決心
「レインさん! 大変です!」
「ど、どうしたんだ?」
朝からリリアの大きな声が館に響く。
いつもの騒がしいだけの声とは少し違う声。
リリアにしては珍しく、焦りの感情がこもっていた。
一体何があったというのか。
眷属がまた傷付けられたというのなら、レインの元に走ってくるはずがない。
「えっと……もの凄い数の人間がこの館に向かって来ています! このままだと、レインさんも危ないかもしれません!」
「な、何だって!?」
リリアは早口で、なおかつ分かりやすく現状を伝える。
朝目覚めたばかりのレインであるが、そのおかげで今何が起こっているのかは大体把握できた。
リリアがここまで慌てているということは、本当に対処しきれないほどの人間が押し寄せてきているのだろう。
数百? 数千?
正確には分からないが、とにかくこのままではマズいということだけは分かる。
「ど、どうすればいい? 戦うのか?」
「戦っても構いませんが……レインさんを守り切れるかどうか心配です」
それに――とリリアは付け加える。
「私も無事で済むかどうかは分かりません……人間たちは吸血鬼ハンターを多数用意しているようなので」
いつにも増して弱気なリリア。
吸血鬼の長として明言はしていないが、逃げた方がいいと言いたいのが伝わってきた。
「一旦引くか……それしかないよな」
「レインさん! まさか逃げられる場所があるのですか!」
「ある――あるにはあるんだけど……」
レインは言葉を濁す。
リリアの質問に対する答えはイエスだ。
これまでの商人としての活動の中で、多くの存在と関わってきているため、かくまってくれる可能性なら心配する必要は無い。
それどころか。
人間たちを返り討ちにしてしまうかもしれないヤツを知っている。
しかし、その者のところに行けばいいとはすぐに言えなかった。
……自分でも分かっている。
こんな緊急事態でそんな悠長なことを言っている暇はない、と。
だが、その者のところにいくと、十中八九面倒くさいことになるのだ。
レインが関わってきた中でも飛び切りの問題児。
リリアやティアラなんか比べものにならない。
「レインさん?」
「あああぁぁ…………よし、分かった! 行こう!」
遂にレインは決心する。
悩んでいるだけ時間は無駄だ。
リリアの安全のことも考えれば、後先なんて考えていられなかった。
「ど、どこに行くのでしょう」
「魔王のとこさ」




