第70話 伯爵に問い詰められるマリア
更新が安定せず、大変申し訳ございませんっ!
「さてマリアよ。何故此の度お主を呼び寄せたか、聡いお主であれば察しておろう?」
「さて、何のことでしょう? わたくし如きには聡明なる伯爵閣下の思惑を知ることなど、とてもとても……」
ふぇぇーん! どうしてこーなったあああ!!??
あたしは現在、我等がご領主様であらせられるクオルーン・ヨウル・キャスター・ムッツァート伯爵閣下の召喚命令を受けて、何度目かになる領都“ハル・ムッツァート”の領城へと来ている。
そして随分と馴染み深くなってしまった応接間で、表面上はにこやかな伯爵閣下との面談中でございますぅ……!
「ほう、シラを切るか。ならばザムドよ、とくと聞かせてやるがよい」
「承知致しました、閣下」
あばばばば……! コレって絶対アレのせいだよね?
ていうかザムド子爵様!? なんでそんなに嬉しそうに報告書チラつかせてるのさぁ!?
「それでは失礼して。ワーグナー商会会長、マリア・クオリア女士爵殿。君は過日、君と同じく奴隷商会を営むギャリソンという男から賭け事の誘いを受諾し、アズファランの街の冒険者ギルドにて、奴隷同士の試合に臨んだのだね?」
「は、はい」
「その試合に於いて見事勝利し、彼の商会より賞品として奴隷二名を受け取ったと」
「はい、その通りでございます……」
淡々と報告書の内容を告げる伯爵の右腕、ザムド・オイラス子爵。初めて会った時から油断のならないというか、狸っぽい曲者感を漂わせていた子爵は、さらに嬉々として報告書を読み上げていく。
「試合の立会人を務めたのは、かの街の冒険者ギルドの支部長である、元Aランク冒険者のハボック殿。そしてアズファランの街の警備隊隊長のグリードで、間違いないのだね?」
「はい、間違いありません」
「試合に負け不正を訴えたギャリソンを、その場で拘束したのは?」
「事実でございます。不正などありませんでしたし、街の住人含め多くの証人が居ります」
「警備隊隊長のグリードに、ギャリソンのゴルフォン商会の調査を進言したのは?」
「――――ッ! し、賞品であった奴隷の一人が、明らかに心を病んでいた様子でしたので、つい……」
ちょっとマズったかなぁ……!
奴隷商会の内部調査なんて、確かにあたしが言い出す事ではない。その領それぞれの責任者の……もっと言えば国の管轄の話だ。
これはアレかな。越権行為だとかで、お咎めも覚悟しておいた方が良いかもしれないな……!
「マリアよ」
「は、はい、伯爵閣下」
尋問を受けているような心持ちになっていたあたしは、恐る恐る伯爵に振り返る。
確かにグリードはアズファランの街に伯爵が配備した警備隊の隊長で、いくらあたしと親しくしていたとしても、本来であればあたしが動かせる人物ではない。
あの街でそれが可能なのは、伯爵が派遣している代官か、協力体制をとっている冒険者ギルドのハボックさんくらいだ。
それを顎で使ったことへの咎めは、充分に考えられる。
どうしよう……! このまま商会長の座を取り上げられたりしたら、亡くなった両親に顔向けできないよぉ!?
「そう構えるな。お主の進言の通りにゴルフォン商会を調査したところ、まあ出るわ出るわ、非人道的な行いの数々が発覚したのでな。他領故私が直接沙汰を下すことはできなかったが、憲兵に任せておけば奴隷達は悪いようにはならぬであろう」
「それは……何よりでございます……!」
良かった……! あの商会に憲兵の手が入るのなら、一先ずは安心できるな。そういえば元本家に殴り込みした時の憲兵の隊長さん達、元気にしてるかなぁ……?
「うむ、安心するがよい。ところでだ、マリアよ。お主、どのようにしてギャリソンの……かの奴隷商人の非道を知った?」
あたしに安心するよう声を掛けてくれた伯爵だったが、次の瞬間にはその瞳を鋭くして、まっすぐに見詰めてくる。
「で、ですから、奴隷の少女カレンが、酷く心を病んでいた様子でしたので――――」
「確かにグリードの報告書にも、その旨は認められておった。『事情は分からないが、酷く塞ぎ込んでいるように見えた』とな。だがお主は、具体的に『心を病んでいる』と言った」
ぬああ!? しまったぁー!?
伯爵の指摘に、どうしようもないポカをやらかしていた事に気付かされる。
あたしの職業技能【人物鑑定】によって判明した、ギャリソンから奪い取った奴隷であるカレンの状態“心神喪失”。ソレがあったせいで、最初から確信を持ってギャリソンが非道を行っていると知り、伝えてしまっていた。
だって調教済みとしか思えないじゃん、そんなの。奴隷になった当初からああなら、そもそもそんな奴隷ギャリソンが連れ回すはずがないし。
「他者を鑑定する魔導具は、“鑑定の儀”を執り行う教会施設か国の主要部、もしくは大陸全土で中立を宣言する冒険者ギルドにしか扱いが許されておらぬ。よもやお主、そのような貴重な魔導具を隠匿しておる訳ではあるまいな?」
疑われてるぅー! めっちゃ疑われてるよぉー!?
伯爵怖いよー、そんな目で睨まないでよぉー!!
「め、滅相もございません……! 誓って! わたくしマリアは、我が帝国の法を侵す行為などしてはおりません!」
「ほう? ならば答えよ。此度の奴隷商人ギャリソンの、非人道的な行い。それを知るところとした根拠について」
……ヤバいなぁ、これ。どう考えても適当な誤魔化しで切り抜けられる状況じゃないや。
一応、スティーブやハボックさんとも秘密にするって約束したんだけど…………仕方ないか。
それに、この人なら打ち明けても大丈夫な気はするしね。側近のザムド子爵はちょっと心配だけど。
「……承知いたしました。これはわたくしが得た職業適性のスキルに因るものです。これが発現してよりわたくしは、相対する人物の為人を知ったり、能力を知るために行使してきました。ザムド子爵様、失礼いたします」
断りを入れてから、伯爵の傍らに控えるザムド子爵を視る。
名前:ザムド・オイラス 年齢:39 性別:男
職業:領主補佐 適性:内政官 魔法:無・水
体調:やや疲労 能力:A 潜在力:A
備考:フォーブナイト帝国貴族・子爵位
スキル【人物鑑定】で得た情報を、伯爵と子爵に口頭で伝える。
ちなみに今この応接間には、その二人以外にあとはカトレアと、補佐兼お目付け役としてバネッサしか居ない。
ミリアーナは残念ながら依頼があって留守にしているし、護衛でついて来たヘレナは他の戦闘奴隷達と一緒に伯爵の部下と合同訓練中だ。
同じ日本人のキョウヤ以外にあたしのスキルを明かしたのは、父スティーブとハボックさんの件以外では初めてのことだ。
「……ザムドよ、今のマリアの言は、真のことか?」
「は、はい……! 真実でございます、閣下」
困惑しているね。まあ、それも無理のないことだよね。
この世界で自分の能力を把握しようとするなら、さっき伯爵が言ったように特定の施設に行くしかないからね。
一番簡単なのは、冒険者登録をして各ギルド支部で鑑定料を払って見てもらうのが手っ取り早いかな。まあそれにしたって、全ての村や町にまで支部が在るわけでもないし、お金が掛かる以上気軽にはできないことなんだけど。
「なるほど……。お主がその歳にして優秀な者を多く従えていることにも、これで得心がいった。確かにその能力は秘匿すべき物であろう」
「畏れ多いことに存じます。わたくしはこのスキルによって、ギャリソンが連れていた奴隷カレンの状態を看破し、かの者の非道を知ったのです」
「よく分かった。在らぬ疑いを掛けたことを詫びよう」
「滅相もないことにございます。どうかお気になさらず」
良かった……! どうやらあたしが罪を犯しているという疑いは晴れたみたいだ。
だけど、下手をすれば国益を損ないかねない能力を秘匿していたことがバレてしまった。バネッサやカトレアも驚いた顔をしてるし……。
これで伯爵があたしのスキルのことを国に報告したら、一体どうなるんだろう……?
便利な鑑定道具として扱き使われるのかな……? あの頃の、前世の社畜時代の頃のように……!
あたし、マリア・クオリア。
ずっと秘密にしていたあたしの能力が、権力者である伯爵閣下に暴かれてしまったの。
優秀な人材確保は国の重要な仕事だし、相手の能力を知るだけだけれど、それを相手を視るだけで可能にするあたしの能力は、その価値は計り知れないものだろうね。
意を決して告白したのは良いのだけれど、伯爵も側近の子爵も真剣な雰囲気でヒソヒソ話してて、正直めっちゃ怖い!!
あたし、これから一体どうなっちゃうのおおおお!!??