パートナーへの道
「最初に言ったであろう。絶景を見せてやると。ここから距離は遠くない。ドラゴン状態になるまでもないのだ」
ティアラの過去が衝撃的すぎて忘れていたが、確かに絶景もあると言っていた気がする。彼女がここまで褒めるとは、それはそれは相当な絶景だと窺えた。
それに、ここから遠く離れてもいないようだ。ティアラはドラゴンの姿にあえてならない。その代わりに、レインをおんぶしての移動方法にするらしい。どちらにせよ、レインがティアラの背中に掴まることは変わらなかった。
レインがティアラの肩をしっかり掴むと、ティアラは思いっきり膝を曲げて大きく上に飛んだ。
ジャンプして着地、ジャンプして着地を繰り返し、どんどん丘に向かっていく。短距離に限って言えば、こちらの方が早いのではないかと思えるくらいに一歩一歩が大きい。それに、レインとしてもこちらの方が落ちにくくて安心だ。
そうこうしていると、あっという間に丘の上に到着してしまった。
「――やはり何度見ても素晴らしいな。レイン、上を見てみろ」
「上? ……あー、星空。確かに綺麗だ」
早速ティアラに言われて、レインは無限に広がる星空を見た。無駄な光が周りに無いせいか、星がより一層輝いて見える。少なくとも、人間界で見る星空とは大違いだ。
ここがティアラの大切にしていた場所。故郷は変わり果ててしまったが、この場所と景色だけは何一つ変わっていない。
いつも故郷に戻って来た時には、ついでに絶対訪れる場所だ。ティアラはこれをどうしてもレインに見せたかった。
「我は子どもの時からずっとこの景色が好きだったのだ」
「この景色はお金じゃ絶対に買えないな」
「……クク、確かに。どんな商人でも無理だ」
レインらしくないセリフに、ティアラは堪えきれず笑った。自分でも、今考えたら恥ずかしいセリフだったかもしれない。この星空がレインをロマンチックな気持ちに変えてしまったせいだ。
「竜人族にとって、星というのは結構意味のあるものなのだ。共に星空の元で将来を誓い合った男女は幸せになるという逸話もある。……いや、我はそんなに信じておらぬがな?」
「人間界にもそんな逸話があった気がするな。俺は結構信じるタイプだよ」
「……そうか。そういうタイプなのか」
レインに釣られて、ティアラも柄でもないことを言ってしまった。逸話を実践でもしてやろうかと思ったが、顔が赤くなるだけで言葉は何も出てこない。
こんなことでは、いつか誰かにレインを取られてしまいそうだ。
ティアラは、魔界祭の時にリリアやアルナと仲良さげに喋っていたレインを思い出した。きっとあの二人もレインのことをただの人間とは思っていない。女の勘というやつだ。
自分の方がレインのことをよく知っているはずなのに。レインだけは絶対に譲りたくない。レインと出会うまでは抱いたことすらなかった感情だ。
「レイン、まだ我とパートナーになる気はないのか?」
「……まだティアラに相応しいとは言えないから。俺がもっと商人として成長してからじゃないと、ティアラに迷惑をかけることになる」
ティアラはムッとした表情を見せる。レインの言い分はいつもこうだ。レインの実力はとっくのとうに認めているというのに、レインは自分の能力をイマイチ評価していない。それだけ伸び代があるとも捉えられるのだが……。
「そうか。それならレインが納得するまで隣で待つとしよう。何年でも何十年でもな」
ティアラは言いたいことを噛み締めて、レインに少しだけ圧をかけた。
何十年でも待つ――というのはもちろん嘘だ。というか、正直そんなに待てない。
だからティアラは考えた。レインをずっと隣でサポートし、仕事を見届けてやろう。そうしたら、レインも実力不足などとは言いにくくなるはず。
それに加えて、ティアラ自身の価値もレインにアピールすることができる。メインの目的はこっちだ。
自分がいることで、どれだけ仕事がやりやすくなるのか見せてやりたい。
……まぁ、最初は仕事を覚えていないため、ドラゴン状態でレインを運ぶ係になりそうだが。
それでもティアラの目にはやる気が満ち溢れていた。
「あ」
ここでティアラは思い付いた。
(レインを追っている人間たちを潰せば、のびのび仕事ができるようになるはずだ。きっとレインも喜ぶに違いないな)
レインの邪魔をする人間。こいつらがいなくなれば、レインはもっと成長できる。結果的にパートナーになる時期も早まるはずだ。
こうなったら、するべきことは一つ。
レインにサプライズとして「自由」をプレゼントしてやろう。




