表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/103

第91話 マリアと研究部門と人事の問題



 〝奴隷商会〟改め、〝商社〟ワーグナー商会。

 そう呼び名を変えるべくあたしは、早速領主であるムッツァート伯爵閣下にその許可を求める書簡を提出した。


 ベースはこれまで通り奴隷商としての役割を担いつつ、新たな取り組みを積極的に包括し、奴隷を主軸にして多方面でその能力を発揮してもらう母体となる。

 言ってみれば総合商社かな? まあ、制度も何もかもが未発達なこのエウレーカの世界では、宣伝や営業なんかも足で稼ぐしかないから規模はうんと小さいけれど。


 そんなあたしへの伯爵からの返信は。



『奴隷商の枠組みを超えた役を自ら担っていこうという、その心意気に敬意を表する。存分にその手腕を発揮し、この伯爵領……ひいてはフォーブナイト帝国の発展への寄与に期待する』



 とまあ、過分なお言葉を頂戴し、晴れて〝商社〟を名乗れるようになりました。



「さて。そうと決まれば早速、〝ワーグナー商会・サイファー技研〟の準備を進めていかなきゃね」



 文字通り心機一転。

 商会の規模の拡大を名で表したのも、全ては次期伯爵閣下となられるサイファー様……サイファー・ムッツァート伯爵令息との共同研究機関を発足させるためだ。


 伯爵の息子である彼の箔付けと同時、あたし達ワーグナー商会のこれまで培ってきた新技術や薬学研究の成果、そしてこれから行われる〝魔法と錬金術の融合〟を大々的に世に知らしめるためにも、新たな名乗りでその〝格〟を誇示する必要があるからね。

 すでに権威あるギルドとも敵対した以上、ポッと出の新参と侮られる訳にもいかないし。何よりすでに散々扱き下ろされてきた報復……ゲフンっ。もとい意趣返しと地盤作りを目指す上でも、存在感のアピールは欠かせない課題なのだ。



「あ、あのぉ……そのぉ……、や、やっぱり無理ですよぉ会長ぉ~っ」


「なんでさコレット……! この前までは『新しい研究楽しみ!』って小躍りして喜んでたじゃん!?」


「こ、小躍りまではしてませんよぉ~! そ、そりゃあ研究は性に合ってますし楽しいですけど、なんで私が()()()()()なんですかぁっ!? 伯爵様の後継者様と研究なんて無理ですよぉ~っ!」


「他に適任が居ないんだからしょうがないでしょ!? っていうかなんでそんなに自信が無いの!? あなた【錬金王】なんだよ!? 全ての錬金術師の憧れなんだし、実際新しいポーションの開発にも成功してるんだから、もうちょっと胸張りなさいよ!?」


「そそ……っ、それとこれとは別問題なんですぅ~っ!!」



 だがしかし。肝心(かなめ)のコレットさんがですね……!

 フタを開けてみたらお偉い貴族様との共同研究ということに、ビビリ散らかしちゃいましてね……!!


 やっべぇな、コレどうしよう……? 早くも計画頓挫の危機って笑えねぇ……!

 まあ研究部門の規模拡大と独立のために、このハル・ムッツァート支店の敷地内に新しく研究棟を建築する予定だから、まだ発足までは時間はあるんだけどさ……。


 一番の問題は、コレットの適性なんだよなぁ。


 彼女の職業適性である【錬金王】は、それこそ各地の領主達どころか国が喉から手が出るほど欲するくらいの希少適性だ。戦闘面での【勇者】、信仰面での【聖女】と【聖者】、魔法面での【賢者】といった戦略級の適性には及ばないにしても、それでも国の根幹を担うに足るほどの有用性を秘めている。

 そんな彼女を駆け引きの切り札とはいえ、奴隷の身分から解放してしまったのだ。〝あたしの奴隷〟という法によって(まも)られる立場から一転、自由な平民の身分になってしまった以上は、信頼でき庇護してくれる後ろ盾が必須だというのに……。



「はぁぁ……! 分かったよコレット。確かに無理強いはできないもんね……」


「……ぇ、か、会長……?」


「自信が持てるようになるまでは、これまで通りルーチェの部下という形で頑張ってくれる? 経験と研鑽を積んで、いずれ研究部門を引っ張ってくれるようになってくれれば良いからさ。サイファー様との仲立ちも、あたしが協力するから」


「ふぇ……? い、いいんですかぁ……?」



 あたしの妥協案に、上目遣いで恐る恐るこちらを窺うコレット。


 いいも何もさ……。嫌がる部下に仕事を押し付けるなんて、ホワイト精神を掲げる我が社では決して許してはいけないことだからね。

 コレットに足りないのは自信と自己肯定感。それを培って積み上げて、本人が胸を張って『やれる』と、『やりたい』と言ってくれる日を、気長に待つことにするよ。


 部下の成長を助けて見守るのも、【社長】であるあたしの役目だからね。



「ご、ごめんなさいぃ……!」


「謝らなくていいから。その代わり、今まで以上に頑張って、どんどん新しい技術や製法を開発してね」


「は、はいっ! 頑張りますぅ!」



 さてそうなると、一部計画を見直さなきゃね。

 今のコレットに研究部門を押し付けるのは負担でしかないから、実務的なところは引き続きルーチェに部長として引っ張ってもらって……と。


 サイファー様との打ち合わせも近い内にやらないとなぁ。全部こっちの好きにやるんじゃなくて、ちゃんと彼の意向も組み込まないと、ただのお飾りじゃ箔付けにはなっても……うん、伯爵は絶対に功績としては認めないだろうなぁ……。


 ま、内容が内容だし、じっくり構えますかね。

 無理してあたしが倒れちゃったら、全部が台無しになっちゃうしね。


 そんな風に思いながら、あたしは自分に職業技能(スキル)【人物鑑定】を行使する。

 いやこれ、体調管理にも便利なんだもんよ。




 名前:マリア 年齢:14 性別:女

 職業:奴隷商 適性:社長 魔法:無・浄化

 体調:良好 能力:B+ 潜在力:S

 備考:職業技能レベルアップ・新スキル【昇任人事】獲得




 …………んん???

 なんぞこの、『新スキル』って……??





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ