第7話 成長〜適性を知る少女・マリア〜
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
あたしは、7歳になった。
この世界の子供達は7歳になると、【鑑定の儀】とやらを受けるらしい。
子供達を聖職者を介して神が判定して、職業の適性や魔法の適性を調べる儀式だそうだ。
その儀式で優秀な結果が出れば、将来は約束されたも同然らしく、世の中の親達、そしてその子供達も、一段と張り切るイベントだ。
んー、まあファンタジー物のラノベで割とテンプレな儀式ってことだよね?
◆
……え、どうしよ。
その儀式で最低な結果だと、あたし追放されちゃったりすんのかな……?
それで過酷な環境に放り込まれて、なんやかやして超絶レベルアップを経て最強に至り、追放してきた奴らにざまぁして回んなきゃいけないの……!?
その話を聴かされた、そんなありふれた展開を恐れたあたし――奴隷商の娘マリア、当時5歳性別女は、絶対に無難な適性を勝ち取ろうと決意したの。
職業の適性は、商人が取れればベストよね。
別に取れなくたって家業はあたしが継ぐつもりだし、関係ないと言ったら、ないんだけど。
魔法の適性は、正直色々欲しいものだけど……憧れるけど……!
でもやっぱり戦うのは怖いし、無理!
というわけで、支援系の魔法か、俗に生活魔法と呼ばれている、無属性の魔法の適性を狙いたいところ。
治癒魔法も考えたけど、治癒の才能のある人って、半ば強制的に教会に勧誘されるらしいんだよね。
あれだ。
治癒の力は神が与えたもうた奇跡なり〜、ってやつ。
で、そんなのはごめんだから、治癒魔法もパスね。
『う〜ん……』
望んだ適性を得るには、どうすれば良いのか。
当時5歳だったあたしは、悩みに悩んだ末に、奴隷達の部屋を訪れた。
『おはようございます、お嬢様。本日は生憎と、ミリアーナは仕事で外出しておりますよ。』
訪ねたあたしを出迎えたのは、この御屋敷で使用人頭をしている、メイドさんの【バネッサ】だった。
ちなみに彼女も奴隷だ。
1歳の頃、外を見たかったあたしを連れた母親のジョアーナに声を掛けてきた、あたしが初めて会ったメイドさんだね。
『うん、いいの。今日は、バネッサに教えてもらいたいことがあって来たの。』
『私にでしょうか……?』
彼女の遍歴は、あたしが大好きな凛々し美人の、ミリアーナから調達済み。
だからこうして休み時間に合わせて、彼女を訪ねて来たのだ。
◆
「さて、以前にもお伝えしました通り、適性とは、言わば一種の才能です。特にそれに秀でている、そしてそれを行う補正が得られるものです。」
両親に買ってもらった勉強机で、正面に座るバネッサから講義を受ける。
当時5歳だったあたしは両親に頼み込んで、彼女から様々な教育を受けることを許可してもらったんだ。
それから2年間、この女性の仕事のひとつとして、あたしは色々な事を教えてもらった。
この女性は、奴隷になる前はさる貴族家に仕える、顧問的(執事的?)な一族の出だったそうだ。
貴族家の子息への教育係も務めていた過去があって、ウチでも新人奴隷などへの礼儀作法等の教育を、一手に任されている。
そんな彼女の境遇は、仕えていた貴族家が他の家の陰謀のスケープゴートにされて、多額の負債を背負わされて没落したというもの。
嵌められた事以外、何ひとつ落ち度の無かった主家を護ろうと、一族の皆や他の使用人達と奔走した。
けれど、相手は悪人とはいえ貴族。
彼女らの努力は人知れず封殺され、結果彼女自身も負債を背負う身になったそうだ。
「何よりも大切なのは努力でございますよ、お嬢様。たとえ恵まれた適性を得られても、それを活かすも殺すも、その人の努力次第なのですから。」
出来るメイドさんのバネッサに改めてそう言われると、前向きな気持ちになってくるね。
実際このバネッサも、職業の適性は【教師】でもなければ【使用人】でもなく、実は【斥候】だったというのも、説得力を増している。
「魔法も? 適性が無い魔法も頑張れば使えるようになるの?」
しかしその問いに対しては難しい顔をするバネッサ。
「申し訳ございません。私は魔法に関しては、詳しくは分かりかねます。その筋の専門家の方にお訊ねした方が、よろしいかと。」
まあそうだよね。
いくら万能メイドのバネッサでも、知らない事のひとつやふたつは在るでしょ。
「実際お嬢様はこの2年間、望む結果を得られるために、大変な努力をなさってこられました。そしてその努力は、しっかりと身に付いていらっしゃいます。たとえ望まぬ職業の適性だったとしても、悲観なされる必要はございませんよ。」
【鑑定の儀】はもう目前。
ウチは商売柄大っぴらに儀式を受けられないから、一般の信者達とは別室で儀式を受けるらしい。
どうか、不遇職からの追放ルートは回避できますように……!
◇
【鑑定の儀】当日。
あたしは両親と一緒に馬車に乗って、街の教会を目指して家を出た。
7歳にして初めての外出に心が踊ったものだけど、それも市街地に入って10分もしない内に、沈静化しちゃった。
馬車の硝子の嵌められた窓から見えるのは、目に新しいファンタジーその物の街並みと。
道行く人達の嫌悪にも似た視線。
奴隷商が快く思われていないってことを、アリアリと痛感した10分間だった。
勿論、馬車の周囲には護衛の戦闘奴隷も連れて来ている。
あたしが大好きなミリアーナもその1人で、他に3人の計4人で、馬車を囲むように護ってくれている。
父親のスティーブや母親のジョアーナが、外は危ないと言う意味が、よく解ったよ。
これは、確かに護衛が居ないと安心して出歩けないよね。
別に悪い事してる訳じゃないのに。
バネッサの授業で法律も習ったけど、それに反する事なんて、ウチでは一切していない。
法の定める下で、真っ当に商品のやり取りをしているだけだ。
その商品が奴隷というだけで、こうまで悪意を向けられるものなのか……
そんなやり切れない思いを抱えながら、あたしは石畳の路の凹凸の振動に、身体を揺らせていた。
「マリア。ほら、着いたわよ。」
いつの間にかうたた寝していたらしいあたしは、優しく身体を揺するママ――ジョアーナに起こされた。
「ここが、教会……」
あたしのイメージでは、三角屋根のこじんまりとした物……街角に建っていて、神父さんが少ない人数で切り盛りしているような、そんなオーソドックスな教会を想像していたんだけど。
これ、教会と言うより聖堂だよね?
大きな、立派な、豪華な、文化財としても価値の有りそうな風格の建物が、そこには聳え立っていた。
馬車はそのまま教会の正面を通り過ぎて、通りを曲がって裏手に回る。
教会の裏門へと着いたあたし達は馬車から降り、馬車の見張りに御者と護衛の1人を残して、門へと向かった。
パパ――スティーブが2人居る門番に何やら話をすると、門番の1人はチラッとあたしを見てから、あまりやる気を感じさせないような動作で、中へと入って行った。
中に人を呼びに行ったのかな?
ものの数分で戻って来たのは、さっきの門番の1人と、なんだか高そうな、法衣って言うのかな? そんな服に身を包んだ、太ったおじさん。
「お待ちしておりましたよ、ワーグナー商会のスティーブさん。」
「司祭様、本日はよろしくお願いいたします。」
パパに司祭と呼ばれた、このおじさんが言った【ワーグナー商会】というのは、ウチの屋号だ。
別にこれ、家名だとか苗字ってわけじゃないよ。
単に商会長の先代の名前……つまり、パパのお父さんの名前がワーグナーで、その彼が起業したから、ワーグナー商会という名前なだけ。
商人で、人より裕福だろうけど、ウチはれっきとした平民なのよ。
「それでは早速ですが、ご寄進の方を……」
太った司祭だとかいうおじさんが、いやらしい笑みを浮かべてそう言った。
スティーブは、それに一瞬嫌そうな顔をしたけど、持っていた鞄の中から重たそうな皮袋を取り出して、おじさんに渡す。
きしん……寄進ねえ。
偏見かもしれないけど、このおじさんコッチの足下見てない?
なにその『おいおい。奴隷商人みたいな汚れた奴を迎えてやるんだから、解ってるよなぁ?』って顔は?
あたしの中で、嫌いな物がひとつ増えた瞬間だった。
でもこの【鑑定の儀】は、国の方針での人材発掘も兼ねているらしいから、7歳の子供は孤児でもない限り受けるもの、とされているんだとか。
いいよ。
受けるから、サッサと受けてサッサと帰ろう。
「おお! 神は貴方の善行をしかと見届けられるでしょう。では、こちらへ。」
皮袋の中を検めて、途端に上機嫌になる司祭のおじ……オッサンでいいやこんな俗物。
大方思っていたより多かったから喜んだんでしょうよ。
そんな上機嫌なオッサンに連れられて、あたしとパパ、ママ、それから護衛のミリアーナと他2人は、裏門から教会へと入って行った。
通された場所は、広い応接室のような場所だった。
普通の応接室と違うのは、その一角に祭壇が設けられている点。
どうやら、我が家のようなワケありな人を招くための部屋のようだった。
途中で合流した若い神父さんを控えさせて、司祭のオッサンが口を開く。
「それでは早速。本日【鑑定の儀】をお受けになるのは、そちらのお嬢さんでよろしかったですかな?」
オッサンにヌメ着くような視線を向けられて、鳥肌が立ち身体が強ばる。
やめろや!?
いくらあたしがママに似て超可愛いからって、7歳の少女に向ける視線じゃねーだろ!?
思わずママンかミリアーナの後ろに隠れたくなるのをグッと堪え、目を合わせないよう視線を逸らすに留める。
コイツのこんな視線を、我が愛しのママンやミリアーナに向けさせる訳にはいかないからね!!
「はい、マリアと申します。ほら、マリア。祭壇の前で膝を着いて、神様にお祈りするんだよ。」
スティーブに手を引かれ祭壇の前に赴き、膝を着いて目を閉じる。
(神様……! どうか、普通で構いませんので、不遇な適性だけはやめてください……っ! 若い身空で追放ルートは勘弁です!!)
強く、強く祈る。
突然、あたしをこの世界に転生させたであろう存在にすら、祈る。
よくあるラノベみたいに、そんな存在とは会ってすらいないんだけどね!
「ふむ、もう結構です。それでは、最後にこの珠に手を置いてください。」
目を開いて立ち上がったあたしの前に、台に載った、バレーボールくらいの水晶玉が用意される。
これに手を置けば、祈りで授かった適性が判るらしい。
あたしは緊張しながら、恐る恐る珠に手を乗せた。
その瞬間、水晶玉が眩い光を放つ。
思わず目を瞑るくらいの光で、ビックリした。
その光は徐々に弱まり、四角い、ゲームのようなウィンドウ画面を宙に描いた。
そこには、あたしの適性が記されていた。
名前:マリア 性別:女 種族:人間
職業:社長 魔法:無属性・浄化
あたしの、所謂ステータスってやつだ。
種族はやっぱり人間だよね。
スティーブもジョアーナも人間にしか見えないもん。
魔法の適性がふたつも付いてるのは、正直嬉しい。
浄化ってのが、どんな効果かは知らないけど。
でも何より。
この職業適性って……
「社長ってなんなのおおおおおおっ!!??」
奴隷商人の娘、マリア7歳。
転生した異世界での職業は、【社長】みたいです!
マリアの適性は、謎の職業【社長】!
「ええんちゃう?」
「追放されるの?w」
「ざまぁしちゃえよw」
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ざまぁはありませんw