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吸血鬼の牙


「あ、おはよう。ティアラ」

「うむぅ……おはようなのだ」

「辛そうだな――いや、今はそれどころじゃないぞ」


 朝。

 ティアラは、眠そうに目を擦りながらレインに近付く。

 昨日夜遅くまで飲み過ぎたことによる反動を、ちょうど今味わっているようだ。


 レインも変われるなら変わってやりたい気持ちになるが、こればっかりはどうしようもない。

 そう考えると、昨日ティアラと同じ量の酒を飲んでいたリリアが、今日は何事もなかったかのように起きていることを褒めてあげたくなる。


 これも種族差による酒の強さなのか。

 それとも、ただ単純にリリアが酒に強いだけなのか。


 どちらかなのは分からないが、とにかく今はそんなことどうでも良かった。


「どうしたのだ?」

「なんか、リリアの眷属が大変なことになってるみたいだ。俺たちも見に行った方がいいかも」

「眷属? ……仕方ないな。我も付いて行くのだ」


 今起こっていること。

 そして、朝からドタバタしている理由。

 それは、リリアの眷属が原因であった。


 レインも話をメイドから聞いただけであるが、眷属が何者かによって傷付けられてしまったらしい。

 わざわざ吸血鬼を狙う者と言ったら心当たりがいないでもないが――とにかく今は話を聞く必要がある。


「リリア、大丈夫か?」

「あ、レインさん。おはようございます」


「おはよう。眷属が大変だって聞いたけど」

「はい……この子のことなんですが」


 二人が声のする方へ向かうと、そこには眷属の手当てをしているリリアの姿があった。

 それはいつもの明るい様子ではなく、全く逆の暗く静かな様子。

 リリアも少なからずショックを受けていることが見て取れる。


「牙……折れてるな」

「そのようです……恐らく吸血鬼の牙を狙う人間の仕業でしょう。吸血鬼の牙は高く売れるようですから」


「酷いな……治りそうなのか?」

「牙は数か月したらまた生えてくると思います。だけど――心の傷というのは癒えません」


 リリアは重くその言葉を発する。


 吸血鬼の牙。

 商人であるレインは、その部位の価値を良く知っていた。

 人間界なら牙一つだけで数週間は働く必要がなくなるだろう。


 その価値故に、弱い吸血鬼を狙って牙を奪う人間も多数いる。

 今回犠牲になったのが、たまたまリリアの眷属だったのだ。


「レインさん……私、人間に怒っています」

「俺もだ」

「これまでは食事以外の狩りはしていませんでしたが、もう我慢できません」


 リリアはプルプルと体を震わせる。

 ここまで怒っているリリアは、彼女をよく知っているレインでも初めて見た。


 眷属を家族と同じように大事にしているリリアだからこそ、このような反応になるのだろう。

 復讐、報復。

 リリアの体からそんなオーラが出ている。


「もう決めました。昨日の返事をさせてください」


 リリアは立ち上がる。 

 そして、力強く宣言した。


「私たちは――全面的に人間と敵対します」



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