女王の部屋
「レイン、これから女王のところに行くの?」
「そうみたいだな」
「女王が自ら会おうとするとは、とんでもない展開だな」
「あの人はそういう大胆な人だからなぁ……」
レインはふと女王のことを思い出す。
確かにティアラの言う通り、人間をいきなり自分の元に案内させる女王は珍しいだろう。
レインがよっぽど信頼関係を築いているのか。
それとも、女王の警戒心がただただ薄いだけなのか。
何も知らないティアラたちには分からないはずだ。
「女王様ってどのような御方なのですか?」
「その……何というか。変わった人かな」
「まあ、普通の性格なら女王になんてなれないだろうな」
「なるほど。確かにそうかもしれませんね」
リリアは納得するように頷く。
種族をまとめ上げることができる存在同士、共感できるものがあるのかもしれない。
言われてみれば、ティアラもリリアもアルナもどこか抜けているところがあった。
これがトップに君臨できる条件なのであろう。
少なくともレインにはできないことだ。
「女王様にお会いするのが楽しみです。普通に暮らしていたら、絶対に会う機会なんてありませんから」
「いつか手合わせをしてみたいものだ」
「ティアラに言っておくけど、強いから女王になってるってわけじゃないからな」
「む? それなら何故下剋上が起きないのだ? 自分より弱い奴がトップで、エルフは納得できるというのか?」
「それで納得できないのはティアラだけだよ。人間界だって国王が一番強いってわけじゃないだろ?」
「なぬ!? 国王は強くないのか!? どうして自分で攻めてこないのかと不思議だったが……そういうことだったのか」
ティアラの大きな勘違い。
確かにリリアやアルナを見ていたら、トップが一番強い者と思ってしまいそうなものだが、一般的に見たらこの三人が異常なだけである。
魔族だとトップに立つには絶対的な力が必要らしい。
ティアラは下剋上と言っていたが、それほどまでに王の地位を狙う者が多いのだろうか。
陰で命を狙われているのだとしたら、頭脳だけで成り上がることは不可能だと言えた。
「意外なことを聞いたのだ。少し残念でもあるな」
「だから手合わせなんて申し込むんじゃないぞ」
「うむ――」
分かった――と、ティアラが頷いたところで。
案内をしてくれていたエルフが、レインたちの方を見た。
「おい、お前たち。ここから先に女王様の部屋がある。おかしなことをしたら命はないと思え」
「分かってるよ」
そう注意されながら。
レインたちは一歩踏み出したのだった。




