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第98話 遠征組の作戦会議



「それでは、調査報告を聴かせてくださるかしら」


「へいへい。とりあえず、今のとこはまだそこまで急いだ動きは見られねぇな。ブリリアン伯爵家内でも、婚姻に賛成派と反対派に意見が割れて、未だに足の引っ張り合いの状態だ」


「ん。【薔薇姫】さま……テスタロッサ嬢が上手くごねて、騎士団長が味方に付いてるみたい。反対に婚姻推進派は、モンテイロ子爵が先頭に立って、周りの家臣団を説得して回ってる」



 この地を治めるブリリアン伯爵のお膝元である、ウィンリーネの高級宿の一室で。

 ワーグナー商会の面々が、それぞれの得た情報を互いに交換し、共有していた。現在は情報部のアンドレとアニータ、両名の報告がなされているところだ。



「教会の動きはどうなんだい? 聞いた話じゃ、教会の連中も一枚噛んでるそうじゃないか」


「目立った動きっつーと、例の繰り上がった司祭……キュベイって野郎が頻繁に、モンテイロ子爵家の関係者と会合してるくらいだな。だが一枚噛んだっつっても、ありゃ小物だぜ?」


「ん。単に聖堂の筆頭司祭の座に目が眩んで、それでジンをハメただけの可能性が高い。あくまで唆されてるだけみたい。『公判に協力した暁には、伯爵家と懇意になれる』とでも言われたんじゃない?」



 キョウヤの裁判の公判に不審点があったため、ハダリーが教会との癒着を指摘すれば、それに関しても調べてきた二人から調査結果がもたらされる。



「あ、それとハル・ムッツァート支店から〝鳥〟が届いた。キョウヤとジンがもう向こうを出立してるから、何事も無ければあと四日くらいでここに着くはず」


「マリア会長からは何と?」


「『みんなに任せる。よろしくね』だってよ。お嬢の信用が重いったらねぇぜ」


「アンドレ、心にも無いことを仰らないでくださいな。証拠は集められそうなんですの?」


「問題ねぇよ。教会はアニータが、子爵家は俺が、警備体制や侵入経路含め今日の内にバッチリ把握済みだ。明日一日もありゃあ、大体の証拠は見付かるんじゃねぇか?」



 彼らの目的は、この領地の支配者であるブリリアン伯爵家への、貴族派からの干渉を断つことである。具体的には、現在進められている伯爵令嬢と、家臣であるモンテイロ子爵家の次男との婚姻を阻止することだ。


 モンテイロ子爵家は、中立派であるブリリアン伯爵家に代々仕えてきた家門であるが、最近になって貴族派から接触を受けている。

 未だ推測の域を出ないが、もし仮に子爵家が貴族派に寝返り、次男を婿入りさせることによって伯爵家の実権を握ることを狙っているのであれば――――


 皇族派、中立派、貴族派の三派に分かれ均衡を保ってきたフォーブナイト帝国の権力構造は、大きく塗り替わる。その結果新たに戦争が起こる可能性だったりと、懸念すべき事柄があまりにも大きかった。

 そしてこちらは酷く内々的な問題ではあるが、彼らの仲間である、冤罪によって貶められたキョウヤや、その煽りを受けて重傷を負ったジンの事件など……それらの真相が完全に闇に葬られてしまう。


 彼らの結束は強固であった。



「証拠が集まったら、ムッツァート伯爵閣下の手の者に渡す手筈でしたわよね。そして彼らが秘密裏に手を結んでいるこの地の協力者に告発をさせると」


「それなんだが……本当に大丈夫なのか、それ?」


「アンドレ……。と、言いますと?」


「二つ……いや、三つか。アニータ、ハダリー、気付いたか?」


「ん、当然」


「アタイは辛うじて一つだね。ヘレナはどうだい?」


「わ、私も、()()なら……」



 普段はおどけたような態度で余裕を崩さないアンドレが、途端にその表情を真剣なものに変える。次いで掛けられた声に、彼の弟子のアニータ、氷狼族のハダリー、重戦士のヘレナが、声を低くして返答する。



「……どこの手の者かしらね? アンドレ、できるだけ情報を吐かせることはできまして?」


(やっこ)さん達の練度次第だな。ヘレナ、ルーチェ。カトレア嬢ちゃんとセレンの護りは任せるぞ。ハダリーには感知できた一人を任せる。アニータは一番足が速いから三軒先の屋根の奴な。俺は残りをやる」


「そこは率先して師匠がやるべき」


「やかましいアホ弟子。一人も逃がす訳にゃいかねぇんだ。キリキリ働け」


「むぅ……」



 不承不承といった様子で、ローブの下で装備を整えるアニータに、一同は思わず苦笑を浮かべる。

 そうこうしている間に、この部屋を盗み見ている輩との戦闘準備が整った。



「ハダリーは無理せず、嬢ちゃん達やこの宿の一般人の安全を優先してくれ。最悪()っちまっても構わねぇからな」


「あいよ。ヘレナ、ルーチェ、アタイらが本丸だ。気張りなよ」


「「は、はいっ!」」



 間諜の気配を察知したことを気取られないよう、さり気ない仕草で指示を与えるアンドレ。一同も注意を払って視線だけで頷きを返し、カトレアは監視されているという事実への動揺をおくびにも出さずに、セレンに普段通りの行動を促した。



「いい情報(ネタ)が仕入れられりゃあ良いんだがな。それじゃ……やるぞお前ら」


「ん」


「あいよ」


「皆さん、よろしくお願いしますわね」



 宵闇と街の灯りに包まれた、ウィンリーネの高級宿の一室で。


 闇に生きる者達の戦いは静かに、誰に気付かれることもなく、その幕を上げたのであった――――





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