リリアの場合
「俺は人間たちに狙われてるんだ。リリアが良ければ、俺に協力してほしい」
「狙われている――のですか? どうしてレインさんはそんな扱いを受けているのでしょう?」
リリアはきょとんとしながら聞き返す。
しかし、それも当然の反応だ。
どうしてレインが人間に狙われているのか、疑問に思わない方がおかしいだろう。
「実は、俺が売国行為をしたと国王に勘違いされたんだ。仕事で色々な種族と取引してるのが原因なんだろうけど……」
「ば、売国行為? 私たちのような種族と取引をしているだけなのに……ですよね?」
「うん。俺が国の情報を他種族に流してるって思われてるみたいだ」
「そ、そんな! レインさんは、そんなつまらない話なんて一回もしていませんでしたよ! 私が証明します!」
リリアが口にしたのは、レインを庇うようなセリフ。
もちろんレインが国の情報を流したというのは真実でない。
それを知っているリリアが、国王の判断に反発するのも自然なことだった。
それに、人間の情報なんて心の底からどうでもいいことだ。
もしレインが取引の際にそんな話をしていたら、ここまで信頼関係を築いてはいなかったはずである。
リリアからすると、そんなことよりレインの趣味の方がよっぽど興味があった。
人間め……と。
自分のレインを馬鹿にされたような気がして、段々と憤りを感じてくる。
「リリアがそう言ってくれるのは嬉しいけど、もうどうしようもないんだ。多分国は既に俺を探し始めているはずだし、見つかったら殺そうとしてくるだろうな」
「……酷い話ですね。レインさんがかわいそうです」
レインを慰めるリリア。
レインは日頃からお世話になっている存在だ。
どうにかして人間界の暮らしを取り戻してあげたい。
そんな気持ちにもなるが、現実的にリリアが解決することは厳しいであろう。
「おい、吸血姫。人間はお前たちの主食なのだろ?」
「は、はい。人間の血だけを吸うというわけではありませんが、一番好みの味は人間です」
「ちょうどいいな。我も今の話を聞いてムカムカしてきたのだ。力を貸せ」
ティアラは、レインとリリアの間に入り込む。
そして、偉そうに腕を組んだ。
「もしかして、ティアラさんも人間と対立を?」
「当然だ。この前は宣戦布告として、とびっきりの魔法をくれてやったのだ」
「凄い! 自分から面倒な人間と対立する道を選ぶなんてかっこいいです!」
「まあレインには借りもあったからな。お前はどうなのだ?」
「そうですね……私は」
ティアラがリリアに聞き返すと、リリアは少し悩むような表情をした。
恐らく、今は頭をフルに回転させて色々なことを考えているのだろう。
リリアは数十人の眷属をまとめる王だ。
自分の判断一つで、眷属たちを危険な目に合わせてしまうかもしれない。
そう考えたら、自分の行動に慎重になるのは仕方のないことである。
「……やはり私もレインさんの力になりたいです。お返事はもう少し後になるでしょうが、心配しないでください。眷属たちに今回の話を伝えるだけですから」
「そ、そうか。ありがとう」
「いえいえ。レインさんにはお世話になっていますし当然です」
リリアが出した答えは、限りなくイエスに近い返事だ。
ティアラもその返事に満足そうにしている。
いきなり押し掛けただけでなく、自分の大事な眷属まで巻き込むような提案。
それで文句も言わずに笑顔でいるなんて、リリアには頭が上がらない。
吸血姫としての余裕だろうか。
レインはついつい跪いてしまいそうだ。
「あ、今日はティアラさんも泊まっていってください! おもてなししますよ!」
「む、気が利くのだな」
「えへ、お友達ですからね」
「戦友と言った方がいいかもしれぬな」
「アハハ。そうかもしれませんね――あ、そういえば」
リリアは不意にレインの方を向く。
「レインさんには、人間用の食事を用意いたしますので安心してくださいね」
「ありがとう。ご馳走になるよ」
「私たちも今日はご馳走にしようと思います。だって――」
これからは人間の血がいっぱい手に入りそうですし――と。
リリアはにっこり笑ったのだった。
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