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第69話 新たな仲間と話すマリア

水曜日は完全に寝落ちて書けませんでした。ごめんなさい。


今話の一部で、少し重たいというか胸糞悪い表現があります。

ご注意くださいませ。



 ギルドから帰宅して夜になり、賭けで手に入れた新たな奴隷のハダリーが目を覚ましたと報告を受けたあたしは、応接間へと向かっていた。


 そんなあたしの傍らには、今回同じく賭けの対象となったロクサーヌと、新品のメイド服を着たもう一人の賭けの対象者であるカレンも居る。


 心神喪失状態ではあってもこちらの声は聴こえているし、反応もする。だけど、声が出ない。

 まるで声を出すのを忘れてしまったかのようで、そしてその光の無い瞳もあいまって、まるで動くお人形のようだ。


 12歳であたしとは一つしか違わないから体格は似通っているけれど、まるで生気を感じられず一回り小さく見えてしまうね。

 人目を惹くはずの赤くて真っ直ぐなロングヘアーも、同じく赤い瞳も、鮮やかなはずなのにどこかくすんで見えるよ。



「こちらですわよ。しっかり歩きなさい」


「…………」



 そんなカレンの手を引くロクサーヌ。


 現在バネッサに直接指導を受けている彼女には、カレンの世話係を任せてみた。

 もちろん何かあればフォローはするし、基本的には二人一緒にバネッサに教育指導をしてもらうつもりだ。ロクサーヌにはそれ以外の、いわゆる心のケア的な部分でカレンを支えてやってほしいと頼んでいる。


 歳も近いし、お互いこの商会では同じ新人だしね。


 理想としてはカレンの心を癒し笑顔を取り戻してほしいけど、それはあくまで理想だ。

 だけどそれを伝えたロクサーヌは、意外な返事を返してきたんだ。



『必ず、元気にしてみせるわ。わたくしもああなっていたと思うと、他人とは思えませんもの』



 そう、これまでにない強い瞳であたしに言ってきた。


 なんだか変わったよね、ロクサーヌ。

 バネッサの教育の賜物かな?


 甲斐甲斐しくカレンを先導するロクサーヌの姿に胸を温かくしながら、あたしは応接間へと辿り着き、扉をくぐったのだ。





「こんばんは、ハダリー。気分はどう?」



 上座に座ったあたしの対面のソファには、その長いスラッとした手脚を組んで座る、銀髪と褐色の肌を持つ美女の姿。

 今回の賭け試合でヘレナとキョウヤのペアに敗北したゴルフォン商会の戦闘奴隷、氷狼族の獣人女性のハダリーだ。



「まさか気を失っている間に連れて来られるとは思わなかったよ。あれから試合はどうなったんだい?」



 さすが、戦闘屋なだけあって肝が据わってるね。


 ギャリソンとの対談に同席したこともあり、あたしが名誉爵位とはいえ貴族の端くれであることを分かってるはずなのにね。

 その態度は堂に入ったもので、戦士としての矜恃や貫禄を感じるよ。



「試合はあの後すぐに終わったよ。あなたの元お仲間のダルトンはウチのヘレナに敗北したからね。まあその後で一悶着あったんだけど」


「よしとくれ。ダルトンとは所属が同じってだけで仲間だなんて思っちゃいないんだ。あんな無駄に殺し合いを楽しむ戦闘狂と一緒にしないどくれ。それで? 一悶着ってのは?」



 ふぅーん。あんまり奴隷同士も仲が良かった訳じゃないんだね。ウチとは随分違うんだなぁ。


 溜息を吐くハダリーを観察するけど、どうやら嘘でなく本心からそう言っているようだ。

 まあ、他の奴隷商とここまで関わったのは今回が初めてだし、ウチのようにみんな仲良しって方が珍しいのかもだけどさ。


 さておき、あたしは試合の後でお相手のロリぺド髭〇爵――ギャリソンがありもしない不正を訴えたことや、それを制して逆に不敬罪(暫定)で捕らえられたことを説明した。



「はんっ、アイツがやりそうなことだね。そうか、捕まったのかいアイツ……。ざまぁみろってんだ」


「嫌いなんだね、ギャリソンのこと。キョウヤからはあなたが彼を殺そうとしたって聞いたけど、それも命令? あなたはそれを承諾したの?」


「その子……カレンを観りゃ、アイツが奴隷をどう扱ってるかなんてお察しだろ? そして当然、大嫌いだね。奴隷の契約と首輪の縛りさえ無けりゃ、アタイがこの手でアイツを()りたいくらいだよ」



 忌々しそうに奴隷の証しである首輪を爪で引っ掻くハダリー。毒吐く口には犬歯を剥いて、人を睨み殺せそうな鋭い視線をあたしに向けてくる。


 だけどあたしは見逃さなかったよ。

 毒を吐き殺意を口にする一方で、あたし達の横に置いた椅子に座っている少女――カレンを見る目だけは違った。

 その目には確かに哀れみと優しさが、一瞬だったけれど確かに浮かんでいた。



「思っていたより優しい人みたいで安心したよ、ハダリー」


「ああ? 今の話の何処に優しさがあったってんだい……。キョウヤといいアンタといい、知ったようなことばっか言うんじゃないよ」


「分かるよ。キョウヤも、あなたはとても誇り高い最高の戦士だって言ってたよ。あたしもそう思う。そして、子供の不幸を見過ごせない優しい女性だとも思ってる」


「ッ……!」



 そんなに顔をしかめなくてもいいじゃん。


 今回の賭け試合は、大体はキョウヤが睨んだ通りに、あたしへの報復がメインだったんだろう。

 自身の最高戦力であるハダリーとダルトンを使い、あたしの商会の貴重な戦闘奴隷を再起不能にし、その上で賭けの対象であるロクサーヌを奪い取る。


 唯一の誤算は、ミリアーナの弟子でもあるウチの戦闘奴隷が、ギャリソンの、そしてあたしの予想をも遥かに超えて強くなっていたこと。

 あのロリぺド野郎が喚いていた通り、高名なミリアーナ以外には負ける気なんかこれっぽっちも感じてなかったんだろうね。


 まあ負けるつもりが無かったのは当然、目の前の女性ハダリーも一緒だろうけどね。



「聞かせてくれる? あなたはどうして奴隷になったの? あなたはこれからウチの奴隷になるけど、これからどうしたい?」



 今回の面会の主題を持ち掛ける。


 ちなみにだけど、応接間にはちゃんとあたしの護衛も控えているよ。

 言わずもがな、あたしの一番の腹心であるミリアーナはあたしのソファの後ろに立っているし、今回の件を領主である伯爵に報告しないといけないカトレアも、部屋の隅に設置したテーブルで、あたし達の会話を聴きながらメモを取り続けている。



「アタイは……里で15の時に子供を一人産んだ。里の若い衆で一番の使い手の男女が子を成すってのが、氷狼族の古くからの(なら)わしだったからね」



 お、おう? 思ってたよりもずっとヘビーそうな過去バナが始まったっぽいぞ……?

 獣人族の慣習にとやかく言うつもりはないけど、15で出産って……! まだ中学三年生じゃん!? いや、妊娠期間の十月十日も想定すると……うっそやん。中学二年生の歳から子作りに励んでたってワケ!?



「戦士としての修練しかしてこなかったアタイだけどさ、生まれた娘は可愛かったんだ。拙いながらも親や里の女衆に手伝ってもらいながらさ、頑張って育ててたんだよ。だけど……」



 ハダリーの顔に陰りが生まれ、瞳には憎悪が浮かんだ。

 それだけで何かが起きたのだと、あたしは嫌でも理解させられる。それほどに凄惨で、そして悲痛な表情だった。



「もうちょっとで1歳になるかって時に、あの子が攫われたんだ。ちょうど手強いモンスターが里の近くに出て、精鋭としてアタイも出張っている隙にね。


「アタイは怒り狂ったよ。(つがい)も殴り飛ばしたし、引き止める連中を全部薙ぎ倒して里を飛び出して、あちらこちらを探し回った。


「糧と路銀、そして情報を得るために冒険者にもなって、必死に探し続けた。目的があったからパーティーも組まず、ずっとソロでね。そうして数ヶ月経ったある時、とうとうそれらしき情報を掴んだんだ」



 そう言って一旦言葉を切るハダリー。食い縛られた唇は自身の犬歯で切れて、涙のように深紅の血を、その細い顎に一筋垂らしている。


 聞きたくない。だけど聞かねばならない。

 あたしは彼女の新たな主人として、奴隷商会の会長として彼女の人生の一部を、命を預かるのだから。

 だから、彼女の過去からも目を逸らしてはいけない。



「あの子は……新興宗教だか魔王崇拝者だかの連中に攫われ、儀式の生贄にされてしまっていた。情報を掴みギルドのお偉い連中に余計な増援を付けられ、足踏みをしている間に手遅れになっていたんだ。駆け付けた時には、記憶よりも大きく成長していたけど確かにアタイの娘だったあの子が、祭壇の上で胸にナイフを生やして天井を見上げてたよ……」


「それで……ハダリーはどうしたの……?」


「もちろん、連中を皆殺しにしてやったよ。教祖とかいうゴミ以外はね。正確には教祖は冒険者連中に捕まって殺せなかったんだけど。邪教の壊滅に奮戦したってことでアタイはお咎めなし。冒険者ランクも特例でAランクに昇格。まったくふざけた話だよ」


「……娘さんは?」


「取り上げられちまったよ……。邪教のどんな呪いが込められてるか分からないからって。調べて神殿で焼いて浄化するからってさ……! アタイには、なんにも無くなっちまったんだよ」



 酷すぎる。殺されてしまったこともそうだけど、遺体すら返してもらえなかったのかよ……!? いくらなんでもあんまりだろ……!?



「……それで、どうして奴隷に?」


「完全に無気力になっちまってね。里に戻る気も起きなくて、日々人形みたいにダラダラと、金を稼いじゃ酒をカッ食らって、また金が無くなりゃ稼いでまた……ってやってたのさ。けどそんな腑抜けた生活で腕も鈍ってね。依頼に失敗して貯蓄も無かったから奴隷にってワケさ。笑えるだろ?」



 なんにも笑えねぇよ……!

 あたしだって……()だって両親を……家族を理不尽に喪ってるから。だからハダリーの苦しみが本当によく解る。



「……ありがとう、話してくれて」


「いいさ。こっちこそ、アンタみたいな子供に話す内容じゃなかったね。悪かったよ」



 気遣ってんじゃねぇよ……! 本当はお前が誰より一番辛いんだろうが……! 泣きたくて叫びたくて、堪らないんだろうがよ……!!



「なんでアンタが泣いてんのさ。滲みったれた過去の思い出だよ。アンタが気にすることじゃないよ」


「それは……無理かな……。でも、あなたの過去はよく分かったよ。それで……あなたはこれからどうしたいの?」



 やっぱり、この女性(ひと)はとても優しい人だ。一番辛くて悲しいのは自分なのに、こうして他人を気遣うなんてね。


 だから、()はそんなハダリーの願いはできるだけ叶えてやりたい。その願いが見い出せないって言うなら、それを見付ける手助けをしてやりたい。


 そう、心から思ったんだ。



「何も無いんだよ、ホントにね。アタイに残ってるのは、戦士としてのこの血塗れの(誇り)だけだからね。それでも敢えて望むなら、その子(カレン)のようないたいけな子供達を欲望の捌け口にした、あのギャリソンのクソ野郎を八つ裂きにしてやりたいくらいだね」



 歳は違っても子供は子供。そんな子供であるカレンに、自分の子を重ねてるんだろう。

 ハダリーの銀色の美しい爪は、キョウヤと試合をしていた時よりも長く鋭く伸びて、その憎悪を写すかのように禍々しく光を反射している。



「ギャリソンの商会には一度調査の手が入ると思う。あたしがグリード……警備隊の隊長にそう進言しておいたからね。領主であるムッツァート伯爵閣下にも、遠からず報告が届くはずだよ。あの人がそんな非道な行いを許すはずがないから、そこはあなたの手を汚す必要なんてないよ」


「……そうかい。それなら良かったよ……」


「うん。だからハダリー、里に戻る気が本当に無いのなら、あたしに力を貸してくれない?」


「アンタにかい? 言っておくがアタイは戦いしか脳の無い粗忽者だ。それに試合ではアンタのとこの奴隷を殺そうとしたんだよ?」



 賭けで決まった以上、契約の下彼女の所有権は既に()……あたしに移動している。

 それでも敢えて誘いを掛けるあたしの言葉に、ハダリーは目を丸くして困惑しているようだ。



「あたしの商会は普通の奴隷商とはだいぶ違うからね。優秀な人材はいくら居ても足りないの。それにココでは無理な命令もしないし、奴隷の尊厳を第一に考えて経営してる。目的も行くところも見失ってしまっているのなら、それをウチで一緒に探さない?」


「…………」



 黙り込み、あたしの目を見て何やら思索しているだろうハダリーの黄金(こがね)色の瞳を、あたしも真っ直ぐに見詰め返す。



「…………ふっ」



 しばらくそうして見詰め合っていたけど、急にハダリーが表情を柔らかくして、微笑を浮かべる。



「初めて会った時はギャリソンにやりくるめられてて、頼りない印象だったけどね。どうやらアイツと同じく、アタイもアンタのことを見くびってたみたいだね。まだ子供なのに、大したタマだよ」


「お褒めの言葉ありがとう、ハダリー。返事を聞かせてくれる?」


「ああ。これから世話になるよ会長さん。いや、ご主人様?」


「ご主人様は勘弁してほしいなぁ……!」





 こうして新たな奴隷として、心強い仲間がまた増えた。


 あたし、マリア・クオリア。

 もうすぐ14歳になる女の子だよ。中身は男だけど。


 悲しい過去を背負った獣人の女性ハダリーと、心に深い傷を負い壊れてしまった少女カレンを商会に迎え、今回の賭け騒動は一応の幕を閉じたの。


 だけど、油断は禁物だね。

 今回は私怨でこんな騒ぎになってしまったけど、あたしの商会がこれから成功し大きくなれば、今回のようにまた誰かに目を付けられるかもしれないんだから。


 気を引き締めて、また頑張ろう。

 新しい人材派遣事業も、できるだけ早く軌道に乗せられるようにしないとね。


 あ、ちなみに余談なんだけど、ハダリーはとってもスレンダーだよ。

 同じくスレンダー美人のカトレアよりも。うん、ぺったんこ。


 でもさでもさ……!

 銀髪褐色スレンダー美人って、イイよね!!





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