リリアの張り切り
ボーンと大きな時計が鳴る。
恐らくこれが食事の合図だ。
リリアの屋敷に泊まることになった二人の前には、人間界ではとても食べられないようなご馳走が並んでいた。
食べ切れるかどうかさえ怪しい量の料理が、テーブルいっぱいに広がっている。
普段からリリアたちはこんな食事を取っているのか。
それとも、レインたちに振舞うため張り切っているだけなのか。
聞いてみたい気持ちが残るものの、マナー違反だと怒られてしまいそうなためレインは黙って手を付け始める。
「これは何の肉なのだ?」
「魔獣の肉です、ティアラさん。ドラゴンの肉ではないので安心してください」
「そうかそうか」
肉が同族ではないことを確認したティアラは、バクッとそれを口の中に放り込んだ。
ティアラはこのようなことを一切気にしない性格だと思っていたが、どうやらそこまで無神経ではなかったらしい。
……まあでも、よく考えたら気にしないわけがないだろう。
レインに置き換えてみれば、目の前の肉が人間の肉であるかもしれないということだ。
食事どころの騒ぎではなくなる。
「どうですか、レインさん。お口に合うでしょうか……?」
「うん、美味しいよ」
「ほ、本当ですか! 良かったです!」
リリアはホッと胸をなでおろす。
人間用の食事を用意すると言っていたが、ちょっとだけ不安だったようだ。
「このお肉は、レインさんがエルフの国から取り寄せてくれたものなんですよー。私も大好きな味です」
「あー、懐かしいな。気に入ってもらえたなら俺も嬉しいよ。結構運ぶの大変だったからさ」
レインは懐かしい話を思い出す。
この肉は、過去の取引でレインが持ってきたものだった。
確かその時はまだ屋敷に招かれるほどの関係ではなかったはず。
リリアも今のように素の性格を見せてはいなかった。
あの時のリリアは、美しい銀髪も相まってクールな雰囲気だったなぁ……と。
今のお喋りな明るいリリアを見ながら懐かしむ。
「流石に人間の血は取引してくれませんでしたけどね。アハハ」
「まあな……一応ただの商人だから」
「人間の血などその気になればいくらでも手に入るであろう。特にこれからはな」
「そうですね、ティアラさん――って、まだそうですねとは言っちゃダメなんでした。正式に決まってはいませんから」
あわわとリリアは口を塞ぐ。
そして、チラリと後ろにいる眷属に目を向けていた。
「あの、リリア。別にそんな急いではいないからな。ゆっくり決めてくれたので大丈夫だよ」
「分かりました。明日までにはお返事をしますね」
「本当に分かってるのか!?」
リリアの変な仕事の早さアピール。
別にそれでかっこいいとは思ったりしないが、リリアはふふんと鼻を高くしている。
……ここは素直に褒めてあげた方がいいだろう。
とりあえず、明日の返事を楽しみにするしかない。
なんて考えながら、レインは一日を終える。
――翌日。
朝からリリアの屋敷は大騒ぎだった。