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主導者


 人間たちの断末魔が、館の周りで響き渡る。

 聞いているだけでも痛みを感じてしまうほどの悲鳴だ。


 こんな声をずっと聞いていたら気が狂ってしまうだろう。

 既に館の周りから逃げ出した兵士もいる。


 ただ、そんな兵士を責める者はいない。

 ……正確には、責めるような余裕がない。


 目の前の化け物を追いかけるだけで精一杯だ。


「待ちやがれ! この化け物が!」


 走り回る化け物――名前はアルナ。

 自分たちが鎧を着ているというのもあるが、そのスピードには到底追いつけなかった。


 しかも彼女はただ走り回っているだけではない。


 人間たちの中を駆け巡りながら、的確に一人ずつ葬っている。


 それはまるで遊んでいるかのような。

 そんな余裕さえ感じられた。


「隊長! 上を見てください!」

「どうした!?」

「巨大なドラゴンがいます!」


 部下に言われるがまま、ロックは上空を見る。

 すると。

 自分たちを覆いつくすような巨体を持ったドラゴンが、ギロリと鋭く睨みつけているのだ。


 ロックは恐怖する。

 まさかこんなタイミングで巨大ドラゴンに遭遇してしまうなんて。


 運が悪すぎるという言葉では片付けられない。

 たった一人の吸血鬼を倒しに来ただけだと言うのに、どうしてこんなに化け物ばかりが出てくるのか。


 アルナだってそうだ。

 彼女が自分たちを邪魔する理由すら分からない。


 ここまでくると、偶然なんかではないとさえ思えた。

 これは必然――最初から仕組まれたもの。


「まさか……俺たちは誘い出されたということか?」

「ど、どういうことでしょうか! 隊長!」

「俺たちがここに来るのは奴らの想定通りだったってことだ……でないと、ここまで完璧に迎え撃たれるわけがない」


 ロックは一つの結論に辿り着く。

 自分たちは化け物たちに一杯食わされた。


 急襲に成功したつもりだったが、これは全て作戦だったのだ。


 もしこれが正しかったら、化け物たちをまとめあげている存在がいるはず。

 それが吸血鬼かどうかは知らないが、そいつを絶対に倒さなければいけない。


「あのドラゴンの背中に乗っている奴を狙え! アイツがこの化け物たちの主導者だ!」


 ロックが指さしたのは、ドラゴンではなくその背中に乗っている存在。

 ドラゴンが背中に誰かを乗せるなんて聞いたことがない。


 そんなことができるのは、主導者レベルの存在でないと不可能であろう。

 きっとソイツを倒せば、この化け物たちも少しは隙を見せるはずだった。


「レインさん、落ちないように掴まっててください」

「あ、あぁ……」


「あ、あいつ! もしかしてレインか!?」


 ロックは驚きの表情を見せる。

 なぜなら、ドラゴンの上に乗っている人物をロックは知っていたから。


 見間違えるはずもない。

 そこにいたのは――指名手配中のレインであった。




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