売国者
「レイン、貴様が呼び出された理由は分かっているな?」
「……すみません、国王様。全く心当たりがないのですが」
「この売国者が! とぼけるつもりか!」
「ば、売国者!?」
国王の怒鳴り声が王城の一室で響く。
その怒りの矛先は、商人であるレインに向けられていた。
国王がわざわざただの市民を呼び出すのは、これまでに前例のない出来事だ。
レインが暴れても大丈夫なように、周りには多くの兵士が構えている。
もし攻撃するような姿勢を見せたら、レインは一瞬で取り押さえられてしまうだろう。
レインは言い返したくなる気持ちを抑えて、慎重に話を聞き始めた。
「どういうことですか……? 俺はただの商人です。売国行為なんてしていません」
「売国行為をしていないだと? 貴様が国外で接近した種族は調べ上げてある。竜族、魔族、吸血鬼――これでも我が国の情報が流れていないというのか?」
「俺は情報を流していませんよ! 彼らはただの商売の相手です! 逆に、希少なアイテムを取り寄せることもできます!」
「国王様。ただの商売相手である人間に、化け物が希少なアイテムを渡すはずがないかと思われます」
レインが身の潔白を訴えている途中で、国王の側近が話に無理やり割り込んでくる。
それは、レインの立場をさらに悪くする言葉だ。
国王もその意見に流されて、うんうんと頷いていた。
「この者の言う通りだ。貴様が化け物から希少アイテムを受け取ったということは、それの対価となる我が国の情報を流したという証拠に他ならない」
「な、何でそうなるんですか!? 希少アイテムを取り寄せられるのは、商売相手としての信頼関係があるからです!」
「信頼関係だと? 今、化け物と信頼関係があると言ったな?」
「言いました……けど」
「決定的だな。まさか自白するとは。私の勘は当たっていたようだ」
国王は満足そうにニヤリと笑ってレインを見る。
どうやら、自分の考えが正解だったと勘違いしているらしい。
それは、まるで難問を解いた数学者のような表情だった。
「レイン、貴様は人間の国から永久追放する。売国の罪を受け入れろ」
「……え? な、何を言っているんだ! 認められるわけがないだろ!」
「化け物に魂を売った結果だ。命を奪わないだけマシだと思え」
国王がパチンと指を鳴らすと、周りにいた兵士たちが一斉にレインを取り押さえる。
そして。
ただの商人であるレインは、抵抗することすらできずにあっさりと捕まった。
もがこうとしても、訓練された兵士の力には到底かなわない。
腕を縛られ、床に押し付けられる。
どうして自分がこんな目にあっているのか。
レインの中にどうしようもない怒りが込み上げてきた。
「連れて行け。その売国者をな」
「ふざけるな……!」
レインの我慢は限界になり、ついに国王に悪態をつく。
売国者という汚名。
今までずっと愛していた国を裏切ったという誤解が事実となり、自分は処分されるのだ。
黙っていられるはずがない。
「口には気を付けろ、小僧。……それと言い忘れていたが、貴様と仲良しの化け物にも近々攻撃を仕掛ける予定だ。楽しみにしておけ」
「――っつ!」
「ではさらばだ。二度と会うことはないだろうがな」
売国者という虚偽の汚名の怒り。
自分が商人として信頼関係を築いた相手への攻撃。
これからの自分に待ち受ける運命。
様々な気持ちが入り混じる中、レインは頭を殴られ気を失ったのだった。