国王の妄想
「国王様……調査に向かわせた二人が戻ってきました」
「そうか! 調査結果はどうだったのだ? 何か良い情報は手に入ったのか?」
「いいえ。あの二人は吸血鬼にされていたため、成果はゼロに等しいです」
「な、何だと……!?」
国王はランスから信じられない情報を聞く。
何も情報を得られないことなら覚悟していたが、まさかこんな展開になるとは。
彼らはそれなりの手練れだったはずだ。
そんな彼らが容易く吸血鬼になるなんてありえない。
そもそも、人間を眷属にできるような吸血鬼なんて限られている。
吸血鬼の中でも、トップレベルの存在でなければ不可能だ。
つまり彼らが向かった地域には、強大な力を持っている吸血鬼がいるということ。
やはり国王の考えは間違っていなかったらしい。
「あの地域にいる吸血鬼が、今回の事件の始まりと考えても問題ないかもしれません。どうなされますか?」
「決まっている。そこにいる吸血鬼が全ての始まりなら、そいつを倒せば被害は止まるはずだ」
「なるほど。流石国王様です」
国王の返事は、ランスが聞くまでもなく決まっていた。
吸血鬼の被害を根絶する。
そのためには、吸血鬼の親玉を倒さなくてはいけない。
親玉の場所が大体分かっているのなら、これから取るべき行動はただ一つ。
「吸血鬼ハンターを向かわせろ。いいな?」
「かしこまりました。数はどういたしましょう?」
「全員だ。呼べるものは全員向かわせろ。流石に数の差には勝てまい」
国王の大胆な作戦。
吸血鬼ハンターだけに絞っても、この国には千人ほどいるはず。
地方に向かわせている者もいるが、半分はこちら側に呼び戻せるだろう。
そこに自国の兵が加わるため、十分に勝機はあった。
一人の吸血鬼に対して注ぐ戦力としてはあまりに多すぎる気がしないでもないが、これで問題が解決するならどうでもいいことだ。
「ここで吸血鬼とは勝負を決めるぞ」
「はっ!」
ランスは覇気のある返事と共に部屋を出る。
吸血鬼との対立は、これで恐らく終わりだ。
まさかここまで手こずることになるなんて、一体誰が予想できただろうか。
吸血鬼以外にも問題は山積みだと言うのに、こんなところで消耗している暇はない。
竜姫と吸血鬼。
それと、最近は動きを見せなくなった魔王の存在も。
「はぁ……」
国王は頭が痛くなる。
国民の上に立つ者としては仕方のないことであるが、それでも日に日に激しさを増す頭痛にはコリゴリだ。
どこかに化け物たちと話し合いができる人間がいたらいいのになぁ――と。
国王は、都合のいい妄想の中にいる人間の姿を想像していたのだった。




