表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/103

第71話 ウザ絡みされるマリア

遅くなりましたー!



「やっと……終わったぁ……!」


「お疲れ様でございます、マリア会長」



 ありがとね、バネッサ……! ホントにもう、なんでこんなことになったんだか。

 って、あたしのポカのせいなんだけどね。


 あたしは現在、領主様である伯爵のお城の部屋を借りて、彼の騎士団の構成員全員の名簿を作っていたの。


 なんでそんなことをって?

 それはあたしの適性【社長】が持つ職業技能(スキル)【人物鑑定】の存在が伯爵にバレたからだよ。



「しかし、本当に凄まじいスキルでございますね。現在の能力値に、潜在的な能力値まで看破できるとは……」


「教会なんかに普及してる鑑定の魔導具だと、職業適性と魔法の適性くらいしか判らないからね。騎士達全員を鑑定するのは正直疲れたけど、この程度で済ませてくれて良かったよ、ホント……」



 本当に、あの伯爵様には頭が上がらないね。

 人間ができてると言うか、器が広いんだよねぇ……。


 五日間泊りがけで騎士団員の現状をまとめた名簿を整理しながら、あたしは我らが領主様である、クオルーン・ヨウル・キャスター・ムッツァート伯爵との会話を思い出す。



『お主に在らぬ嫌疑を掛けたことを詫びよう。それによって此度の越権行為の咎めは相殺し、不問といたす。何か不服はあるか?』


『いえ。士爵如きが確たる証拠も無しに閣下のお手を煩わせたこと、改めてお詫び申し上げます。そして寛大なるお言葉に深く感謝いたします』


『うむ。いかに私が伯爵位を持っていようが、他領での事に介入するにはそれ相応の根回しを要する。此度のような場合は、まずは私に相談するがよい。我等が帝国のためになる事柄であれば、私は耳を背けはしない故な』


『肝に命じます』



 不法な魔導具所持の疑いも晴れたし、国が認めた、しかも他領の奴隷商会への立ち入り調査なんて事を突発で伯爵閣下にやらせてしまった不敬も帳消しとなった。


 まあ、そうして安心していたのも束の間のことだったんだけどね。



『時にマリアよ。お主のその能力を見込んで、一つ仕事を依頼したい』


『仕事、ですか……?』


『うむ。それはだな――――』



 で、今に至る訳ですよ。

 もちろん謝礼は頂きましたけれどもね? 謝礼(ソレ)に加えてあたしの適性やスキルについても、国には報告しないと約束してくれたけどもね?


 伯爵は部下の全員を鑑定してもらいたかったみたいだけど、さすがにそれは人数が多過ぎるし、何日……いや何週間掛かるか分からなかったから、領都に常駐する騎士団員だけってことで大目に見てもらったんだよ……。


 で、あの謁見から五日間領城に泊まり込んで、ようやく二千人近くの兵士達の名簿を作り終えたってわけ。


 ちなみに謝礼は、なんと大金貨100枚……金貨にして1万枚もの大金を既に頂戴してしまっている。

 先にロクサーヌを競り落とした費用の実に三分の二が、ポンと手に入ってしまったよ……はは……!


 まあそんなこんなで大仕事を終えたあたしは、伯爵への窓口でもあるザムド子爵の元へ書類を届けようと、バネッサと共に部屋から出たのだった。





 ◇





 いやあ、広いねー。さすがは大貴族たる伯爵閣下の住まうお城だよ。お付きの使用人さんが居なかったら確実に迷子になる自信があるね。


 そんなことを考えながら、先導してくれる使用人さんについて中庭の渡り廊下に差し掛かった時だった。



「む! そこ行く小さいのは、ワーグナー商会の会長殿ではないか!!」



 げ……っ! 面倒なヤツに見付かってしまった……!


 あたしに声を掛けてきたのは、かつてここで行った御前試合で、ミリアーナを相手に凄まじい戦いぶりを見せたムッツァート騎士団の団長、【竜槍(りゅうそう)】の二つ名を持つ騎士アレクセイ・コールマンだった。



「コールマン卿、ご機嫌麗しゅう」


「む、なんだなんだ堅苦しいな。オレと貴姉の仲ではないか!」


「い、いえ。わたくしは所詮は名誉貴族でございますれば。正式な騎士爵であらせられるコールマン卿に礼を尽くすのは、当然でございます」



 めんっどくせぇー!! 何が『オレと貴姉の仲』だよ!?


 何を隠そうこの騎士アレクセイというイケメン野郎は、事もあろうにあたしの大切なミリアーナに、会ったその日に求婚してきたようなキチガイだ。

 あたしは社交辞令を駆使してその場を切り抜けるべく、心の壁を最大出力にして、道を塞ぐ騎士団長に向かい合った。



「むう、なんとも他人行儀な。ところで何故(なにゆえ)に、今回は【赤光(しゃっこう)】殿を連れて来なかったのだ? せっかくまた手合わせを願おうと思っていたというのに……」


「ミリアーナには、別件の仕事の依頼が来ておりましたので。他の部下達では張り合いがございませんでしたか?」



 よく言うよ、まったく。

 どうせ訓練にかこつけてまたプロポーズでもするつもりだったんだろうが。


 旅のお供にミリアーナが居ないのは少し不安だったし、彼女も不服そうではあったけど、今だけは、舞い込んできた指名依頼に感謝だね……!



「いやいや、そんなことはないぞ! さすがは【赤光】が直々に指導した戦士達だ。オレの部下達も負けじと奮起しているし、大変良い刺激になっているとも!」


「それは光栄でございます。彼等へのご指導ご鞭撻のほど、是非ともよろしくお願いいたします」


「うむ、任せるがいい! ところで、その書類の束は何なのだ?」


「伯爵閣下からご用命頂いた、騎士団員達の名簿書類でございます。先程仕上がりましたので、これからザムド・オイラス子爵様の元へお届けに上がるところでございます」


「ほう……!」



 あっ!? こらテメ!?

 何勝手に書類見てんだよ!? 一応個人情報なんだぞ!?



「ほうほう、随分と読み易い書類だな! これは助かるぞ! それにこの適性や能力値も分かり易くて良いな!!」


「勿体ないお言葉でございます。では、お届けに参りますのでこれにて――――」


「まあ待て! オレのもあるんだろう!? どれだ!? 見せてくれ!!」


「あああ!? ちょっ、やめッ!? いやぁー!? 順番が滅茶苦茶にぃいいい!?」



 何しやがんだコンチクショー!!?? ちゃんと頭文字の順番に並べてまとめてあるのにぃッ!!!



「アレクセイ様!! その書類の束は一般兵達の物ですっ! 指揮官級の方々の書類はこちらですからっ、お願いだからグシャグシャにしないでええええ!!!」


「む? そうかそうか! どれ、見せてくれ!!」


「はぁぁ……! バネッサ、お渡しして」



 嬉々としてバネッサから書類を受け取る騎士アレクセイ。その横であたしはコイツがブチまけた書類をまた順番通りに整頓し直す羽目になってしまった……。


 もう、コイツホント嫌い! なんでこんな非常識な奴が騎士団長なんかになれたんだよ!? あたしが平民上がりの士爵如きだからって舐めてんのか!?



「騎士アレクセイ・コールマン卿。この書類は伯爵閣下から直々にご用命頂いた物です。それをぞんざいに扱うなど、とても騎士団長ともあろうお方の行いとは思えません。この件は正式にザムド子爵様、ひいては伯爵閣下へとご報告させて頂きますからね」



 恨みを込めた視線を送りながら、せめてもの意趣返しを試みる。そうだな、ついでにミリアーナへの求婚も止めるように言ってもらうか。

 彼女が自ら望まない限り、あたしは彼女を手放すつもりなんてコレっぽっちも無いんだからね!!



「んな!? そ、それは困るっ! 相すまなかった、この通りだ! 整頓も手伝うから勘弁してくれ!」


「ああ!? 適当にまとめないで下さい!! ちゃんと頭文字順に並べてるんですから!!」


「な、なに!? そうだったのか、済まない……!」



 ああもう、うぜぇええええええ!!!

 何なんだよコイツはよぉー!? ホントに騎士団長なのかよ!? いい三十路の男が子犬みてーにシュンとするんじゃねぇーーーッ!!


 その後もしばらくの間そこで足止めを喰らい、ザムド子爵の元へ名簿書類を届けに行けたのはその日の夕方になってからだった。

 自動的に六日目のお泊まりが確定した瞬間だったよ。

 夕方から探して商会の十人近い人数が泊まれる宿なんか、見付かりっこないもんね。クソアレクセイめ、覚えてやがれ……!


 仕方なく割り当てられた自室に戻り、騎士団との合同訓練から戻った戦闘奴隷達に日課の報告を受けながら夕食を待っていると、あたし達に割り当てられた使用人さんが声を掛けてきた。



「失礼いたします、マリア・クオリア商会長殿。伯爵閣下が晩餐を共にと申されておりますので、お招きに上がりました。お供の方々も是非ご一緒にとの仰せです」



 …………あたし、もうお(うち)に帰りたいよぅ……!!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] マリア、可哀想な子ッ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ