第9話 成長〜奴隷使いの少女・マリア〜
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「ミリアーナをあたし専属にしたいから、契約させて。」
夕飯の席。
あたしが発した言葉に、食卓の面々の動きが固まった。
ママ――ジョアーナは、驚愕に目を見開いて。
パパ――スティーブは、苦虫を噛み潰したような顔をして。
「パパ。ミリアーナの奴隷契約の、主人をあたしにして。」
もう一度、重ねて言う。
パパの渋面が益々渋くなっていく。
「マリア。ミリアーナは、奴隷としてやってはいけない事をしたんだよ? 物を壊し、暴力を振るい、主人に逆らったんだ。これは、犯罪者として扱って良いほどの重大な事なんだよ? 解って言っているのかい?」
奴隷に定められた部屋からの、器物を損壊した上での脱走。
他の奴隷への暴行、傷害。
主人への明確な反抗。
そのどれもが、借金奴隷から犯罪奴隷へと更に身分を落とされても、文句の言えない事。
そんなことは解ってるよ。
「ミリアーナがああなったのは、あたしのせいだもの。あたしのために怒ってくれたミリアーナを、犯罪奴隷になんかさせたくないの。お願い。お小遣いも要らないし、ワガママももう言わないから。」
ママが作ってくれたご飯にも手を付けずに、真っ直ぐにパパを見詰める。
手っ取り早く彼女を救いたければ、買い取れば良い。
でも力もお金も無いあたしでは、ミリアーナを救うことはできない。
「今まで貰ったお小遣いも、貯めてたのを全部返す。足りない分はこの先お仕事を手伝って絶対に返す。だから、ミリアーナをあたしにちょうだい。」
それでも、あたしが大好きな、あの凛々しくて冒険が良く似合う、綺麗な微笑みをあたしにくれるミリアーナを、犯罪奴隷にだけはしたくない。
だから、何をしてでも救ける。
あたしが伊達や酔狂で、ましてや子供の妄言として言っているのではないと、そう判断したのか。
スティーブは眉間の皺を僅かに弛めて、長々とした溜め息をついてから、口を開いた。
「……ミリアーナは、首輪の戒めで意識を失って眠っている。目が覚めたら、先ず彼女とお話してみなさい。その後、僕が彼女と話をしよう。」
説得しろってことで良いんだよね?
言われてみれば確かに、彼女の性格だと自ら犯罪奴隷落ちを望みそうだ。
それを覚悟した上で、あんな暴挙に出た可能性が高い。
それなら、思い留まらせるのもあたしの役目だ。
あたしのために怒ってくれた優しいミリアーナを、絶対に犯罪奴隷になんかさせない。
「さあ、今はご飯を食べよう。折角のヨナの手料理が、冷めちゃうよ。」
そう言って食事を促してくるパパの顔はどこか優しげで、最近あたしに見せる落胆や哀れみは、無くなっているように感じた。
◇
コンコン、と。
控えめなノックの音に、読んでいた本から顔を上げた。
「お嬢様、バネッサです。」
「どうぞ。」
静かに開かれた扉の向こうには、あたしの先生でもあるメイド奴隷のバネッサと、バツの悪そうな顔をしている、ミリアーナが立っていた。
「ミリアーナ! 目が覚めたんだねっ!」
あたしは思わず、本を投げ出し椅子から飛び降りて、扉の前に佇む彼女に駆け寄っていた。
だけどそんなあたしを、バネッサが阻んだの。
「お嬢様。どうかお近付きになりませんよう。気持ちは解るとはいえ主人に楯突いた奴隷に、これ以上主のお子様が近付くのを、許す訳には参りません。」
う……!
バネッサの顔付きが厳しい。
これは、勉強で何度も同じミスをした時に見せる顔だ。
こうなった時のバネッサはホントに厳しくて、あたしが理解出来るまで懇々と、繰り返し同じ内容を説き始めるのだ。
「……分かったよ。じゃあ、バネッサが監視するのね? お話、させてくれるんでしょ?」
「そうなります。ですのでお嬢様。どうか、お席にお戻りくださいませ。」
バネッサの指示に素直に従う。
これ以上ミリアーナに罰が与えられる事をするのは、避けないとね。
勉強机の椅子に座って、改めて彼女たちに向き直る。
「立ち話も何だし、座ってお話しよ?」
そう言って、あたしはミリアーナとバネッサに、部屋に置いてある椅子に座るよう促したの。
けど。
「お嬢様! この度は、大変なご迷惑をお掛けしました……!」
バネッサが部屋の隅にある椅子を取りに行く間に、膝を折り、枷の付いた両手を床に着けて。
ミリアーナは、深々と頭を下げた。
「ちょっ!? ミリア――――」
「お嬢様。」
慌てて腰を浮かしたあたしだったけど、今度はそれも、言葉ですらも、バネッサに止められた。
話を聴けってこと……?
無言でバネッサを睨むあたしに、彼女は静かに、頷きだけを返した。
不承不承だけど、あたしはもう一度、椅子に腰を落ち着けたの。
「借金のある身を救っていただいたにも関わらず、ご主人様に……お嬢様のお父上に手向かってしまったこと、深くお詫び申し上げます。」
そう語り出したミリアーナは、頭を下げたままで。
そのままで、話を続ける。
「私は、どうしても我慢ならなかったのです。あんなにも明るく、天真爛漫だったお嬢様のお顔に影が落ちたままなのも。
詳細不明な職業適性で一番気落ちされているはずのお嬢様が、それでも努力を怠ることなく、懸命に日々研鑽を積まれて居るというのに、手を差し伸べられない旦那様にも。」
良く見れば、微かにその肩を震わせている。
その声は、絞り出すようで。
いつもの凛とした佇まいも、鈴が鳴るような透き通った声もそこには視えず。
それこそ、影が落ちたように、あたしの大好きなミリアーナを覆い隠してしまっているように感じた。
「結果……お嬢様の目の前で我を忘れ、お嬢様の大切なモノを多く傷付け、損ないました。近くにお嬢様が居るにも関わらず騒ぎを起こし、あまつさえ、お嬢様のお父上に、逆らいました。
覚悟は出来ています。あの時に、既に済ませました。私はもう、お嬢様のお傍に仕えることが出来ません。
お嬢様との、旅をする約束を果たせないことを、一方的な私の身勝手で反故にしてしまったことを、今日は謝罪に参りました。」
そう言って一度顔を上げて、まるで最期に目に焼き付けるかのようにあたしを見詰めてから、また頭を下げるミリアーナ。
そして言葉は止まり、彼女はそのまま動こうともしなくなった。
きっと、あたしからの言葉を待っているんだろう。
あたしはバネッサに、確認のために顔を向ける。
彼女はそんなあたしに再び、今度は優しい顔で頷きを返してくれた。
「ミリアーナ。」
声を掛けた瞬間、ミリアーナの肩がビクッと震えた。
ああ……
辛いって、そう思ってくれているのかな。
ホントは離れたくないって、約束を守れなくてごめんって、そう思ってくれているのかな……
だったらさぁ……!
「ミリアーナ。あたしの……ううん。俺の、奴隷になってよ。俺だけの、ミリアーナになってよ。」
離したくない。
離れたくない。
いつもみたいに、冒険のお話を聴かせてほしい。
失敗した話も、成功した話も、まだまだ聴きたいことは山ほどある。
冒険の話をしている時の、あのキラキラとした凛々しい顔を、また見せてほしい。
あたしを護ると言った笑顔を、俺と共に旅に出ると言った約束を、もう一度見せて、聴かせてほしい。
「お嬢様……!? お言葉遣いが……!」
バネッサが狼狽えているところを見るのは、初めてな気がするな。
ミリアーナまで、思わず顔を上げて、ポカンとした表情だ。
でもゴメンね、2人とも。
これが、あたしの……俺の、本性だから。
パパやママには、ナイショにしてね?
「ミリアーナを犯罪奴隷になんかさせない。貴女には、俺の奴隷として生きてもらう。約束を破らせたりなんか、しないからな。奴隷としてあたしを、俺を護れ。俺と一緒に働いて、いつか旅をする約束を果たせ!」
自分でも意識しない内に、机から離れ、ミリアーナの目の前に立って、手を差し出していた。
目の前には、ちゃんと観ないと気付かないほどの涙を湛えた瞳の、ミリアーナの顔が在った。
「俺の手を取れ、ミリアーナ。今日から貴女は……お前は、俺の奴隷だ。」
あたし、奴隷商の娘、マリア。
歳は7歳で、クマどんのヌイグルミがお友達の女の子。
好きなモノは、ママの手料理と、クマどんと、凛々し美人のミリアーナと、メイドのバネッサ。
嫌いなモノは、脚が8本以上有る蟲と、パパのおヒゲと、教会のデブ司祭。
将来の夢は、仕事を継ぐことと、ミリアーナと一緒に世界中を旅すること。
そんなあたしは、今日から奴隷使いとして、生きていきます!
奴隷使いの少女、爆・誕!!
「面白いね!」
「ミリアーナちゅき」
「マリアが男前にw」
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これからも気長に、奴隷商ライフにお付き合いくださいませ!
m(*_ _)m