数千の吸血鬼
「さて、全員集まりましたね?」
「はい、リリア様。全ての眷属を招集いたしました」
「ありがとうございます。助かります」
リリアの前に三十人ほどの吸血鬼が集まる。
館に仕えている全員が一堂に会したことによって、この空間は体験したことのないほど異様な空気になっていた。
吸血鬼特有の冷たさというべきか。
レインは上手く表現できないが、背筋が凍ってしまいそうなほど緊張してしまう。
「皆さん、今日起こったことは知っていますね?」
「はい、リリア様。知らないわけがありません」
「そうです――人間によって私の眷属が傷つけられてしまいました。私たちは人間を極力狙わないようにしているのに、です」
リリアは、自分たちから危害を加えようとはしていないことを強調して話し始める。
そのセリフには、レインでも分かるほど怒りの感情が込められていた。
声を荒げることはない――静かな怒り。
自分にその感情が向けられているわけではないと分かっていても、レインはドキリと肩を震わせる。
「私はアナタたちに、特別な理由がない限り人間は襲うなと言っていました。これは無駄ないざこざを避けるためです」
ですが――と、リリアは付け加えた。
「このようなことが起こったのでは、私たちも黙っているわけにはいきません。そうでしょう?」
「間違いありません。我々の力を見せつけるべきかと」
「ですので、人間に対しての攻撃を全て許可します」
「ほ、本当ですか!」
眷属たちがざわめく。
リリアは人間に対する攻撃を全て許可すると言った。
これは、人間が相手なら何をしてもいいという意味。
人間と真っ向から対立することを宣言しているようなものだ。
実質的な宣戦布告と言ってもいい。
慎重で温厚な性格のリリアが、ここまで大きく出る選択をするとは。
リリアのことを良く知っている眷属だからこその反応である。
「人間を餌として狩り尽くしても良いということですか……?」
「無論です」
「わ、分かりました!」
眷属は声を高くして了承の意を示す。
これまで禁止されていたことが、急に推奨されるようになった。
その変化に困惑がないわけでもないが、それより何倍も歓喜の気持ちが大きい。
それと同時に、自らの主であるリリアへ敬意を払う。
「レインさん、これでよろしかったでしょうか?」
「――あ、あぁ。そうだな」
「一応他の吸血鬼たちにも話を通しておきますね。全部で数千人くらいになるでしょうか」
「数千!?」
まさかこのタイミングで話しかけられると思っていなかったレインは、慌てながらも問題ないことを伝える。
レインがこの館に来た時は、まさかここまで大きな騒ぎになるとは思っていなかった。
リリアは、他の吸血鬼たちにも人間と対立することを指示するらしい。
その数なんと数千人。
流石吸血鬼の姫である。
「数千人って、かなり大規模なんだな……」
「そうですね。吸血鬼は広がって暮らしてるので、合計すると数は多くなるかもしれません」
「何というか……頼もしいというか」
「た、頼もしいですか! 私、頼もしいですか!」
リリアは顔を近付けてまじまじと確認してくる。
さっきまでのクールな雰囲気はどこにいったのやら。
レインはリリアの望むように、うんうんと頷いておくのだった。
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遂に吸血鬼たちが動き始めます!!
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