吸血鬼の長
「ジル、合わせろ!」
「分かってる!」
二人は一斉に距離を詰める。
幸い、目の前の吸血鬼は見事に油断していた。
これなら、多少の実力差があろうとも押し切れるはずだ。
吸血鬼と戦った経験は何度もある。
確かに強力な存在ではあるが、噛みつかれさえしなければ問題はない。
そもそも。
今回は吸血鬼に関する調査であったため、戦う覚悟も準備もとっくにできていた。
「吸血姫、こいつらは我が殺してしまっても構わぬのか? それともお前が仇を討つか?」
「私に任せてください」
リリアはティアラの問いに即答する。
そこに一切迷う余地はない。
この人間たちが眷属を傷付けた張本人かどうかは知らないが、自分が人間を許さないという意思表示のようなものだ。
苦しめ、殺し、いずれ張本人まで辿り着く。
そんな覚悟がリリアにはあった。
「そうか。なら我の出番はなさそうだな」
「はい――」
「――今だっ!」
リリアとティアラが話していると、そんなことはお構いなしに二人が突っ込んでくる。
なかなか統率の取れた動き。
並の人間ではないということが分かった。
だが……あくまで人間の域を超えてはいない。
「なっ!?」
「動きは良かったですが、力不足ですね」
リリアはジルの剣を片手で受け止める。
確実に殺せたと思っていたであろうジルは、リリアを見て青ざめた表情だ。
こんな吸血鬼見たことがない。
そんな声が聞こえてきそうだった。
「この野郎! こっちだ!」
「――アナタも惜しいですね。スピードが足りません」
リリアは後ろから攻撃してくるニフに足をかける。
すると、ニフは面白いように引っかかって転がった。
ついでに強く頭を打ち、もう何もしなくても勝ってしまいそうだ。
「貴様……! 何者だ!」
「私はリリアと申します。残念ながら、ただの吸血鬼ではありません」
「ただの吸血鬼じゃないだと……?」
「そうですね……吸血鬼の長と言うべきでしょうか。好きに想像していただければ」
吸血鬼の長。
リリアは確かにそう言った。
ジルとニフはお互いを見る。
まさかこの女が吸血鬼の頂点なのか。
簡単に信じられる話ではないが、圧倒的な強さによって二人は確信した。
間違いない、と。
「もしかして、各地方の吸血鬼たちに人間への攻撃を命じたのも貴様か……?」
「お見事。大正解です」
「な、なんでそんなことを……?」
「なんでって言われましても……先に危害を加えたのは人間たちですから。ちなみに止めるつもりはありません」
予想通り。
そして、二人は絶望した。
こんな化け物が――いや吸血鬼全員が、人間に敵対してしまったのだ。
誰なのかは分からないが、こいつらに危害を加えた人間を恨む。
「ということです。では戦いの続きをしましょう」
無慈悲に始まった第二ラウンドに、二人は防御の姿勢を取ることしかできなかった。




