アルナの怒り
「レインは何しに来たの?」
「ごめん……完全に言い忘れてたよ」
今さらながらにアルナは問いかける。
話の順序としては滅茶苦茶だが、一応気になってはいたらしい。
レインもそれを一番最初に話すべきだったのだろうが、色々なことが立て続けに起こりすぎて口を開くことすらできなかった。
「俺たちがここに来たのは、アルナの力を借りるためなんだよ」
「力を借りる? 何があったの?」
「隣にいるリリアが、人間たちに狙われて大変なんだ。数があまりにも多すぎる」
アルナはレインに促されるままリリアの方を見る。
リリアは、アルナと目が合うとペコリとお辞儀をした。
「初めまして。私はリリアと申します。レインさんの友人です」
「はじめまして。リリアは大変なの?」
「はい……人間たちは数が多く、本気で私を潰そうとしているようです。レインさんもこのままだと危ないかもしれません」
「え? レインも危ないの?」
アルナが反応を示したのは、レインが危ないというワードだ。
レインの方へ振り返る。
新しい情報が多すぎて、アルナの頭では処理しきれていない。
「レイン、ほんと?」
「うん。俺は国から追われてるんだ。俺を見た人間は絶対に殺そうとしてくるはず」
「人間全員が敵ってこと?」
「……そうなるかもな」
レインはアルナの言葉によって現状を整理することになる。
考えれば考えるだけマズい状況だ。
きっと今頃、自分の首に多額の懸賞金がかけられているはず。
そんな自分が見つかったとしたら、どうなるかは火を見るよりも明らかだった。
人間共通の敵と言っても過言ではない。
「……レインが追われる理由が分からない。なんで?」
「様々な種族と関わっていたから――だってさ。それで俺が人外に情報を売り渡しているって勘違いされた」
「それって、アルナがレインから情報を買ったとも思われてるの?」
「まあ……思われてるんじゃないか?」
「人間共……アルナのこと馬鹿にしてる。そんな卑怯な真似してないのに」
アルナは不機嫌そうに顔をしかめた。
感情を表に出すことが少ないアルナであるが、今回は分かりやすく怒っている。
それも、魔王が人間から情報を買っているという勘違いに対しての怒りだ。
『魔王』とは魔族の中でも最高と言える称号であり、人間基準では考えられないほど高貴なものである。
そんな称号が侮辱されたのだから、アルナが不機嫌になるのも当然と言えた。
「今から制裁してくる」
「お、落ち着け、アルナ! どこに行くつもりだ?」
「人間のトップがいるところだよ?」
「待て待て! それならちょうど人間が集まってるところがあるから!」
と。
レインは、リリアの屋敷がある方角を指さしたのだった。




