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優勝賞品とは?

お久しぶりです。

書き溜めあるので、週1~2くらいで投稿していきます。


書籍版も出版されていますので興味がある方はどうぞ。

コミカライズ企画も進行中です。


「レイン、もうすぐ我らのところにパレードが来るぞ。そこじゃ見にくいだろう?」

「ライカさんもこっちです! 早くしないと通り過ぎちゃいますよ!」

「ああ、もう来たのか。そっちに行くよ」

「アタシも行くー」


 そこで。

 パレードを見るために少々場所を移動していたティアラが声をかける。

 まだ始まったばかりであるが、もう自分たちのところにまで来たらしい。レインは慌てて立ち上がった。


「うおお。凄い迫力だな」

「引っ張っている魔獣がかなり強いからね。まあ、アルナの使役する魔獣ほどじゃないけど」

「誰があんな魔獣を操ってるんだ? 只者じゃないのは確かだけど」

「さあ? アルナわかんない」


 アルナは頭の上に「?」を浮かべる。

 流石のアルナでも、魔界のことを全て知ってるわけではないらしい。


 興味が完全にないわけではないだけまだマシか。

 アルナは興味のないことに対してはとことん無関心であるため、今回のように気にかけているだけでも一安心だ。


「このパレードって、最終的にはどこに向かうんだ?」

「えーっと……確か闘技場に辿り着くはずだったと思います」

「闘技場? そんなところがあるのか?」

「はい。結構大きなところで、参加者も観戦者も多かったはずですよ」


 闘技場。

 またもや初めて聞く場所だ。人間界にもあるにはあったのだが、レインは一度しか行ったことがない。

 人間同士の戦いでも、かなり壮絶で大迫力だった記憶がある。それが魔界で異種族の戦いになるのだから、迫力は数十倍にもなるはず。とても面白そうだ。


「それに、優勝した時の景品も毎回豪華だったんですよね」

「我が昔優勝した時は、天使の羽を織り込んだ羽織を貰ったぞ。すぐにレインに売ってしまったが」

「え!? あれって闘技場の景品だったのか!?」


 意外な真実に、レインはついつい大きな声を出した。

 そういえば、ティアラからとてつもなく上質な羽織を買ったことがある。

 恐らく、ティアラから買い取ったもので一番高価なものだ。


 あの時は、どうしてティアラがこんなものを持っているんだろうと不思議に思っていたが、こういう事情があったらしい。

 そう考えると、せっかく優勝したのにすぐに賞品を手放してしまうティアラに驚く。


 そして、優勝賞品を大奮発する闘技場にも驚いた。

 人間界なら、優勝してもせいぜい一年分の食事券くらいだろう。


「やっぱり魔界は凄いな……ちなみに、今回の優勝賞品は何なんだ?」

「今回は正賞が猫一匹、副賞でオリハルコン一キロを筆頭に希少なアイテムがあるみたいね」

「ね、猫? どうして猫なんか――人間界には山ほどいるぞ!」


 正賞と副賞の落差に、レインは突っ込まずにいられない。

 レインからしてみれば、猫一匹とオリハルコンの価値なんて比べ物にならなかった。

 分かりやすく値段で比べるなら、猫が数万匹いてやっとオリハルコンの欠片に並ぶくらいだ。


 どうしてこんなアンバランスな組み合わせになっているのか。

 レインはライカに聞いてみる。


「知らないの? 人間界にはたくさんいるかもしれないけど、魔界にとって猫は超希少な動物なのよ? 無理やり連れてきても、魔界の空気に耐えられなくて死んじゃうから、適応できている猫ってだけでとんでもない価値なの」


「そ、そうなのか」

「アタシも喉から手が出るくらい欲しいわ……あんなに可愛いペットなんて他にいないでしょ? 魔物はペットにしようにも不細工なやつばっかりだしさ」


 ライカは猫について饒舌に語る。まぁ言っていることは分からなくもない。レインも子どもの頃はペットに憧れたものだ。

 でも、まさか魔界では猫がこんなに希少な動物になっているとは思わなかった。


 人間界でも宗教によって特定の動物を神のような扱いをする場合があるが、それと似たようなものを感じる。

 それでも闘技場の優勝賞品とは信じられないが。


「オリハルコンが副賞扱いっていうのも凄いな……」

「そんなに凄い価値があるの? 私は猫ちゃんの方が凄いと思うけど」

「価値があるなんてレベルじゃないぞ……」


 オリハルコン一キロ。

 ライカはこの価値をよく分かっていないようだが、どう説明したものか。

 あまりにも凄すぎて、上手く伝える例えが浮かんでこない。


 人間界なら百グラムで一生遊んで暮らせるが、ライカにとっては分かりにくい説明であろう。

 魔界で例えるなら……小さい国と同価値とか?

 猫数万匹でオリハルコンの欠片以下だよと伝えると、驚きでどこかに飛んで行ってしまいそうだ。


「よく分からんが、オリハルコンが欲しいのか?」

「そりゃ、欲しいけど……」

「それなら取ってきてやるぞ。どうせ余裕だろうからな」


「え? そんな唐突に参加できるようなものなのか?」

「細かい手続きとかは必要ないですからね。自分の名前を書くだけです。もちろん時間の制限はありますが」


 ティアラは指をポキポキと鳴らす。

 どうやら参加自体はできるようだが……こんな何も考えずに決めてもいいのか。

 怪我でもしたら大変だし――と、レインは考えそうになるもそれを辞める。


 ティアラに限ってそれは有り得ない。

 周りを囲まれて多対一なら話は違ってくるが、一対一の勝負ならもう勝ちが決まっているようなものだ。

 ティアラが負けるビジョンがどうしても見えてこなかった。


「じゃあ……頼んでもいいか?」

「うむ。引き受けたのだ」


 その代わり――と、ティアラ。


「オリハルコンの一欠片だけ貰うぞ」

「え? 何に使うんだ?」

「……指輪とか」


 ティアラはレインにしか聞こえない声で呟く。

 もちろんレインがそれを断ることはない。というか、断れるわけがない。逆にレインが一欠片譲ってもらうだけで満足だ。


「もちろん大丈夫。勝てるように祈っとくよ」

「心配するな。我が負けることなどない。現に一度優勝しておるしな」

「……一つ気になったんだけど、優勝したことがあっても参加ってできるのか?」

「三回目までは大丈夫なはずだ。三回優勝すると殿堂入りになってしまうが」


 ティアラは親指、人差し指、中指で三という数字を表す。

 少し癖の強い数え方だが、ひとまずは参加できることに安心だ。


 ティアラが闘技場に参加できるのはあと二回。

 そんな貴重な機会を自分のために使ってくれるのだから、感謝しきれない借りである。


「ちなみに参加の受付時間って……」

「もうそろそろじゃない? 急がないとマズいかもよ」

「はぁ……それじゃあ行ってくるのだ。レインたちは後から来てくれ」


「俺たちも付いて行かなくて大丈夫なのか?」

「予選があるかもしれぬしな。パレードもまだ終わっておらぬことだし」


 ティアラは首をゴキゴキと鳴らす。

 彼女なりの気合の入れ方。いつか本当に折れてしまいそうで少し怖い。

 予選があるかもしれないとのことだが、過去の優勝者も予選に参加しなくてはいけないのだろうか。

 もしそうなら、予選でティアラと当たることになる者がかわいそうである。予選が終わる頃には、もうティアラの優勝が決まっていてもおかしくない。


「じゃあ数時間後。決勝で待っておるぞ」

「それって対戦相手に言うことなんじゃ――あ」


 レインが気になったところを指摘していると。

 ティアラはそんなことなど無視して屋上から飛び降りる。

 相変わらずダイナミックな行動。

 きっと闘技場でもこの豪快さを見せてくれるであろう。とても楽しみだ。


「…………ねえ、レイン。アタシもティアラのところに行ってくる」


 ティアラの姿が消えて十数秒。ライカは迷ったような素振りを見せながらも、一つ大きな決心をする。

 それはティアラを追って闘技場に行くというもの。


 普段のライカとティアラの間柄を考えると、ティアラがいなくなって清々したと思いそうなものだが――。

 現実はその逆らしい。かなりティアラのことが気になっているようだ。


「意外だな。ライカはティアラがいない方がいいのかと」

「――ちがっ! 別にティアラがいない方が気楽だけど、ライバルとしてアイツの実力を見ておきたいというか」

「その理由もライカらしいといえばライカらしいな」

「フン。分かったことを言うんじゃないわよ」


 照れているのを隠すように、ライカは顔をプイっと背ける。

 ティアラが関係してくると、感情の分かりやすさがいつもの三倍増しだ。

 そして、いつも以上に素直じゃなくなる。見ていてとても面白い。


「とにかくアタシも行ってくるから」

「うん、分かったよ」

「アンタも遅れないようにするのよ」


 ライカはそう言うと、先ほどのティアラと同じように屋上から飛び降りる。

 竜人族は高いところから飛び降りなければいけない決まりでもあるのか。それともそういう習性なのか。何かと共通点の多い二人だ。


「ライカさんも行っちゃいましたね」

「アルナはもう少しここにいる。レインは?」

「俺ももうちょっとここにいるよ。リリアはどうする?」

「レインさんにご一緒します!」


 アルナは、元々ラルカが座っていたところにモゾモゾと移動する。

 そして、その隣にレインを座らせて、コテンと体重を預けた。

 当分ここから動く気はないらしい。こっちはこっちでアルナらしい選択だ。


「あ! 踊り子さんが手を振ってくれましたよ!」

「踊り子に手を振られた人は幸せになるんだって」

「へえー、そういうのもあるのか」


 こうしてレインたちは、パレードが終わるまではしゃぎながら過ごすのであった。



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