兵士の不幸
「りゅ、竜姫だとぉ……?」
「いかにも。我が竜姫ティアラだ」
ティアラはフフンと鼻を高くする。
それに対して、兵士たちはまだ信じられないというような顔をしていた。
竜姫といえば、人外種の中でもかなり高位の存在。
魔王にも肩を並べると言われている化け物だ。
そんな化け物が、レインと関わりを持っているとは考えにくい。
レインはただの人間であり、商人である。
そんな平凡な人間が竜姫と手を組むなんて、信じろと言う方が無理な話だった。
「竜姫の名を騙る竜人じゃないのか……?」
「でも、あの攻撃力って……」
「確かに異常な攻撃力だったが、竜姫がレインの肩を持つなんて考えられないぞ……」
残された兵士二人は、ティアラを刺激しないように観察する。
もし竜姫というのが本当なら、絶対にこの情報は国に持って帰らないといけない。
でないと、国王はこの化け物に攻撃を仕掛けることになる。
「もう話し合いは終わったか?」
「クッ……この野郎」
「レイン。聞くのが遅れたが、敵なら殺してしまっても構わんのだろ?」
「そ、そこまでしなくても――」
「お前は甘いな。だからこんな目に合うのだぞ?」
「うっ……」
……そうだな、と。
レインは核心を付くティアラの発言に言い返せず、ただ黙って頷いた。
そして、ティアラはレインの反応を確認すると、もう一度兵士たちの方を見る。
「さあかかってくるのだ。兵士なのだろ?」
「な、舐めやがって!」
「後悔させてやる!」
兵士たちは、己のプライドのままに駆けだす。
二人で同時に攻撃すれば、先ほどのような結果にはならないはず。
それに、攻撃に当たらなければティアラの攻撃力に怯える必要は無い。
そもそもティアラに攻撃させる暇さえ与えなければいいのだ。
一瞬で片を付ければいい。
兵士たちなりの勝算がそこにはあった。
あった――が。
「遅いわ、ノロマが」
兵士の体が地面に崩れ落ちる。
避けるどころか、反応することすらできない。
それは兵士だけでなく、レインも同じだった。
ティアラが動いたかと思えば、その瞬間に兵士の死体が二つできあがっていたのだ。
「ティ、ティアラ……終わったのか?」
「うむ。我の活躍、見ておったか?」
「全然見えなかったよ」
「そ、そういうことを聞いているのではない!」
まったく――と、ティアラは話を戻す。
「改めてレイン。どうしてお前がここにいるのだ?」
「話せばかなり長くなるんだけど――」
「ああ、分かった。それじゃあ場所を変えるとするか。我の巣にこい」
「い、いいのか?」
「当たり前だ。久しぶりに会うのだから歓迎するぞ」
ティアラはそう言ってレインの手を取る。
すると、体をドラゴンの姿に変えながら器用にレインを頭の上に乗せた。
ドラゴンの状態のティアラを見るのは本当に久しぶりだ。
この高さからの景色は想像以上に綺麗だった。
少しだけ声が漏れてしまう。
「飛ぶぞ」
と、一言ドラゴンの声で発して。
二人は巣へと向かうことになった。