竜姫ティアラ
「本当にレインだよね? 縛られてるけど何してるのだ?」
「ティ、ティアラ。これには深いわけがあって……」
竜姫ティアラは不思議そうな顔でレインを見る。
んー――と、真っ赤な髪をクルクルいじっていた。
どうやら、まだ現状を飲み込めていないようだ。
レインもティアラに説明してやりたい気持ちはあったが、伝えたいことが多すぎて何から話していいのか分からない。
「お、おい貴様! 何者だ!」
「その姿……人間じゃないな!」
「落ち着け! ただの竜人族だ! 三人いれば勝てる!」
馬車に乗りかけていた兵士たちも、ティアラの存在には気付いたようで、武器を構えて威嚇のような行動をしていた。
経験が豊富な兵士というわけではないが、ティアラが人間でないことだけは見抜けたらしい。
ティアラは竜人の中でもかなり人間に近い見た目であるため、よく気付いたなと誉めてあげたいくらいである。
「お、おい……あの尻尾、竜人にしてはやけに大きくないか?」
「それがどうした。ちょっと珍しいくらいだろ」
「あの尻尾を持って帰れば、高額で売り払えるかもしれねえぞ」
兵士たちはジリジリと距離を詰める。
その狙いはティアラの大きな尻尾にあった。
竜人の尻尾は大きさに比例して高く売れる。
ティアラほどの大きさになれば、数か月は遊べるほどの金が手に入るだろう。
倒すにしても、傷を付けるわけにはいかない。
少々戦闘の難易度が高くなるが、兵士は自分の実力なら大丈夫と判断したようだ。
「レイン、あれはお前の仲間か?」
「違う。あいつらは敵だ。ティアラを殺そうとしてる」
「なぬ!? 我をか? なかなか勇敢な人間だな! 我に戦いを挑む者は久しぶりだ!」
「勇敢……っていうわけじゃないけどな」
ティアラはレインの言葉を聞くと、かなり嬉しそうな表情を見せた。
こっちは、金に目がくらんだ兵士たちを勇敢な人間と勘違いしているらしい。
その目は英雄を見つめる少年のような。
そんなキラキラとした視線である。
しかし、彼女がそんな反応をするのも仕方ない。
だって、非人間界でティアラに挑もうとする者なんていないのだから。
「お前ら、我の友であるレインを可愛がってくれたようだな」
「友だと? なるほど、やはりレインは売国者で間違いなかったようだな」
「国王様の判断は正しかったな。俺ならレインに騙されてたぜ」
「どうでもいいから尻尾だけ奪って国王様に報告するぞ」
兵士は剣を強く握る。
そして、一斉にティアラ目掛けて走り出した。
なかなかのスピード。
訓練は日頃からキチンとやっていることが分かる。
それに加えて、武器の質も悪くない。
兵士が持っている武器は、それぞれが一流の鍛冶師が作ったものだ。
「――食らえ!」
最初に走り出した兵士が飛び上がる。
女の竜人だからといって容赦はしない。
勢いよく、ティアラにへとその剣を振り下ろした。
「甘いぞ、人間」
「え」
振り下ろしたはずだった……が。
その剣は、ティアラの二本の指によって容易く止められてしまう。
兵士のイメージとしては、そのままティアラを一刀両断するつもりだったのだが、現実はそのイメージとは真逆と言ってもいい結果になってしまった。
「我に挑むのはまだ早かったな」
「――グハッ!?」
一体何をされたのか。
そんなことを考えているうちに、ティアラが兵士の胸を拳で貫く。
痛みを感じる暇さえない。
兵士は結局何をされたのか分からないまま死んだ。
残りはあと二人。
流石に残された兵士たちは一歩身を引いている。
「き、貴様……! ただの竜人じゃなかったのか!」
「竜人? 我は竜姫だ。間違えるでない」
困惑する兵士たちに、ティアラは絶望させるような真実を告げたのだった。