出発
「あ、レイン。もう出発できそう?」
「うん。ティアラもリリアもできてるみたいだ」
「そ。なら行こう――って、どこに行くんだっけ?」
「エルフの国。そんなに距離は離れてないと思う」
レインはアルナと合流すると、ポケットの中から地図を取り出した。
自分が取引している国の位置を分かりやすくまとめたものだ。
特製の地図であるため正確さは目を瞑るしかないが、これでも大体の場所は分かるであろう。
アルナはその地図を食い入るように確認する。
それに釣られて、ティアラとリリアも顔を押し付けるようにして覗き込んできた。
「へぇー、そこまで遠くないんですね」
「これなら空を飛ぶ必要もないのではないか?」
「そうだな。ティアラの力を借りるほどじゃないかも」
「アルナのペットでいいなら貸せるよ。足はちょっと遅いけど」
と、アルナは下手くそな指笛を鳴らす。
どうやらそのペットとやらを呼んでいるらしい。
十秒ほど経つと、どこからかドタドタという足音が聞こえてき始めた。
そして、段々とその足音は大きくなっていく。
そろそろかな――と感じた頃には、窓ガラスを突き破って一匹の鎧を着た狼が入ってきた。
「うわっ!?」
「よしよし。いい子いい子」
「なかなかの毛並みだな」
「ここまで大きな狼は見たことないです」
予想外な現れ方をした狼。
それに驚いているのはレインだけだ。
他の三人は、何事もなかったかのように狼に近寄っている。
一瞬だけ自分がおかしいのかと錯覚したが、すぐにそれはないと首を振れた。
この三人が驚かなさすぎるのだ。
ここまで冷静さを保てるのなら、急に攻撃が来ても驚かずにいられるであろう。
「……この狼に乗っていくのか?」
「うん。ギリギリ乗れるはず」
「本当にギリギリだな……」
レインを含めて四人。
かなり窮屈になりそうだが、何とか背中に乗ることができる人数である。
ティアラのことを考えると、この狼で移動は妥協するしかない。
心の中で頑張れと励ましながら、レインは狼に足をかけた。
「レイン、もっと前」
「あぁ」
「レインさん、もう少し前にお願いできますか……?」
「こ、これでどうだ?」
「レイン、あと少しだ」
「……クッ、これで限界だぞ」
レインが押し潰されそうな形で、何とか全員が背中に乗ることに成功する。
かなりキツイ体勢だが、これで我慢しなくてはいけない。
背中にアルナの息が当たっている感覚がある。
レインは何とかアルナの方に振り返った。
「アルナ、出発させてくれ」
「ガウ君、ごー!」
アルナの言葉をかわきりに。
狼――もといガウ君は走り出したのだった。




