第68話 ロリぺドギャリソンを叩きのめすマリア
遅刻しましたm(_ _)m
「そこまで!! ハダリー、ダルトン共に戦闘不能!! この試合、ワーグナー商会の勝利であるッ!!」
ギルドマスターのハボックさんの宣言が訓練場に響き渡る。それと同時にミリアーナが大きめのタオルを手に取って駆け出す。
うん、目標は未だに止まらないヘレナだよ……!
試合中のアクシデント(ポロリ)でブチ切れたヘレナが未だに試合相手のダルトンに盾を振りかぶっていたので、それを止めるために乱入したの。
「さて……と。一時はどうなるかと思ったけど、コレで決着だね」
「その通りですわ、マリア会長。さすがは【赤光】の愛弟子でしたわね」
「ホントにね。ヘレナとキョウヤは特別労ってあげなきゃね」
カトレアと共に立会人であるハボックさん、そして警備隊長のグリードの元へと歩み寄る。そこでは、賭け試合の相手であるゴルフォン商会の会長、ロリぺド髭〇爵のギャリソンが何事かを喚いていた。
「不正だ! 絶対に何らかの不正が行われていたに違いありません!!」
「いやだからよう、俺らが不正なんか見逃す訳ねぇだろ?」
「まったくだ。ワシから見ても立会人として、公正な決闘であったと断言できる内容だった。何を根拠にそんなデタラメを……」
なんだぁ……? あたし達の勝利にケチ付けようっての?
そもそもミリアーナ達の出場を姑息な交渉で防いできたのはそっちだろうに。
「どうかしましたか? 試合の内容に不服でも?」
尚も喚き立てるギャリソンに埒が明かないと判断したあたしは、何食わぬ顔でその修羅場に足を突っ込んでやる。
あたしの奴隷達は充分頑張ってくれたからね。今度は主人であるあたし……俺が頑張る番だ。
「貴様っ、小娘がァ!! 何だあの二人は!? 貴様のような小娘が、【赤光】以外にもあんなに強い奴隷を持てるはずがない!! 白状しろ! どうせ金を積んで有力な戦士を雇ってきたんだろう!!??」
はぁぁあ……?
一瞬コイツが何を言っているのか、脳が理解を拒み言葉が出なかった。その隙を突いて、さらにギャリソンは喚き散らす。
「あの二人、ハダリーとダルトンは間違いなくAランク冒険者以上の実力者だ! それが【赤光】のミリアーナ相手ならともかく、有象無象の奴隷に後れを取るはずがないんだッ!!」
「いやギャリソンさんよ、あんたいい加減に――――」
さすがに苛立ちを隠せない様子でグリードが声を荒らげるが、俺はそれを手で制して止めた。
この俺が不正だと? そんな事実は無いし百歩譲ってそれは聞き流そう。だけど……。
「見苦しいなァ、ギャリソン」
「なん……だと?」
俺を侮るのはまだいい。見ての通りの小娘だからな。まあ、そういう奴は結果で黙らせればいいだけだ。
だけど、ヘレナやキョウヤが有象無象だと? 俺の奴隷が、仲間が取るに足らないってのは、聞き捨てならねぇな!!
「無作法にも人様が買った奴隷を譲れと言って断られた上で、言葉巧みに賭けに引きずり込んでおいて良くそんな恥知らずなことが言えるな?」
「どちらが恥知らずだ!? あんな優秀な戦士を貴様のような小娘が所有できるはずがないだろう!! 白状しろ! どこで雇った!?」
いい加減ブチ切れそうだ。そもそもキョウヤはてめぇも競売で見てるだろうが!
「こんな試合は無効だ! 重ねて不正の賠償としてロクサーヌの身柄を要求――――」
「黙りやがれッ!!!」
一喝してギャリソンの言葉を封じ込める。ていうか負けたくせに何シレッとロクサーヌをかっぱらおうとしてやがんだこのロリぺドカイゼル髭が!
人が大人しくしてりゃあ調子に乗りやがって……! この野郎、ボロカスにしてやる……!
「てめぇよぉギャリソン。俺が不正をしたってのは何についてだ? 順序立ててハッキリ言ってみろよ」
「き、決まっている! 貴様は賭け試合が決まってから優秀な戦士のあの二人を雇ったのだ! それを奴隷と偽っているに違いない!!」
「へぇ……? で、その証拠は?」
「むぐ……!?」
勢いと話術だけで言いくるめられるとでも思ってたのか? バカが!
「ねぇカトレア? 貴族に対して在らぬ疑いをかけた場合って、一体どんな罪が適応されるんだっけ?」
「な、何を言っている――――」
「てめぇは黙ってろ!」
一睨みして尚も喚こうとするギャリソンを黙らせ、俺は傍に控える正真正銘の貴族のカトレアに発言を促した。
「そうですわねぇ。名誉毀損に冤罪、さらにそれを衆人環視の下流布までされていますので、不敬罪は間違いなく適応されますわ。何でしたら、ムッツァート伯爵閣下直属の元財務次官であるわたくしが証人として、裁判の立会人を務めましょうか?」
「な、なな……!? なんだと!?」
「彼女はカトレア・ストークス男爵令嬢だ。領主であるムッツァート伯爵閣下の命令で、俺の商会に派遣されて来てるんだよ」
俺の補足説明で顔色を青くし始めたギャリソンの野郎だが、もちろんこんな程度で俺が事を済ませると思うなよ……!?
うん? おいコラグリード? 何ニヤニヤして楽しんでやがるんだよ? ハボックさんも呆れた顔するのやめてくれない?
「さらにだ。てめぇの小さな脳味噌にも分かり易く説明してやると、ヘレナは先にこの街を襲った魔物の暴走の防衛戦にウチの奴隷として参加した実績が有る。そうだよな、ハボックさん?」
「あ、ああ。その通りだ。彼女はワーグナー商会の奴隷として冒険者登録をしているし、防衛戦への参加もしっかりと記録されている。アズファラン支部のギルドマスターとして保証する」
「だとさ。で、キョウヤはキョウヤで先の競売で売れずに差し戻された奴隷だ。あの会場に居たてめぇが知らねぇとは言わせねぇぞ? さあそこでだ! てめぇが言う俺の不正とやらが、その証拠が一体どこにあるって!?」
「ぐ、くぅ……っ!?」
俺が気の弱い見た目通りの女の子なら、あるいは勢いで黙らせられたかもなぁ……?
ところがどっこいだ。見た目は超絶美少女でも、中身は男の八城要だ。俺が今まで一体、どれだけの人間と交渉や駆け引きを重ねてきたと思ってやがる。
お父さんに始まり、警備隊長のグリードやギルマスのハボックさん。さらには領主であるムッツァート伯爵や本家の隠居ジジイ、そして【毒蛇】と謳われる暗闘貴族のカルロース子爵。
そんな一癖も二癖もある人達との駆け引きを乗り越えてきたこの俺はよ、今さらてめぇ如き一商人に勢いだけで誤魔化されるほど、温い道を歩んできた訳じゃねぇんだよ!
「何なら商会に戻って奴隷契約の書類を証拠に提出してもいい。さあ答えろギャリソン! 一体誰が、どんな証拠を元に不正を働いたんだ!? この俺が、マリア・クオリア女士爵が不正を行ったと言うのなら、それ相応の覚悟と根拠を示しやがれッ!!」
「ぐくっ!? そ、そんなお飾りの爵位に何の意味が――――」
「いいえ。名誉貴族位といえど立派な貴族ですわ。男爵家令嬢であるわたくしよりも、士爵様であるマリア会長の方が地位は上です。
「つまりギャリソン会長、あなたは貴族に在らぬ疑いを掛け、さらにそれをこれだけの観衆の前で喧伝したのですわ。立派に名誉毀損も不敬罪も成立いたしますわね。
「そもそもこれだけの風評の侵害、庇護を与えていらっしゃる伯爵閣下のお耳に届けば、即刻無礼討ちですわよ?」
カトレアが親切にも、これからギャリソンの辿る未来を説明してやっている。
訓練場の中は、警備隊も冒険者達も、そして住民達もザワザワとざわめいて、緊迫した雰囲気に包まれていた。
「ギャリソンさんよぉ、ご令嬢の言う通りだぜ? そしてオレが立ち会いに来た意味も考えずに喚き散らした、アンタの完全な敗北だよ」
「な、なにを……」
俺が制してから黙って事の成り行きを見守っていた、警備隊隊長のグリードが口を挟んでくる。
そうなんだよなぁ。察しの悪いギャリソンは、まだ意味が掴めてないようだけど。
「ちゃんと試合前に自己紹介したよな? オレはこの街の警備隊長だって。この街は一体、どなたがお治めになっていると思ってやがんだよ?」
「なっ!? ま、待ってくれ、コレは違う――――」
「いーや、違わねぇ。ハッキリ聞いちまったよオレは。この“伯爵閣下の治める街で”、“閣下に任命された警備隊の面々の前で”、アンタは閣下の庇護を受ける士爵様であるマリアの嬢ちゃんを、証拠も無しに中傷した。オレらはそれを見過ごす訳にはいかねぇんだわ。そうだろお前ら!!」
「「「「おおおおおおッ!!」」」」
ははっ。まさか、あのグリードがここまで俺の肩を持ってくれるとはなぁ……! ありがとよ、グリード。それに警備隊のみんなもな。
最初は試合のことを漏らした責めをどうしてくれようかと思ってたけど、勘弁してやるか。
「当然だが、ワシら冒険者ギルドは中立の立場だ。つまり、実際に見聞きした事をありのままにしか証言しない。言い掛かりはやめて諦めるんだな、ギャリソン会長殿」
「そういうこった。おいお前ら、貴族様への中傷行為だ。調査のためにコイツを拘束しろ!」
「「「「はっ!!」」」」
「んなっ!? ま、ままま待ってくれ!?」
訓練場の四方に散っていた警備隊員達が、一斉に中央へと集結し、瞬く間にギャリソンを拘束した。そして彼の奴隷であるダルトンも、キョウヤと戦い気を失っているハダリーも捕らえようとする。
だがしかし!
「おっと、グリード。ハダリーとカレンは試合に勝った時点でウチの奴隷だ。連れて帰るから話が聞きたかったら後日ウチに来てくれよ」
「な、なんだとっ!?」
「あー、それもそうだな。そういう賭けの契約もしてることだし、それでいいだろ」
「おい! 待て!?」
「『待ってください』だろ? てめぇも一介の商人なら、貴族相手の言葉使いをしっかり学んだらどうなんだ? それとなグリード、コイツの商会も調べた方がいい。どうも法を遵守して、奴隷を真っ当に扱ってるとは思えねえからな」
そう言って、賭けの賞品となっているカレンを招き寄せる。
この心神喪失状態の少女が一体何をされていたのか、ゴルフォン商会には一度調査の手を入れた方がいいだろう。
「……そうだな。その旨も報告にあげとくわ」
「頼んだよ、グリード。ハボックさんも、今日はありがとう」
「なに、かまわんよ。良い試合を見せてくれて、冒険者を代表しこちらこそ感謝する」
そう言って彼らと別れ、俺はカレンとハダリーという新たな奴隷を引き連れて、愛しの我が家へと引き返して行ったのだった。