吸血姫の館
「ティアラ、あれだ! あの館だよ!」
「うむ。降りるぞ」
レインはドラゴン状態のティアラに、頭の上から指示を出す。
ティアラのスピードは凄まじく、あっという間に目的地に着いてしまった。
もしレインが歩いて向かったのならば、到着するのに少なくとも数か月はかかっていたはずだ。
……いや、恐らく道中で魔物に襲われる可能性もあるため、辿り着けてさえいなかったかもしれない。
そう考えると、ティアラが協力してくれて本当に良かったと思える。
「落ちるなよ」
ティアラは館に向かって一直線に急降下する。
ティアラがここを訪れるのは初めてなはずだが、その行動に全く迷いはない。
怖いもの知らずと言うべきか。
とにかくレインは、振り落とされないよう必死にしがみついた。
「――到着だ!」
ドシンと豪快に着地。
地に足が付いた瞬間に、ティアラはドラゴンの状態から元の人型にへと変わる。
そして、レインに衝撃が加わる前に、優しく両手でその体を受け止めた。
何とも親切な女の子だ。
「はぁ……疲れた」
「空の旅はなかなか刺激的であっただろう?」
「そうだな。刺激的過ぎたけど……」
レインは息を整える。
空を飛んでいる間は、生きている心地がしなかった。
ティアラが飛んでいる間に気を遣って声をかけてくれていたのは覚えているが、正直その内容は全然覚えていない。
今から友人に会う予定だが、こんな状態では少しだけ心配だ。
「で、レイン。ここに吸血姫がいるのだろ?」
「うん。ティアラは見たことないんだよな?」
「……そうだな。吸血姫リリア――名前だけは知っておるが、顔を合わせるのは初めてなのだ」
レインの隣に、少し緊張した様子のティアラが立つ。
こんな表情のティアラを見るのは初めてだ。
単純に他人と会う機会が少ないからなのか。
それとも、有名な存在を自分の目で見ることにドキドキしているのか。
そんなことを考えているうちに、館の扉はギイィーと音を立てて開いた。
「どちら様でしょうか?」
館の中から出てきたのは、いかにも新人のような一人のメイドだ。
恐らく客人かどうかを確認しろと命令されたのだろう。
この館にはリリアに仕える吸血鬼のメイドが何人もいるため、こうなるのは何となくレインも予想できていた。
「我の名はティアラだ。お主も名を名乗れ」
「わ、わたくしもですか?」
「ティアラ、あまり威嚇するな」
「う、うむ? すまぬ」
レインは高圧的なティアラを注意すると、丁寧に自分の名前を名乗る。
「俺はレインです。リリアにそう伝えてください」
「――レ、レイン様でございますか!? 失礼しました……! どうぞお通りください!」
レインの名前を聞くと、吸血鬼のメイドは慌てて道を開ける。
顔パスならぬ名前パスだ。
まさかレインという名前を聞いただけでこのような反応を見せられるとは。
日頃リリアはどのような教育をしているのだろう。
今回の件とは別に聞きたいことが増えてしまった。
「……レイン、もしやお前すごいやつなのか?」
「一応言っておくけど、リリアがおかしいだけだからな?」
……行くぞ、と。
ティアラの尊敬するような視線を避けながら、レインは館の中へ足を踏み入れるのだった。
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遂に次話、吸血姫の登場となります!!
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