三人の王
「ほら、キャンディあげるから……落ち着いたか?」
「うん。落ち着いた」
「そうか。なら話を聞いてくれ」
アルナはバリボリとキャンディを食べながら頷く。
こうでもしないと話を聞いてもらえないのは悩みどころだが、そのまま人間界に突撃されるよりは何倍もマシだ。
もし人間界に突撃していたとしたら、三人がここにきた意味が丸ごと無くなってしまう。
レインなりの力技だった。
「俺は人間の敵になってるけど、それはリリアも同じなんだ。協力していかないと、いずれ人間に殺されるかもしれない」
「うん」
「だけど、俺たちだけの戦力だと人間の数には到底及ばないんだ。そこで、色んな魔物を従わせることができるアルナの力が必要なんだよ」
レインは今の状況を正直に話す。
確かにリリアやティアラの力は強大だが、それでも数で考えると二人。
それに対して人間の数は計り知れないほどいる。
十数億か数十億かは知らないが、圧倒的と言わざるを得ない差だ。
「アルナが協力すればいいんだね?」
「単刀直入に言うとそうだな」
「レインがそう言うならいいよ。いつも役に立ってくれるし」
アルナは意外にも簡単にレインの頼みを引き受ける。
あまりにもあっさりし過ぎていたため、リリアも聞き返してしまいそうになる。
まさか魔王であるアルナがこんな簡単に引き受けるとは。
レインが言うなら――という発言から、もしリリアが頼んでいたなら恐らく失敗していただろう。
この一瞬で、レインとアルナの信頼関係が垣間見えた気がした。
魔王とここまで信頼関係を築くことができる人間なんて、レイン以外には絶対存在しない。
それに加えて吸血姫である自分や、竜姫のティアラまで巻き込めるのだから恐ろしい。
「じゃあアルナは何をすればいいんだっけ」
「リリアの館に人間たちが押し寄せてるんだ。アルナにはそいつらを追い払う手伝いをしてほしい」
「それだけ?」
「え? あ、あぁ。それだけだけど」
なら簡単――とアルナは笑った。
アルナからしてみれば、国規模の数でなければ問題はないらしい。
少し楽観的過ぎる気がしないでもないが、レインが何か言うことはない。
アルナなら一人でも本当にどうにかしてしまいそうだからだ。
「その代わり、今度は新しい味のキャンディが欲しい」
「それなら用意しておくよ」
「だからレイン好き」
ようやく話はまとまった。
三人の王がレインの前に立つ。
その光景はいつになっても忘れられそうにない。
ただ、今まで見てきた何よりも頼もしいのは間違いないであろう。




