大人
「レイン、女王ともっと話さなくて良かったの?」
レインがいつもの飴を買いに行く道中。
後ろを付いてきているアルナが、不意に声をかけてきた。
自分のせいで、レインの話す時間がなかったと考えているのだろうか。
確かにミントと話す時間は少なかったが、決してアルナのせいというわけではない。
仮に、アルナのせいで話す時間が短くなったとしても、レインが怒る理由は何一つなかった。
「大丈夫だよ。それに、話し足りないとしたらあの人から俺たちのところにくると思う」
「え? 女王が自ら来るの?」
「あの人ならそうするだろうな」
「変わった人なんだね」
アルナは意外そうな表情を見せる。
国を治めている女王が、自分から人間のところに向かうなんて考えられない。
それも重要な用事ではなく、ただ話したいからという理由で。
もしレインの言っていることが本当なら、正真正銘の変人だと言っていいだろう。
「アルナも十分に変わってると思うけどな」
「なんで? アルナは普通だよ?」
「そ、そうか……」
さも当たり前かのように言うアルナに、レインはぎこちない笑みを見せる。
普通から一番離れていると言っても過言ではないアルナだが、それをレインは正直に伝えるべきなのか。
……レインには分からない。
ただ、お前は普通じゃない――とは言いにくかった。
そんな風にレインが迷っていると、どこからか自分たちに向けられた声が聞こえてくる。
「おいおい、何だよあのちんちくりん。エルフじゃないよな?」
「旅人じゃないか? にしては荷物が少ない気がするけど」
それは、少なくとも自分たちを褒めてはいない言葉。
いや、馬鹿にされていると言っていい。
レインの視線の先にいたのは、自分と同年代くらいの見た目をしたエルフ二人だった。
エルフではないレインたちが気になっているようだ。
恐らくわざと聞こえるように言っている。
「レイン、ちんちくりんってどういう意味?」
「あんまり良い意味じゃないってのは確かだな」
「レインさんどうしますか? 注意しておきましょうか」
「それでは生温いであろう。ああいうのにはしっかり力で分からせねば――」
「こらこら。問題は起こしちゃダメだからな」
ポキポキと指を鳴らすティアラを、レインは何かが起こる前に制止する。
レインがしっかり言っておかないと、こういう時のティアラは何をするか分からない。
……基本的には取り返しのつかないことであるため、この行動で正解なはずだ。
「じゃあどうするのだ、レイン」
「無視でいいよ。ああいうのはどこにでもいるから」
「おお、レイン大人……!」
「……我は納得してないがな」
「まあまあ、ティアラさん」
レインは不完全燃焼気味のティアラの手を取って連れて行く。
できるだけあのような輩とは関わらない方がいい。
特にティアラたちが一緒にいる時はなおさら。
レインが今までの人生で導き出した答えである。
「じゃあ行くぞ」
レインは、最後にチラリと男たちを見て歩き出した。
これで問題は起きないはず。
そう思っていた。
だが……レインは後に考えが甘かったと知ることになる。




