追放、そして
「……いてて」
レインは頭の痛みと共に目を覚ます。
血は出ていないようだが、ズキズキと鈍い痛みがあった。
まだ国王に対しての怒りは消えていない。
それどころか、むしろ増してさえいると感じる。
あそこまで理不尽に言いくるめられたのは初めてだ。
数え切れないほどの対人経験があるレインと言えど、国王のように頑固で強引な人間は見たことがない。
「ここは……どこだ?」
段々と冷静になっていく頭。
まずは、ここがどこなのか確認する必要がある。
確か国王は人間の国から永久追放すると言っていた。
ということは、かなり人間の国から離れた場所なのだろうか。
……とにかく、自分の目で見て確認するしかない。
レインは縄で縛られている体を上手く使いながら、輸送馬車の扉を開ける。
すると。
そこには、見たことのない光景が広がっていた。
「あ? なんだ、目が覚めたのか。起こす手間が省けたぜ」
「お、お前らは……」
慣れない景色に困惑するレイン。
そんなレインに話しかけたのは、先ほどレインを取り押さえた兵士だった。
数は三人。
レインを国の外へ追い出すために、ここまで運ぶ任務を任されたようだ。
「悪く思うなよ。売国者には当然の末路だ」
「俺は売国者じゃない! 何回言わせるんだ!」
「はいはい。あんまり騒ぐと体力を消耗するぜ」
「な、なんだと……」
兵士は縛られているレインの足を払って、綺麗にストンと転ばせる。
思うように身動きの取れないレインは、這いつくばった体勢のまま兵士を睨むことしかできなかった。
「お前はここで一人だからな。無駄なエネルギーを使って餓死しても知らねえぞ」
「なっ、こんなところで――」
「まあ、餓死する前に魔物に食われるのがオチか」
「ここは夜になると魔物がうじゃうじゃいるらしいぜ」
「怖い怖い。俺らも早く国に戻らねえとな」
兵士たちはそれぞれが面白そうに話始める。
レインに対する情けは一切感じられない。
まるで人間ではなく動物か何かと思っているかのような。
そんな扱いだった。
「っく! 国王と話をさせろ!」
「はあ? そんなの無理に決まってるだろ」
「俺が情報を売り渡していない証拠も集められるはずだ! 少しだけでもいいから時間をくれ!」
「もう遅いんだよ」
必死にレインが引き留めようとしても、兵士がそれに応じる気配はない。
レインは今までに感じたことない、強い怒りを心の中で鎮める。
もし縄で拘束されていなければ、絶対に殴りかかっていただろう。
「それじゃあ戻るぞ。魔物と鉢合わせないうちにな」
「ちょ、ちょっと待て! せめて縄を解いて――」
「知らねえよ。それくらい自分で何とかしろ」
レインの言葉を無視して、兵士たちは馬車の方へ向かい始める。
もう何を言っても無駄。
それは自分でも何となく分かっていた。
遂にレインは諦めに近い気持ちになる。
ただ、馬車に乗り込む兵士たちの姿を眺めることしかできない。
レインが地面に膝をついた――。
その時だった。
「ん? レインではないか。どうしたのだ?」
そんな素っ頓狂なセリフと共に、自分のよく知っている竜姫が現れたのだった。