表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/82

力比べ



「拳を合わせて力を入れる。倒れた方が負けでいいな?」

「うん」


 ティアラが提案したのは、至って単純な力比べ。

 ティアラの種族に古くから伝わっている伝統的な対決方法だった。


 流石に本気で戦っちゃダメだと理解してはいるらしい。


 そんなことをしたら、レインの行動が水の泡になってしまう。

 レインに対する僅かな慈悲だ。


「手を抜いたりしたら許さぬからな」

「それはいらない心配」


 ティアラはスッと拳を出す。

 それに対して、アルナも拳をティアラに合わせた。


 アルナの拳は想像以上に小さい。

 何なら、ぷにっとした感触で明らかに弱そうである。


 これが人間同士なら、既に勝負は着いているものだろう。


 だが、今回は人間同士などではない。

 この程度の差は、あってないようなものだった。


「準備は良いか?」

「いつでも」

「そうか――なら」


 いくぞ、とティアラが始まりを合図する。


 その瞬間。

 足元が大きくひび割れた。


 それだけではない。

 地面がグラグラと揺れ始め、離れているレインですらふらつき始める。


 ただ力を入れているだけとは思えない現象。

 竜姫と魔王が本気を出せば、こんなことまで起こるようだ。


 レインはこの対決が最悪の事態と思っていたが、これはまだラッキーな方だったと気付く。


 もしこれが力比べではなく、本当の戦闘だとしたら。

 ここら一帯は何もない更地になってしまう可能性だってあった。


「レインさん。よかったら掴まってください」

「あ、あぁ……助かるよ。ありがとう」


 リリアはフラフラとしているレインに手を差し伸べる。

 地面が揺れているというのに、リリアもまたバランスを崩している様子はない。


 それどころか、興味津々に二人の対決を観戦している。

 リリアも少しだけだが参加したそうだ。


「グッ……流石だな。魔王アルナ」

「そっちもなかなか強い。でも負けない」


 ビキビキと変な音が鳴る。

 まるで体が悲鳴をあげているかのような。

 そんな音である。


 それぞれの拳には、計り知れない負担がかかっていた。

 むしろ、どうして耐えられているのか不思議なくらいだ。


「終わり」

「――ヤバッ!?」

「え?」


 アルナがそう呟いてさらに力を入れようとすると。

 ティアラは、瞬時に自分の拳を引いてそれを受け流した。


「えうっ」


 流石にこの行動はアルナにとっても予想外だったようで、力を入れたまま前のめりになりステンと転ぶ。

 ……勝負は中断?


 まさかの結果に、レインも唖然とするしかない。


「ティ、ティアラ。今のって……」

「――我の負けだ。あそこで受け流しておらんかったら、死んでいたかもしれぬ……だから避けた」


 ティアラの口から出る敗北宣言。

 竜姫としてのプライドがあるティアラがここまで正直に告げるとは。

 それほど力に圧倒的な差があったのであろう。


 アルナとの力比べを中断したことに、悔しそうな表情を浮かべている。


「いてて……びっくりした」

「すまなかったな。魔王アルナ。完敗だ」

「大丈夫。ありがと」


 転んでいるアルナの手を取り、ティアラは起き上がらせる。

 アルナもそれを受け入れ、パンパンと服に付いた汚れを払っていた。


 雨降って地固まる――というやつだ。

 もういがみ合っている様子はない。


「で、レインは何しに来たの?」


 そこで急に。

 レイン本人ですら忘れていたことが、アルナの口から出てきたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ