キャンディ
「おお、レイン君じゃないか。またいつものやつかい?」
「はい。今回もお願いします」
「そろそろ来る頃かと思って準備してたんだよ。ほら」
菓子屋のエルフから袋に入った飴を貰うレイン。
顔もとっくのとうに覚えられており、買う個数まで把握されている。
エルフの国に来るたびにこの店には寄っているため、当然と言えば当然かもしれない。
それもこれも、隣にいるアルナが原因だ。
「レイン……! これがあのキャンディ?」
「そうだな。いつもここで買ってるんだ」
「何だか嬉しい」
肝心のアルナは、大好きなキャンディが作られている場所を見て感激していた。
つま先で背伸びをして、店の奥をなんとか覗こうとしている。
こんなに目を輝かせているアルナを見るのは初めてかもしれない。
魔王城から出ることが珍しいため、外の世界を見る経験が少ないのだろう。
このような反応になるのも納得だ。
「あら、今日はレイン君一人じゃないんだね。妹さんかい?」
「いえいえ。そういうのじゃないですよ」
「そうかそうか――お嬢ちゃんはキャンディ好きなのかい?」
「うん。大好き」
「おお、それは良かった。ならお嬢ちゃんにおまけで一つあげるよ」
そう言って、アルナは一つのキャンディを受け取る。
本来の物に比べたら少し小さいが、そんなことはあまり関係ない。
レイン以外の誰かから何かを貰うということ自体が嬉しいようだ。
アルナはいつものようにバリボリと砕きながら味わう。
「良かったな、アルナ」
「うん」
「店主さんもありがとうございます」
「いいのいいの。いつも贔屓にしてもらってるからね」
それじゃあ――と、レインはポケットの中に手を入れた。
「お代はこの国の金貨でいいんでしたよね?」
「そうだねえ。俺が宝石とか貰っても困るからなぁ」
レインはそれを聞くと、ポケットの中から一枚の金貨を取り出す。
この国の金貨は、常に持ち歩いていると言っても過言ではない。
その一つの理由として、金貨ではないとこの国で買い物が満足にできないからだ。
他の国であれば、宝石などと商品を交換するケースも十分にある。
だが、この国のエルフは宝石などにあまり興味を持っていないため、単純な金貨で取引をするしかなかった。
「いつも悪いねえ」
「いやいや、金貨の方がお互い楽ですから」
レインと店主がやり取りをしている横で、アルナとおまけに二人がキャンディを袋から取り出す。
そして。
二つ目三つ目と、アルナは口の中に入れ続けていた。
レインが注意しておかないと、ここで全部食べ尽くしてしまいそうだ。
アルナに声をかけようとレインが振り向く。
「――あうっ」
その時。
何者かにぶつかられたアルナは、手からこぼれる形でキャンディを地面に落としてしまった。
いくら魔王と言えど、完全に気を抜いている時は隙があるらしい。
アルナはぶつかってきた存在の方を睨む。
――と、そこには、先ほど出会ったばかりのエルフの男二人がいたのだった。




