魔界祭?
「はあ、災難だったな」
「あんなに正面から馬鹿にされたのは初めてです」
レインはやれやれと呟く。
まさかこの国で絡まれそうになるとは思ってもいなかった。
どの国にも一定数はあのような輩がいるらしい。
だが、それでも人間界に比べればまだマシだ。
数も面倒くささも人間界の方が優に勝っている。
「我らを知っていたら、まず普通の奴は目を合わそうともせぬからな。珍しい体験ができたのだ」
「確かに、魔界祭の時に自己紹介したら誰も話しかけてくれませんでしたし」
「アルナも大変だった。みんな逃げていくから」
「我もずっと一人だったな」
三人はとある祭の話で盛り上がる。
盛り上がる内容が一人ぼっちだったというのは少し悲しくもあるが、三人とも笑い話として語っているため良いのかもしれない。
この三人の正体を知って、それでもなお関わろうとする存在はいるのだろうか。
レインも商人でなかったら、わざわざ関わろうとはしていなかったであろう。
だからこそ、さっきの男のような存在は、彼女たちにとって新鮮だったのだ。
「リリア、魔界祭ってなんだ?」
「その名の通り、魔界で行われる祭りのことですね。色々な種族が集まるので結構楽しいですよ」
「そんな祭りがあったんだな。いつか行ってみたいかも」
「わりとすぐ先にあるよ。レインも行く?」
「え、本当に俺も行っていいのか……?」
「うん。人間ってことがバレなきゃ大丈夫だと思う。まあ、バレてもアルナが守ってあげるけどね」
魔界祭の情報がどんどんと集まる。
タイミングが良く、近いうちにそれは行われる予定らしい。
本来なら人間であるレインが参加することは禁じられているらしいが、アルナの口ぶりだとそこまで難しい話ではなさそうだ。
「レインが行きたいなら連れて行ってやるぞ。我も久しぶりに顔を出すとするか」
「私も久しぶりに行きたくなりました。一人にはならないように、みんなで行きたいです」
レインが参加を決める前に乗り気になる二人。
ここで断ったとしても、無理やり連れて行かれることになるはず。
レインはまだ悩んでいる段階であったが、もう断ることができなくなってしまった。
「とりあえずキャンディを買い終わったらゆっくり考えるよ――ほら、あそこの店」
話が盛り上がっているうちに、いつもの店が見えてくる。
おお――とアルナも興味津々だ。
そろそろ足も疲れを感じてきたため、ここで休憩しておきたい。
休憩――そして魔界祭の計画。
レインはトテトテと走り出すアルナを追うこととなった。




