《魂食》
「遅い」
アルナは人間たちをからかうように走り回る。
手を抜いているつもりなのだが、それでも捕まえられるような気配はない。
この程度の数の差では、やはり全く問題なかった。
聖職者のような存在がこの場にいたら話も変わってくるのだが、今回はそんなこともなさそうだ。
「このガキがああぁぁ!」
「《魂食》」
「――!?」
アルナを追いかけていた兵士は、突然電池が切れたかのように倒れる。
痛みもなく、苦しみもない。
兵士は自分が死んだことにすら気が付いていないだろう。
アルナは数え切れないほどの兵士の魂を食してきたが、もうそろそろお腹がいっぱいだ。
楽に退治できる攻撃方法であるものの、使用制限があるのが悩みどころである。
これからは面倒だが自分の手で攻撃していかねばならない。
そんなことを考えていた時。
アルナの目の前には、奇妙な光景が広がっていた。
「え? なんで人間同士で戦ってるの……?」
アルナは困惑するように呟く。
仲間であるはずの兵士たちが、何故か狂ったように殺し合いをしているのだ。
確かに戦場は精神が不安定になりやすい場所ではある。
だからと言って、ここまで露骨に狂い出したりはしないであろう。
一体自分が走り回っている間に何が起こったのか。
その答えは、少しずつだが分かっていった。
「すごい……初めて見た」
リリアは素早い動きで兵士の背後に回り、正確に首へと噛みつく。
そして、噛みついたかと思うとすぐに離した。
どうやら兵士を眷属にするだけなら、血を吸う必要はないらしい。
少しも無駄のない動きだ。
そうして何人もリリアは吸血鬼化した人間を増やしていく。
兵士たちはアルナやリリアだけでなく、仲間にまで警戒しないといけなくなった。
もう既に余裕のない人間側だが、これは致命傷となりえるであろう。
「アルナさん! 大丈夫でしたか!」
「アルナは大丈夫。手伝ってくれてありがとう」
「いえいえ。元々これは私の戦いですから」
まったく――とリリアはため息をつく。
「それにしても、最近の吸血鬼ハンターは生温いですね」
「確かに手応えはない」
「アルナさんにとってはただの人間と変わりませんしね」
アハハと笑みを浮かべながら二人は逃げ惑う人間たちに近付く。
並の兵士たちは、半数以上が死ぬか逃げるかしてしまった。
残されたのは半数以下の人間。
ロックを先頭に、ほぼ戦意喪失した表情で武器を構えている。
「さて、レインさんに何かされる前に片付けちゃいましょう」
「うん」




