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第96話 重戦士ヘレナは自信が無い



「うぅ……! 緊張しましたぁ……っ!」


「上手に演技できていましたわよ、ヘレナ」


「ああ、あれなら上出来なんじゃねぇか? そんなに肩肘張る必要ねぇって」



 ブリリアン伯爵家が治める領都、ウィンリーネで借りた高級宿の一室で、会長に選ばれたメンバー達が思い思いにくつろいでいる。私はそんな中でワーグナー商会の幹部――部長であるカトレアさんや、アンドレさんから労われていた。



「会長はどうして私を選んだんでしょう……。もっと相応しい人だって居るはずなのに」


「なんだぁ、ヘレナ嬢ちゃん。ここまで来といて弱音かぁ?」


「あなたはもっと自信を持つべきですっ。戦士としても魔法使いとしても、しっかり成長してるんですからっ」


「そうですわよヘレナ。ロクサーヌの時も活躍したというのに、貴女がそうでは他の戦闘奴隷達の立つ瀬がございませんわよ?」



 そうは言われても、自信なんて持ちようがない。


 自身の戦闘スタイルもわきまえずに冒険者になり、【赤光(しゃっこう)】のミリアーナに憧れその真似をしては失敗を繰り返し……そうして奴隷になって、それでも頑張って努力してきた。

 憧れだったミリアーナ部長に手ほどきを受けて、ようやく自分が目指すべき戦闘法を理解して実力が上がってきても…………他の奴隷達の成長に焦り、後から入ってきたキョウヤさんやハダリーさん達との実力や才能の差を見せ付けられて、置いていかれまい追い抜かれまいとただ必死に訓練を繰り返した。


 そう。私は、自分に自信が無い。


 そんな悩みを知ってか知らずか、事もあろうに会長は私を今回の他領への潜入任務に抜擢してきた。そりゃあ同行するメンバーはそうそうたる面々で、頼もしいことこの上ないんだけど。

 あげく護衛役のメンバーのリーダーまで任されてしまい、演技ではあるんだけどアンドレ部長やルーチェ部長、そしてハダリーさんやアニータさんに指示を出さなきゃいけない立場になってしまった。



「ん。ヘレナは強い。もっと自覚すべき」


「そうそう。あの戦闘狂のダルトンだって負かしたんだから、その腕を誇りなよ。新入りのアタイから見たって、アンタは一級品の戦士さね」



 みんながみんな、優しい言葉を掛けてくれる。

 それに素直に喜べたらどれだけ楽だろうか。


 本当に……どうして会長は、私にこんな重要な役目を任せてくれたんだろう……?





 今回の遠征メンバーで、護衛担当である私達は、会長の計らいで皆奴隷から解放してもらえている。護衛が奴隷ではカトレアさんが侮られるからという、それだけの理由で。


 今まで常に着けていた奴隷の証の首輪が無くなっても、ワーグナー商会ではそこまで理不尽な目に遭ったことは無かったから、特に何が変わったという感傷もあまり無かった。

 正直なところ商会の居心地の良さにすっかりと慣れきってしまっていたから、いきなり自由の身になっても、これからどうしようかと進路に迷っているのが現状だ。



『今回のお仕事の間、これからどうするかをゆっくりと考えてみてね。ヘレナがどんな道を選ぼうとあたしは応援するし、あなたの自由意志を尊重するよ』



 奴隷から解放してくれる際に、会長が言った言葉を思い出す。


 私は一体、何をしたかったんだろう。ただ漠然と冒険者に憧れ、【赤光】のミリアーナに憧れ……そうして戦いに自らの身を投げ入れて。

 色んな人に出会った。憧れであったミリアーナ部長には稽古を付けてもらえたし、彼女と同等レベルの実力者達に圧倒されもした。



「初めまして。冒険者パーティー【(あか)の牙】のリーダー、ソーマです」


「同じく【紅の牙】のウルピです。指名依頼をしてくれたカトレアさん……で良かったでしょうか?」


「ええ。お忍びの身ですので、どうぞ肩の力を抜いて気軽にお話しになってくださいな」


「そりゃありがたい。冒険者生活が性に合ってて、どうにも敬語だとか丁寧語が苦手になっちゃったんだよなぁ」


「いやいやソーマ、いくらなんでも砕けすぎ。依頼主なんだから最低限の礼儀はわきまえようよ……!」



 冒険者ギルド・ウィンリーネ支部の応接室で、陽動でもある市街観光の案内役兼護衛にと依頼を出した、この冒険者二人組にしてもそうだ。


 冒険者登録して、たったの一年だというのに既にBランク上位。近々Aランクへの昇格が見込まれている十九歳の青年……ソーマさん。

 そしてそんな彼を駆け出しの頃から支え、導いて共に歩み、自身もしっかりと実績を残している兎人族の女性……ウルピさん。


 珍しい黒髪を短髪に整えているこの青年も、淡い水色の長髪から可愛らしい兎の耳をピンと生やしたこの女性も、佇まいからしてその実力の高さが滲み出ている。

 Bランクとは言っても、どうやらその範疇に収まらない力を持っていることは、出逢ってすぐに窺い知れた。


 私の実力はいいとこ、Aランクの下位に差し掛かった程度だろう。

 みんなは私の力を認めてくれ、自信を持てと言ってくれるけど……もっと凄い実力者が私の周りには多すぎて、とてもじゃないけど胸を張るなんてできやしないのだ。



「それではわたくしの護衛隊長である、こちらのヘレナと打ち合わせをお願いしていいかしら?」


「了解。ヘレナさん、これから短い間だけど、よろしくなっ!」


「もうっ、ソーマってば……! すみません、よろしくお願いしますね?」


「は、はい! こちらこそよろしくお願いします!」



 非戦闘区域として武装解除が義務付けられている、冒険者ギルドの応接室。


 鎧を外したせいで突き刺さるソーマさんの視線を胸に感じながら、私は。

 緊張を表に出さないように必死にこらえつつ、前に踏み出したのだった――――





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