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ライカとの再会


「私たちも行きましょう、アルナさん」

「うん」


 リリアも同じようにアルナの手を取り、空から城へと向かう。

 ティアラと違いがあるとすれば、リリアの方が静かでゆったりとした飛行である点だ。

 リリアの性格が現れているようで、とても丁寧で上品な動きである。


 レインとしてはぜひともリリアと同行したかった。

 が、それを今さら言っても仕方ない。

 恐怖で目を瞑りつつ、レインはズシンと屋上に着地する衝撃に耐えていた。


「んー? 誰もいないではないか。どういうことだ?」

「ほんとだ。まだ誰も来てないみたいだな」


「お待たせしまし――あれ? 意外と空いていますね」

「アルナたちしかいないの?」


 無事に屋上へ到着する四人。

 本来なら見物客でぎゅうぎゅうになるであろう場所は、全くと言っていいほど人の姿が見えなかった。

 今までならありえない光景。


 ティアラたちが知らない間に、この場所は立ち入り禁止にでもなってしまったのだろうか。

 ……もしそうでも、ルールを守らない輩が大量にいそうなものだが。

 とにかく、この城の屋上はかなり奇妙な空間になっている。


「ん? でも、そこに誰かいたみたいだよ?」

「うむ。明らかに誰かいたな」

「席を外しているのでしょうか。それならすぐに帰ってくると思いますが」


 アルナが見つけたのは、屋上の真ん中にドンと置かれている座布団。

 パレードを見るにあたって一番楽しめる位置だ。

 どうやら先客が一人いたらしい。


 その座布団の周りには、大量の酒が並べられていた。

 それも、魔界にある中ではかなり癖が強いものばかり。


 度数がとてつもなく強く、これを飲める種族はかなり限られている。

 もしかしたら、ここに誰もいないのはこいつが追い払っているからなのかも。

 何となくそんな気がしてきた。


「ほお、竜神酒か。なかなか話が合いそうなやつだな」

「ティアラも好きなのか?」

「そうだな。我のお気に入りなのだ。竜神酒を好きなやつに悪いやつはおらぬ」


 ティアラは感心するように置かれている酒瓶を手に取る。

 よく見たら、その酒瓶の中には蛇が丸々一匹入っていた。

 見た目は少し恐怖を覚えるものだが、ティアラいわく美味ということ。


 レインにはとても味が想像できない。

 同時に、いつか飲んでみようという勇気は湧いてこなかった。


「おお、凄いぞ! 竜殺酒まであるのだ! まさかこの二つを組み合わせるとは、なかなかセンスがあるではないか!」

「……そんなに凄いのか?」


「普通はこの二つを一緒には飲まぬからな。良い趣味をしておる。いつかこいつと酒を酌み交わしてみたいものだ――」

「ちょっとアンタたち! アタシの荷物に何してんのよ!」


 ワイワイとするティアラの背中側から、キーーと威嚇するような声が聞こえてくる。

 恐らく元々ここにいた人物。

 荷物を勝手に触ったことで、かなり頭に来ているらしい。


 四人は一斉にその声の主の方を向いた。


「まさか荷物を盗もうってわけじゃないでしょうね! ぶっ殺すわよ!」

「ち、違うんだ! 俺たちは盗む気なんかなくて――」

「問答無用! アンタも灰にしてやるわ!」


 目の前のピンク髪の女が、右手に炎をまとわせる。

 言い訳すらさせずに攻撃する気だ。

 かなり好戦的な性格。


 もし攻撃してこなかったとしても、まともに話し合いができるとは思えない。

 酒の近くにいただけで、こうも激昂するものなのか。


 こんな奴が城の屋上にいたのなら、他の者たちが近付こうとしないのも納得である。

 今になって屋上がすっからかんだった理由が分かった。


「――って、あれ? もしかしてレイン?」


 しかし。

 ピンク髪の女の手は、電池が切れたかのようにプツンと止まる。

 そして――レインの名前を呼んだ。


「え? ……ライカ? ライカがなんでここに!?」

「それはこっちのセリフよ! どうしてアンタがここにいるの!?」


 ライカ。

 彼女がレインのことを知っていただけあって、レインも彼女のことを知っていた。

 最近は関わることが少なかったが、数年前は頻繁に取引をしていた間柄だ。


 数年前から彼女は何も変わっていない。

 彼女の種族が竜王だからだろうか。

 寿命が果てしなく長いため、たった数年で見た目が変化することはないらしい。


「それにティアラ! アタシの酒に触らないでちょうだい! アンタが触ると不味くなるでしょうが!」

「たわけ。こんなことで文句を言うとは、竜王の器も大したことはないな」

「ぬぅあんですって!?」


 次に、ライカの視線はティアラにへと向いた。

 どちらかと言うと、レインよりもこっちの方が無視できない問題だ。

 ティアラとライカは、犬猿の仲と言っても過言ではないほどの不仲。


 竜姫と竜王。

 どちらが竜として上なのか――それを何百年もずっと争っている。

 もしここにレインがいなかったら、戦いが起こっていてもおかしくない。

 それほどまでに二人の間には大きな問題がある。


「ティアラさん、この御方とお知り合いなのですか?」

「うむ。知り合いも何も、子どもの頃はずっと一緒に育てられたのだ」

「幼馴染というやつでしょうか? 素敵ですね!」


「冗談じゃない。今すぐ殺したいくらいだぞ」

「アタシだってそのつもりよ! 馬鹿ティアラ!」


 何とか場を和ませようとするリリアのセリフに、ほぼ同時のタイミングでティアラとライカが食いついた。

 息が合っているというか何というか。


 お互いに一歩も引こうとしないのがとてもよく似ている。

 竜王と竜姫のプライドがあるのだろう。


「と、とにかくさ。ライカもパレードを見に来たんだろ? それなら一緒に見ないか?」

「アタシは……レインが言うなら」

「よし。ティアラもいいだろ?」

「フン。本当は嫌だがな」


 ライカは少し悩んで、仕方なくため息まじりに頷く。

 頼むから喧嘩はしないでくれというレインの思いが伝わったのか。

 分からないことだらけであるが、ようやく冷静になることができた。


 それに対してティアラ。

 まだまだ納得できていない様子だが、ひとまずは一旦休戦といったところ。

 意外とこういう時には素直な二人である。


 それも、この場にレインがいるから。

 レインを自分たちの争いに巻き込んで怪我させるわけにはいかない。

 人間は脆弱な生き物だ。


 軽く体が当たるだけで、死に至ってしまうことだってある。

 レインの近くで喧嘩できるわけがなかった。


「…………」

「…………」


「ライカさん……でよろしかったですか?」

「ん? そうだけど、どしたの?」

「私はリリアと申します。ティアラさんのお友達です」

「リリア? もしかして吸血姫の?」


 気まずくなった空気。

 この空間で浮いているライカに声をかけたのは、気遣いができるリリアだった。

 座布団の上で胡坐をかいているライカの隣に、ちょこんと正座で近付いて行く。


「もしかして私のことを知ってくださっているんですか!」

「もちろん。アンタめちゃくちゃ有名人よ」

「なんだか恥ずかしいです……関わろうとしてくれる人が少ないので、自分では気付きませんでした」


 リリアは少し頬を赤くして俯いた。

 純粋に自分に知名度があることを恥ずかしがっているようだ。


 普段の生活で褒められることがないため、このようなことを言われると照れくさい気持ちになる。

 感謝するのも変だし、別に嫌なわけでもない。

 名前を付けたくなるくらいに複雑な心境だった。


「じゃあアルナは? アルナのことも知ってる?」

「アルナ? アルナっていう名前なら知ってるけど、多分アンタのことは知らないわね。最近の親は、魔王アルナに憧れて子どもにもそう名付けるのかしら」


「魔王アルナは私だよ。知っててくれて嬉しい」

「え?」


 ライカの表情は、その言葉を聞いた瞬間にピキッと引きつる。

 確かに目の前の女の子は魔王アルナと名乗った。

 普通なら全く笑えないジョークとして流すのだが、今回はちょっとわけが違う。


 今回は、周りにティアラとリリアとレインがいるのだ。

 この三人がいることで、この言葉にも信憑性がグングン増してくる。

 だが、それにしても魔王アルナとは信じられない。


 ライカが知っている情報だと、魔王アルナはなかなか外の世界に姿を見せない存在。

 魔界祭にもほとんど顔を出していなかったという話だ。


 ……そもそも、レインが魔界祭に来ていること自体がイレギュラーであるため、魔王アルナがいてもおかしくはないのだが。

 ラルカはレインの方を見た。


「レイン、この子の言ってることは本当なの?」

「うん。魔王アルナで合ってるよ」


「アンタ……なんてやつ連れてきてるのよ。当たり前のように魔界祭にも来てるし」

「ちょっと色々あってな」


 ライカは恐ろしいものを見るかのような目でレインを見つめる。

 だが、それも当然。


 自分の知人が、魔王、竜姫、吸血姫を連れまわしていたら、驚くを通り越して呆れてしまうのも無理はない。

 しかも、レインが魔界祭に来ている理由も聞かされておらず、不思議なことばかりだ。


「ここにビッグな取引相手でもいるの?」

「そういうわけじゃないよ。今日は普通に楽しみたいと思ってるかな」

「アンタも丸くなったわね。昔は一日中仕事で駆けずり回ってたのに」


 ライカは失望とまではいかないものの、残念そうな表情を見せた。

 ライカが知っているレインは、毎日取引のためにこの世界を走り回っていた男。

 寝ていなかった日も多かったはずだ。


 どうやったのかは知らないが、一夜にして数百キロ先の場所と取引をしたという逸話まである。

 それで自分やティアラなどとも信頼関係を築いたのだから、他の人間とはわけが違う。

 ライカが好きだったのはその頃のレインであるため、少し変わってしまった今のレインに気持ちが高まらない。


「昔は仕事一筋だったからなあ。今は人間たちに狙われてるし、目立たないようにヒソヒソ続けていく予定だよ」

「は? ちょっと待って。人間に狙われてるってどういうこと? 何かやらかしちゃったの?」


 ライカは聞き逃せない一言に一瞬で食いついた。


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― 新着の感想 ―
[一言]  この魔王を始め、追放された理由を知って4人が激怒する未来しか見えない。エルフの王国は、4人の重要人物を知らない方が、国家のトップとしては心臓にいいのかもしれない。
[一言] 遣らかしたのは人間(馬鹿)の方なんだけどなw
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