約束
「レイン、起きて」
「アルナ……? どうしたんだ?」
「今から出発する。レインがよく取引してる種族の国に行こう」
「き、気が早すぎないか?」
「昨日約束したでしょ」
朝。
眠っているレインが目を開けると、アルナが馬乗りの状態になっていた。
とても強い力。
アルナはレインが了承するまで動く気はないようだ。
振りほどこうとすると逆に痛みを感じる。
こういう時のアルナは頑固なため、レインが何を言っても聞かないだろう。
「レインは約束守ってくれないの?」
「うっ……そう言われたらやるしかないけど」
「ふっふー」
レインはアルナに脅される(?)形で渋々承諾する。
商人として「約束」という単語は聞き逃せない。
約束は絶対守る――これは、レインが商人をしている中での信条だ。
アルナもそのレインの心を理解しているようで、あえて「約束」という単語を全面に押し出した。
そして、それが成功したことで得意げになっている。
「レインならそう言ってくれると思ってた」
「ありがとう……って言っていいのか分からないな」
「これが信頼?」
「ちょっと違う気がする」
アルナの少しズレた感覚に困惑しながらも、レインは出発の準備を始める。
引き受けてしまったことに変わりはない。
仕事を適当にすることはできないため、レインはふぅと気合を入れた。
「あと、アルナも心配だから付いて行くね。ティアラもリリアも行きたいって言ってた」
「三人とも来るのか!?」
「うん。邪魔はしないで見てるだけ。安心して」
「分かったけど……まあいいか」
当たり前のように付け加えられる、とても無視できないような言葉。
三人が付いてくるとなると、レインの行動も多少変わってくる。
邪魔はしないでくれるみたいだが、ちょっとだけ不安だ。
「レインがどんなことしてるのか見たい」
「別に特別なことはしてないけどな。普通に取引してるだけだよ」
「一応聞いておくけど、取引先で恋人は作ってないよね?」
「そんなわけないだろ。はぁ……」
不穏な質問をしながら、アルナはじっとレインの目を見つめる。
数秒。
レインが嘘をついていないことを確認すると、アルナはホッと胸をなでおろした。
もしも「いる」と答えたらどうなっていたのだろうか。
少しレインは気になったが、ロクなことにしかならなさそうだ。
「じゃあレイン、待ってるから」
「はいはい」
下手くそな鼻歌を歌いながら。
アルナは上機嫌なまま、部屋を出て行ったのだった。




