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まさかの再会


「レインさん! こっちですよこっち!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……もう決勝戦だなんて早すぎじゃないか……?」

「そんなこと言ってもしょうがないです! 流石に今回は異常なスピードだと思いますが……」

「ほとんどの試合が瞬殺で終わってる。すごい」


 時間に追われているレインは、リリアに引き連れられて転びそうになりながらも走る。

 観客の間を掻き分け、ライカがいる場所へ。レインたちがここまで急いでいる理由は他でもない。

 決勝戦の開始があまりにも早すぎて、三人の想定を軽く超えていたからだ。


 本来ならこの時間帯は二回戦が始まっているかどうか。

 普通ならありえない進行速度である。

 ここまで進行が早くなった理由としては、ほとんどの試合が瞬殺で終わってしまったため。


 特にティアラ。

 ティアラと対戦するはずだった相手は、試合が始まるまでに全員棄権してしまったようだ。実際、自分の身の危険を考えると正しい判断なのかもしれないが……。


 尋常じゃない恐れられ方だった。


「とりあえずライカさんがいる場所に行きましょう。せっかくなら特等席で見たいですし」

「決勝戦まであと何分だ?」

「えっと、三分くらいです」

「ギリギリ間に合ったってところだな……」


 ここまで走ってきた中で、レインはようやく一息ついた。

 ライカがいる場所はレインの目でも視認できる。

 あそこまでなら一分もかからない。


 何とかティアラの雄姿を見届けることができそうだ。

 もし決勝戦を見逃していたら、ティアラから相当文句を言われていたはず。

 ひとまずホッと一安心。あとはティアラが見事に勝利するところを見るだけである。


「――あ。遅いわよ、レイン」

「ごめんごめん。こんなに進行が早いとは思ってなかった」

「まあ、確かに今回は荒れてるわね」


「ティアラの対戦相手が次々に棄権してるらしいな」

「それだけじゃないわよ。ティアラの他にもう一人強いやつがいるの。そいつがどんどん瞬殺するから大変だわ」


 ようやくライカと合流する三人。

 ライカが用意している三人分の席に、なだれ込むように座った。

 ライカの話だと、ティアラ以外にもこの大会を荒らしている存在がいるようだ。とても興味深い。


 奇しくもティアラとは決勝で当たることになったようだが……一体どんな相手なのだろう。

 レインとしても他人事ではないため、少しハラハラしてしまう。


「強い人……? どのような御方なのですか?」

「見たら分かると思うわ。ほら、始まるわよ」

「あ、本当ですね」


 リリアが視線を闘技場に向けたところで、ティアラが東側から眠そうに登場する。

 棄権の連続で飽き飽きとしてしまったのだろうか。決勝戦とは思えない緊張感のなさだ。


 一方。

 西側から現れたのは……カジュアルで動きやすそうな服の女。

 長い髪をポニーテールでまとめており、エルフ特有の尖った耳が目立つ。なかなか珍しいオレンジ色の髪が、歩くたびにユラユラと揺れていた。


 そして何よりも気になるのは、顔を隠すために仮面をしているということ。

 あれは狐をモチーフにしているのだろうか。戦闘時に仮面なんて付けていたら、邪魔でしかないと思うのだが……そこまでして自分の顔を隠さないといけない理由が分からない。


 ライカが言うには、彼女もティアラと同じくらい圧倒的に勝ち進んできたようだが、仮面のハンデを考慮するとその実力の高さが伺える。

 彼女が何者なのか、ライカはまじまじと観察していた。


「変わった人ですね……」

「顔を見られたくないのかしら? 名前も匿名だし。レインは知らないの?」

「見覚えがある……ただ、あの人がここにいるなんて考えにくいんだ」

「え⁉ だれだれ⁉」


 実は、レインには一人だけ心当たりがある。

 というか、オレンジ色の髪でエルフと言ったらあの人しか思い浮かばない。


 ただ、その人物はこんなところにいるはずがない人物であり、戦いとは遠い存在のはずなのだ。

 レインとしてもできれば人違いであってほしいため、勇気を出してその人物の名を試しに呼んでみる。


「――ミント女王!」


 レインがその名を呼ぶと、仮面の女はビクッと肩を跳ねさせた。

 そして、名を呼んだレインの方にドキドキと振り返る。

 ああ、レインの予想はどうやら当たっていたようだ。


 レインが頭を抱えていると、彼女はいつものようにヘラヘラと笑いながら仮面を外す。

 するとやっぱり、見慣れた顔がレインに向けて手を振ってきたのだった。


「レ、レインさん! あの人もしかして!」

「……そうだ、ミント女王だよ」

「ミント女王って、あのエルフの国の女王様? ポニーテールだったから気付かなかった」


 まさかあのミント女王が闘技場で戦っていたなんて。国のエルフたちが知れば、大慌てで引きずって帰るはずだ。

 何か怪我でもしてしまえば大事になる。ミントは自分の立場というものをもうちょっと理解してほしい。

 ……いやいやそんなことより、「あの人ってそんなに強かったの?」という感想がレインの中で出てくる。


 ミントの印象は、お淑やかで、優雅で、品が合って、ちょっと変わっている。そんなイメージ。

 戦いというイメージは、何回も会ったことがあるレインでも考えたことがない。

 それでも、今回の結果を目にしては信じないといけなくなる。


「どうしてこんなところにいるのでしょう」

「知らないよ。ただ、このまま戦ったらマズいことになる」


 この状況に危機感を覚えたレインは、大変なことになる前にティアラに忠告する。


「ティアラー! ミント女王には絶対怪我させちゃダメだぞ!」


「……む? ミント女王だと? どこかで見たことがあると思ったが、もしかして貴様」

「いやぁ~、バレちゃったみたいだね。しっかり変装してたつもりだったんだけどなぁ」


 ここでようやくティアラも目の前の女の正体に気付く。

 仮面を外して素顔を見てもまだピンときていなかったが、名前を聞いてやっと思い出した。

 エルフの国の女王だ。これは確かにボコボコにしたらマズい。


「久しぶりだな。我のことを覚えているか?」

「もちろん。まさかこんなところで再会するなんてね」

「できればもっと落ち着いたところで再会したかったものだ」


 ティアラはクククと笑い、ミントはフフフと笑う。

 前回会った時はあまり喋れなかったが、こうして対面してみると似たところがあるのかもしれない。

 レインたちが驚いているように、ティアラもミントが戦うというイメージは持っていなかった。

 エルフという種族もそうだが、戦いに必要不可欠な魔力や殺気を一度も感じなかったから。


 つまり、ティアラはミントに戦闘能力があることを見抜けていなかったということになる。

 ティアラの経験豊富な目であれば、多少観察すればその者の実力などを簡単に推測できる。

 そんなティアラの目を相手に、ミントは自分の実力を隠し通したのだ。


「実力があるのなら隠さなくても良いだろうに。この様子だと、エルフの民も貴様の実力に気付いていないのではないか?」

「あまり強かったら……何というか可愛くないじゃないか。男は弱弱しい乙女ほど守ってやりたくなるのだからさ」


 ふーんとティアラ。

 正直なところあまり共感できない。やっぱり変なヤツだなぁと心の中で思う。


「その割には闘技場の参加者をボコボコにしていたらしいが?」

「身体が鈍ったらいけないから、軽い運動のつもりで参加してみたんだけどね? そしたら意外と熱が入ってしまったよ。まぁ、せっかくの魔界祭というわけだし、これも一興ということなのかな」

「……熱が入るというのは良いのだが、この戦いは棄権した方が身のためだぞ。もちろん手加減はするつもりだが、万が一怪我をされたのでは困るからな」


 ティアラはミントの身を案じてあらかじめ忠告をしておく。

 もしミントに怪我をさせてしまったら、レインが何というか。ティアラにも手合わせしてみたいという気持ちがないわけではないが、そんな軽いノリで戦っていい相手ではない。


 ミントはエルフの代表、ティアラも竜人族のトップ。ティアラとミント個人だけの問題ではなくなるのだ。

 言い換えるなら「戦争」という言葉もギリギリ当てはまる。

 竜人とエルフの関係が悪くなっても困るし、ティアラとしても穏便に済ませたい。


 まったく、どうして自分がここまで気を遣わないといけないのか。

 ティアラは、らしくない言動にため息をつく。

 ただ、ミントの反応は予想していたものとちょっと違った。


「うーん。せっかくの決勝で観客が見ているというのに、そんなことしたら冷めてしまうかな。こちらとしても竜姫の力にはとても興味があるんだよね」

「…………何だと?」


「こんなところで棄権したら、もったいないと御神木様に怒られてしまうよ。手加減も必要ないと言っておこう。もちろん怪我をしてもボクの責任だし、恨みっこなしだ」

「……クク、面白いことを言う。そこまで言うのなら望みを叶えてやろう」


 ミントは半歩引いて右手を前に出す。

 ティアラはその行動の意図が手に取るように分かった。

 これはミントなりの構え。戦いを始める合図だ。


 本人が手加減は要らないと言っているのなら、ティアラはそれに応えるまで。

 ティアラの本能に火が付いてしまった。



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