入国
「レイン、何か見えてきた」
「あそこでいいのか?」
「大きな木に囲まれていますね」
「あそこがエルフの国だよ。ここら辺で降りよう」
エルフの国。
狼に乗って移動すること一時間。
ようやくその姿が見え始めてきた。
リリアの言う通り、この国は大きな木で囲まれている。
人間界では考えられないほど自然で溢れた国だ。
「狼に乗ったままじゃダメなんですか?」
「流石にマズいと思う。攻撃されるかもしれないし」
「じゃあ降りる」
レインの指示を聞くと、アルナは狼の背中からピョンと飛び降りた。
それに続いて、ティアラもリリアも背中から降りる。
取引の邪魔はしないという約束であるため、意外と素直な三人だ。
それだけはしっかりと守ってくれるらしい。
「おい、お前たち! そこで止まるんだ!」
そんな四人に向けて、遠くから声がかけられる。
男の声。
国の門からそれは聞こえてきた。
四人は同時にその方向を向く。
「何者だ。何か用か?」
そこにいたのは――エルフの戦士だ。
この国を侵入者から守る存在。
決して無視できる存在ではない。
ティアラたちの顔を見ると、手製の槍を持って近付いてくる。
「レイン、どうするのだ?」
「言っとくけど、攻撃しちゃダメだからな」
「……むう。それくらい分かっているのだ」
ティアラは当たり前のことを言われて不満そうな表情になった。
流石に今攻撃してはいけないということは理解しているようだ。
グリグリとレインの背中に肘が押し付けられる。
「おい、お前たち。侵入者というなら容赦はしないぞ」
「ま、待ってくれ! 俺はレインだ!」
「レイン……? まさか女王様と直接取引をしていると噂のレインか?」
「噂になってたのは知らなかったけど、多分そのレインで合ってるはず」
「それは失礼した。では後ろの三人は誰だ?」
「それは――俺の友人というか……何というか」
レインは言葉を濁す。
変な噂が流れていることに動揺してしまったというのもあるが、三人のことを何と説明するか全く決めていなかったのだ。
正直に魔王と伝えるのも正解とは思えない。
どうしよう……と。
レインが必死に頭を回転させていると、急に目の前のエルフが耳に手を当てた。
『戦士よ。レインたちを通してあげるのです』
「じょ、女王様! 良いのですか……?」
『構いません。後ろの三人もレインの友人であるのは真実でしょう。私の元まで案内してあげてください』
「か、かしこまりました!」
エルフの戦士は女王のいる方角にペコペコと頭を下げる。
今この場で示せる最大限の敬意だ。
そんなことを知らないレインたちは、独り言で誰かに頭を下げているエルフを不思議そうに眺めていた。
「あの……誰と話してるんだ?」
「女王様だ。お前たちの入国を許可してくださった。付いてこい」
「え?」
「やりましたね、レインさん!」
「あ、ああ。よく分からないけど、何とかなったみたいだな」
レインが困惑しているうちに進む物事。
女王がテレパシー(?)で許可を出してくれたらしい。
とにかく入国には成功したようだ。
「今からお前たちを女王の元に案内する。離れるなよ」
「まったく。偉そうだな」
「ティアラ静かに」
ティアラの小言を注意しながら。
レインたちは女王の元へと向かうことになったのだった。




