってもらえて助かったよ。ありがとう」

「お役に立てていましたでしょうか……?」


「もちろん。お客さんがリリアのことを看板娘って言ってたよ。初めてじゃないみたいだってさ」

「こ、光栄です!」


 自分ではミスも多かったと反省していた反面、レインと客からの評価が意外と高くてつい笑みを見せるリリア。

 完璧とは到底言えないくらいの仕事だったが、それでも誰かの役に立てたというのが嬉しい。

 実際に仕事というものをこの身で体験してみることで、働くことの面白さも知ることができた。


 それと同時に、レインの凄さも知ることができた。世の中にはきっと自分の気付いていない凄い人がたくさんいるのだろう。何だか一日で視野が大きく広がった気がする。


「私……立場上、働いたことが今までなくて。お仕事ってこんなにやりがいがあるものとは思いませんでした」

「見てるのとやるのとじゃ全然違うよな」


「はい。実際に近くで見てみて……レインさん、凄くかっこよく感じました」

「あ、ありがとう。何だか照れるな」


 面と向かって褒められたことで、レインは少し赤面してお礼を言う。

 お世辞でも何でもなく、リリアが真剣に言っているからこそ余計に照れてしまった。やはり、目立たない部分を褒められると嬉しい。


 もしリリアと組んだら、この仕事も長く続けられそうだ。


「照れることなんてありませんよ。今日の仕事を見て確信しました。レインさんは色々な種族を幸せにしています」

「幸せだなんて大袈裟だよ。自分が好きでやってることだし」

「いえ、現に私が幸せだと感じていますから♪」


 リリアは自分の心の中にあったものを全部伝えた。レインの存在はこの世界に必要だし、自分にはもっと必要だ。

 困っている人の役に立てるし、純粋にレインの仕事を応援したい。


「レインさんは明日もここでお仕事ですか?」

「いや、明日はアルナとの予定があるんだ」

「そ、そうでしたね……! すみません。明日もまたここでお手伝いができたら良いなぁと思いまして」


 それを聞いて。

 レインは嬉しそうにしながらも、何だか申し訳なさそうな空気を出す。


「俺もそうしたいけど、あまりこの場所の仕事はできないかも」

「え⁉ どうしてですか⁉ 何か理由が⁉」

「ここは中央地だからめちゃくちゃ目立つんだ。頻繁に足を運ぶと、もしかしたら人間たちに見つかるかもしれない。そうしたら、この場所にも迷惑かけるから」


 レインが危惧していることは、人間たちにレインの存在とこの場所がバレてしまうこと。レインは人間たちから追われる身であり、いつどこで襲撃されてもおかしくない。

 特にこの場所は魔界でも目立つ場所であるため、見つかる可能性もその分高いのだ。


 それに、もしここで人間の兵士が騒ぎを起こしたとしたら、レインだけでなく他の種族にも危害が加わるかもしれない。人間という種族のイメージがこれ以上下がったらレインも困る。だからこそ、レインは自重する必要があった。

 しかし、理由を説明されたとしてもリリアは納得できない。


 どうして愚かな人間のせいでレインの仕事が邪魔されないといけないのか。本当にもったいない。レインは何も悪くないというのに。


「レインさんが不自由になるなんて納得できないです……!」

「ごめんな、リリア。でも仕方ないんだ。この前みたいに、リリアの眷属も襲われる可能性だってあるからさ」

「でも……むぅ。分かりました……」


 レインにこう言われたら、もう言い返すことができない。そもそも、レインに言ったところで人間たちが大人しくなるわけではない。完全にお門違いだ。

 レインは自分を抑えてこの場所や眷属のことを考えてくれている。


 一番納得していないのはレイン本人であるはずなのに……八つ当たりをしてしまった。

 何とも言えない濁ったものがリリアの心の中に生まれる。


「……それじゃあ、暗くなる前に戻るか。今日は楽しかったな」

「は、はい! ありがとうございました! 私も凄く楽しかったです!」


 空がオレンジ色に変わっていく。もうこんな時間か。

 レインの身の安全を考えたら、そろそろ帰らないといけない。もっとレインの仕事を体験してみたかったが、それはまたの機会にするとしよう。

 これから二人きりの帰り道だ。


「あの……一つ聞いておきたいのですが、追ってくる人間たちがいなくなったらこの場所にも頻繁に来れるんですよね?」

「え? ま、まぁ、そういうことになるな。急にどうしたんだ?」

「いえ、そういう日がきたら良いなぁ……と。アハハ……」


 リリアは誤魔化すように笑った。

 それと同時に、一つの計画を立てる。今それをレインに言ったら止められそうなため、隠しておくしかないのだが。


(人間たちはもう追ってこれないようにしてしまいましょう。眷属を傷付けられた過去もありますし、そろそろ痛い目を見てもらわないとですね)


 リリアは決心した。人間と敵対すること自体は既に決めていたが、今度はこちらから攻め込む。

 レインの邪魔をして、眷属を傷付けて、もう我慢することはできない。


 少しでも早く自分とレインのパートナー生活を始めるためにも、邪魔者には消えてもらうことにしよう。

 帰り道もリリアは将来のことを考えてニヤニヤとしていたのだった。




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