第92話 マリアと適性と新スキル
やべぇよぉやべぇよぉ……!! コレどうしようどうしたらどうするぅッ!!??
「力が……身体の底から力がどんどん溢れてきます……!」
うん、そうだろうねミリアーナ……!
新たに得た力を感じ取っているのであろうミリアーナを眺めつつも、あたしの心中はハリケーンもかくやというほどに乱れに乱れていた。
それだけ、あたしが新たに獲得した職業技能の能力は破格で、とんでもないことをしてのけたのだから。
「部下に限定されるとはいえ、任意の人物の職業適性を進化させるなど、前代未聞でございますね……! これは【人物鑑定】以上に、厳重に秘匿すべき能力でございます」
「まったくだよ……! 何も悪いことしてるわけじゃないのに、どんどん人に言えない秘密が増えちゃうのってなんなの……」
「で、ですがお嬢様! 私達には教えてくださったではありませんか! バネッサは言わずもがなですが、私とてお嬢様が秘密になさりたいのであれば、たとえ拷問に掛けられたとしても口外したりしませんから! ですからどうか、私達をお頼りください……!」
あたしの新スキルによって【魔法剣士】から【魔導剣聖】に適性がハイパーグレードアップしてしまったミリアーナが、極秘事項であるあたしの適性の能力を伝えた時以上に興奮して、そう気遣った言葉を掛けてくれる。
実は伯爵達に【人物鑑定】スキルのことがバレた後、昔から一緒に居たミリアーナ、バネッサ、ルーチェの三人には、改めてあたしの職業技能について秘密にしていた理由を含め、打ち明けたのだ。
これであたしの秘密を知る人は、今は亡きお父さんとアズファランの冒険者ギルドのギルマスさん、そして領主であるムッツァート伯爵とその右腕であるザムド子爵に加え、あたしの側近ともいうべき三人娘もその仲間となった。
あ、あとカトレアもちょうどバレた時に知っちゃったから、彼女も秘密の共有者だね。それとキョウヤもか。
キョウヤはなんというか、同じ日本人仲間だから信用してるからなぁ。あれ? 意外と秘密知ってる人多いな?
「この能力のことが知られたら、きっととんでもない騒ぎになるのは確実だね。仮に商会のみんなの適性を進化させるとしたら、秘密厳守の契約を交わしてからじゃないと危ないね……」
「そうでございますね。まあ、商会の者や奴隷達でしたら大丈夫かとは思いますが、何がきっかけで漏洩するかは分かりませんからね」
あたしの言葉に同意してくれるバネッサに頷きを返してから、改めて適性を進化させた二人を【人物鑑定】で視てみる。
名前:ミリアーナ 年齢:29 性別:女
職業:冒険者 適性:魔導剣聖 魔法:火・風・光
体調:良好 能力:S 潜在力:SSS
祝福:不惜身命
名前:バネッサ 年齢:30 性別:女
職業:侍従頭 適性:参謀長 魔法:水・闇・無
体調:良好 能力:S- 潜在力:SS
祝福:明鏡止水
「おぅふ……!」
ついつい、溜息にも似た呻きを漏らしてしまう。
進化した適性の潜在力がとんでもないのもさることながら。だけどそれよりも、もっと重要な事がある。
いやうん、どうして〝祝福〟なんてモノまで追加されちゃってるのォッッ!!??
不惜身命:大義のため身命を賭した時、心技体全てにおいて強大な力を得る。
明鏡止水:心揺らぐことなく穏やかであれば、その力は一段上のものとなる。
祝福ってのはぶっ壊れ性能のモンしか無いんかいッ!? キョウヤの【乾坤一擲】は転移者の特典なのかなぁーって思ってたら、これどう考えてもあたしが与えたってことになるよねぇッ!? ただでさえ適性を進化させるってだけでも大ごとなのに、そんなのすら霞みそうなほどの重大案件だよ、こりゃ……!!
……ルーチェが帰ってきたら、彼女の適性も進化させてみて検証するしかないか。
仮にこのスキル【昇任人事】が祝福を確定で与えることができるとしたら、それこそ絶対に他人に話すわけにはいかないからね。
やだなぁ怖いなぁ……! 今でさえ超希少なルーチェの適性である【賢者】が進化したら、一体どうなってしまうんだろう……? 【賢者】から進化するとすれば【大賢者】かな? そんなの伝説とか神話にしか登場してないんじゃないかな……?
「祝福でございますか……。まさか伝説の勇者や聖女に与えられるような能力を、私が得ることになろうとは……」
「同感だな。それでお嬢様、この祝福というものは詳細は見られるのですか?」
「キョウヤの時も見れたから、もう視てみたよ。ミリアーナの【不惜身命】は、大義のために命懸けで働く時に底力みたいのが湧き上がるみたい。バネッサの【明鏡止水】は、冷静でいればパフォーマンス……能力が向上するみたいだね」
「今よりももっとですか……。もはやあの【竜槍】アレクセイ殿ですら相手にならない予感がするというのに……」
「心乱すことがなければ……。これはより一層精進せねばなりませんね」
いやホントとんでもないな。バネッサもだけど、ミリアーナなんて今でも最強クラスの強さを誇っているというのに、これよりさらに力が上がるなんて敵対した相手にとっては悪夢でしかないだろう。【竜槍】――伯爵の騎士団の長であるアレクセイ・コールマン卿が鎧袖一触に蹴散らされる姿をつい想像してしまい、思わずスカッとしてしまったのは内緒だ。
「とにかく、このスキルは完全に極秘事項にしとかないと危険すぎるね。職員に取り立てた人ならともかく、奴隷に関しては購入希望者が現れた時に無用の混乱を招きかねないから、できるだけ使わないようにしなきゃ」
「それが良うございますね。皆が皆、ルーチェのように適性や能力を偽装できる訳ではございませんから」
「だよねぇ」
改めて三人で頷き合い、凄まじいけど厄介すぎるあたしの新たな職業技能【昇任人事】についての検証に、キリを着ける。
いやホント、適性を授かった当初から思ってたことだけど、あたしの適性である【社長】って、謎過ぎだよね……。この上さらにレベルが上がるとしたら、一体どうなってしまうのやら。
「…………お嬢様」
検証会を終えて肩の力を抜いたところで、ふとミリアーナが思案顔で声を掛けてきた。
どうしたの、と首を傾げて言葉の先を促すと、若干ワクワクしたような様子で、彼女は。
「ふと思ったんですが……お嬢様のそのスキルを、【料理職人】であるムスタファに使用した場合は、一体どうなるんでしょう……?」
…………つい今しがた無闇に使うのはやめとこうね、と話をしていたにも関わらず、期待と興奮で浮足立ってしまったのは……この三人だけの秘密だ。