ジルとニフの死
「きゃあああああぁぁぁ!?」
「やめろおおおおぉぉ!」
「助けてえええぇぇ!」
人間たちが叫び、そして逃げ惑う。
その光景は、凄惨という言葉がピッタリな状況だった。
道には血が飛び散り、既に数人が殺されている。
こんなことが起こるなんて、誰が予想していただろうか。
大人の悲鳴。
子どもの泣き声。
さらに助けを求める声など。
魔物を見たことすらない市民には、あまりにも衝撃が強すぎる光景だった。
「何事だ! 何が起こっている!」
そこに駆け付けたのは。
国王の従者であり、右腕とも言われている男――ランス。
従者の中でも特に有能なランスは、国王の命令によってこの騒ぎを止めに来た。
スラムと呼ばれる地域ならまだしも、街中でこのような騒ぎが起こるなんて珍しい。
最初はそう考えていた彼だが、暴れている男たちを見て動揺を隠せなくなる。
「ジル! ニフ! 何をしているんだ!」
騒ぎを起こしている張本人――暴れている男たちは、自分の良く知っている人物だったのだ。
ジルとニフ。
どちらも優秀な調査隊のメンバーである。
今分かるのは、明らかにいつもの二人ではないということだけ。
ランスが問いかけても、振り向こうとすらしていない。
一体何をされたのか。
そもそも、二人は国王の命令で調査に向かっていたはずだ。
「……クソッ! 止めろ! 動くな!」
「ガアアアアァァ!」
「グルル……」
「チッ……警告はしたからな!」
明らかに様子のおかしい二人に対する警告。
それはやはり完全に無視される。
こうなればランスのするべき行動は一つだ。
時間はない。
これ以上犠牲者を増やすわけにもいかず、ランスは携えていた武器を握って走り出した。
「この馬鹿野郎が!」
「グオッ――!!」
「グフッ――!!」
ランスは容赦なく二人の急所を貫く。
知り合いであり、仲も比較的良かった存在と言えるが関係ない。
国王の命令は騒ぎを止めてこい――というもの。
騒ぎを止めるにはこれしか方法がないため、ランスは忠実に行ったまでだ。
流石にこの攻撃が致命傷となったようで、二人はもがき苦しんだ末……絶命した。
「一体どうしたっていうんだ……」
ランスは二人の死体を確認する。
普通の状態でなかったのは確かだが、原因は全く分からない。
何か特殊なアイテムによるものか……。
そう考えて二人の体を探るが、特に何も持っているわけではなかった。
ならば魔法によるものか。
しかし、魔法がかけられているならランスも気付くはず。
「ッチ……! そういうことか」
そのようなことを考えているうちに、ランスは驚くべきことを確認した。
「――二人とも吸血鬼にされてやがる」




