人間たちの反撃
「国王様! 大変です! 何者かによって我が国が攻撃されました!」
「何だと!? さっきの音はそれが原因か!」
人間界。
国王の部屋に、慌てた様子の従者が飛び込んでくる。
そして、国王が発言を許可する前に勝手に喋りだし、今起こっていることを早口で伝えた。
本来なら不敬だと処刑されるかもしれない行為であるが、それを咎める者は誰もいない。
この部屋にいる誰もが、衝撃的な内容に驚いて余裕がなかったからだ。
「確認されたのは炎魔法で、貴族たちに多大な被害が出たようです!」
「炎魔法だと……? 誰が放ったのだ?」
「恐らく人間界の外から放たれたものです……南からの攻撃でした」
「南か……南にこれほどの距離を攻撃できる存在がいたか?」
国王は頭を回転させる。
まずは襲撃してきた相手を特定しなければいけない。
南の方角というだけで、かなり数は限定されるはずだ。
南は脅威的な敵の数が少ない。
それにそれ程の炎の魔法を使ったという情報があれば、もう答えは出たようなものである。
「国王様――まさか、竜姫ではないでしょうか……」
「そう考えざるを得ないな……」
南にいる脅威的な存在は――ただ一人だけいた。
竜姫。
かつて人間界の兵を何人も殺してきた存在である。
彼女は人間だけに拘わらず、自分にたてつく者を全て退けてきた。
だからこそ、南の地方で彼女は絶対的な頂点として君臨しているのだ。
最近は人間界に干渉してこなかったため気にしていなかったが、遂に対立する時がきたらしい。
「もしかして宣戦布告のようなものでしょうか……?」
「そう考えても大丈夫だ。我が国は竜姫を刺激するような事は何もしていない。あっちが先に仕掛けてきたのだからな」
「となると――」
「やられたまま黙っているわけにはいかないだろう。こちらも反撃だ」
国王は地図を取り出し、南の地方に大きな丸を書く。
それは、ここに攻撃を仕掛けるという合図だ。
これまでは放置していた問題であるが、今こそ解決するため動く。
「心配するな。相手はたった一人だ。こちらが本気になればすぐに終わる」
「なるほど……」
「兵を準備させろ。国民にこれ以上被害が出ないようにな」
「はっ!」
国王が指示を出すと、従者はすぐに部屋から駆け出していく。
これで南の問題は解決するだろう。
……これからは困惑している国民を落ち着かせなければいけない。
竜姫を始末したとしても、まだまだ問題は山積みである。
「国王様、面倒なことに巻き込まれましたね」
「まったくだ」
「それにしても、どうして急に竜姫はこんなことをしてきたのでしょうか」
「化け物の考えを理解するのなんて不可能に近い。誰かに指示されたわけではないだろうがな」
そう言うと、国王は大騒ぎしている国民たちを窓から眺めたのだった。