絶望
「ま、まさか……こんなことになるなんて」
ロックは絶望していた。
化け物たちがあまりにも強すぎる。
吸血鬼ハンターは容易く死んでしまい、兵士たちももう使い物にならない。
死闘になることは覚悟していたものの、ここまで圧倒されるとは。
「……隊長! 我々はどうしたら……!」
「――撤退だ。どうやっても勝てん」
「て、撤退!?」
ロックは苦渋の決断をする。
兵士たちも驚きはするが、文句を言う者は誰もいなかった。
兵士たちですら、もう勝ち目がないことを察していたからだ。
実力が違いすぎる。
「今すぐ撤退だ! 引け!」
ロックの叫びをかわきりに。
兵士たちは我先にと逃げ始めた。
もう彼らをせき止めるものはない。
勝てないとなった以上、自分の命が何よりも大事だ。
「あれ……みんな逃げちゃってます」
「どうしよ。追いかける?」
「えっと……私は追い払えたならもう満足なのですが」
リリアとアルナは、人間たちの背中を見て呟く。
立ち向かってくるはずの人間たちが、一目散に撤退し始めたのだ。
やっと体が温まってきたばかりだというのに、肩透かしをくらったような気分である。
「レインさーん! もう終わっちゃいました!」
『はぁ。レイン、降りるぞ』
ティアラは人間状態に戻りながら地上に降り立つ。
一気に人間がいなくなったことで、余計に大地が広く感じた。
撤退と言う選択は予想外だったが、追い払うことには成功したと言える。
「レイン、終わったみたいだよ」
「凄かったな、アルナ。一人で飛び降りた時はどうなるかと思ったよ」
「えへへ」
アルナは照れたように笑う。
さっきまで暴れていたとは思えない笑顔だ。
レインは戦いの一部始終を見ていたが、ほとんどはアルナが一人で倒していた。
もしかしたら、リリアの助太刀もいらなかったかもしれない。
時間はかかっていただろうが、勝利という結果自体は変わらなかったであろう。
「これで人間たちが懲りてくれたらいいのですが……」
「もう当分は攻めてこないんじゃないか?」
「じゃあアルナの仕事終わり?」
「そうだな。助かったよ」
「やったー」
アルナは成し遂げたように両手を上げる。
これで不完全燃焼気味なのだから恐ろしい。
アルナが本気で戦うことになった時、一体どうなってしまうのか。
……それは実際に見てみないと分からない。
「じゃあ――これからアルナを城に連れて帰ってやらないとな」
「アルナさん、ありがとうございました」
「楽しかったからいいよ。みんなもお疲れ様」
あっという間に全てが終わる。
あとはアルナの城へと帰るだけだ。
今回の件で、人間たちも無暗に攻撃を仕掛けることはできなくなっただろう。
みんなでもう一度ティアラに近寄る。
「はあ……今日の我は大忙しだな」
と。
ティアラは小さな声で呟いたのだった。




