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48/82

大人



「レイン、女王ともっと話さなくて良かったの?」


 レインがいつもの飴を買いに行く道中。

 後ろを付いてきているアルナが、不意に声をかけてきた。


 自分のせいで、レインの話す時間がなかったと考えているのだろうか。

 確かにミントと話す時間は少なかったが、決してアルナのせいというわけではない。


 仮に、アルナのせいで話す時間が短くなったとしても、レインが怒る理由は何一つなかった。


「大丈夫だよ。それに、話し足りないとしたらあの人から俺たちのところにくると思う」

「え? 女王が自ら来るの?」


「あの人ならそうするだろうな」

「変わった人なんだね」


 アルナは意外そうな表情を見せる。

 国を治めている女王が、自分から人間のところに向かうなんて考えられない。


 それも重要な用事ではなく、ただ話したいからという理由で。

 もしレインの言っていることが本当なら、正真正銘の変人だと言っていいだろう。


「アルナも十分に変わってると思うけどな」

「なんで? アルナは普通だよ?」

「そ、そうか……」


 さも当たり前かのように言うアルナに、レインはぎこちない笑みを見せる。

 普通から一番離れていると言っても過言ではないアルナだが、それをレインは正直に伝えるべきなのか。


 ……レインには分からない。

 ただ、お前は普通じゃない――とは言いにくかった。


 そんな風にレインが迷っていると、どこからか自分たちに向けられた声が聞こえてくる。


「おいおい、何だよあのちんちくりん。エルフじゃないよな?」

「旅人じゃないか? にしては荷物が少ない気がするけど」


 それは、少なくとも自分たちを褒めてはいない言葉。

 いや、馬鹿にされていると言っていい。


 レインの視線の先にいたのは、自分と同年代くらいの見た目をしたエルフ二人だった。

 エルフではないレインたちが気になっているようだ。


 恐らくわざと聞こえるように言っている。


「レイン、ちんちくりんってどういう意味?」

「あんまり良い意味じゃないってのは確かだな」


「レインさんどうしますか? 注意しておきましょうか」

「それでは生温いであろう。ああいうのにはしっかり力で分からせねば――」

「こらこら。問題は起こしちゃダメだからな」


 ポキポキと指を鳴らすティアラを、レインは何かが起こる前に制止する。

 レインがしっかり言っておかないと、こういう時のティアラは何をするか分からない。


 ……基本的には取り返しのつかないことであるため、この行動で正解なはずだ。


「じゃあどうするのだ、レイン」

「無視でいいよ。ああいうのはどこにでもいるから」


「おお、レイン大人……!」

「……我は納得してないがな」

「まあまあ、ティアラさん」


 レインは不完全燃焼気味のティアラの手を取って連れて行く。

 できるだけあのような輩とは関わらない方がいい。

 

 特にティアラたちが一緒にいる時はなおさら。

 レインが今までの人生で導き出した答えである。


「じゃあ行くぞ」


 レインは、最後にチラリと男たちを見て歩き出した。

 これで問題は起きないはず。


 そう思っていた。

 だが……レインは後に考えが甘かったと知ることになる。




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― 新着の感想 ―
[一言]  国際問題になりそう。
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