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第65話 賭け試合に臨むマリア

金曜日はごめんなさい。

夜勤で書けませんでした……!



「問題ありません、お嬢様。ヘレナ、キョウヤ、行けるな?」


「お任せ下さい、ミリアーナ部長!!」


「ロクサーヌちゃんは守ってみせますよ!」



 ヤダあんた達、イケメン……!


 はい、という訳でね。例のロリぺド髭〇爵のギャリソンとの賭け試合が決まってしまったんだけどもね。戦闘奴隷達を統括しているミリアーナに相談したところ、ヘレナとキョウヤの二人を推薦されたの。


 ヘレナは【重戦士】の適性を持つタンクタイプの戦士だ。ミリアーナの戦い方に憧れて、スタイルが合わずに伸び悩んで依頼の失敗を繰り返し、ウチの借金奴隷になった過去を持つ。

 ミリアーナの指導を受けるようになってからは、自分本来の適性に合わせた戦い方を貪欲に学んで、その腕前をメキメキと上げている。




 名前:ヘレナ 年齢:19 性別:女

 職業:マリアの奴隷 適性:重戦士 魔法:土

 体調:良好 能力:A 潜在力:A+




 本当に強くなってるよね……! 前に鑑定した時は確か能力は“C+”だったはず。これだけ観ても、ヘレナが如何に頑張ってきたかが伺えるよね。


 一方のキョウヤは、あたしと故郷を同じくする日本人の“転移者”だ。適性は【拳王】で、元伯爵家に仕える騎士だったこともあり槍も剣も一通り扱えるけど、本来のスタイルは篭手と脚甲を用いた近接格闘だ。

 なんだかこの間のミリアーナとの特訓で随分とシゴかれたらしいけど、それを終えてからのキョウヤには、なんというか自信が付いたようにも思える。




 名前:風間京也 年齢:20 性別:男

 職業:マリアの奴隷 適性:拳王 魔法:無・闇

 体調:良好 能力:A 潜在力:S+

 備考:転移者・祝福(ギフト)【乾坤一擲】




 実際能力も上がっており、以前は詳細が視られなかった“祝福(ギフト)”とやらも開示されている。

 なになに……『極限まで耐え忍ぶ者には一条の光が齎されるだろう』って、やけに抽象的な説明だね……? 起死回生の一撃とか、そんな感じかな? 『ギフト』と言うだけあって、よくある転移者のチートスキルみたいなものなのかな?


 何はともあれ、戦闘の専門家であるミリアーナが自信を持って推薦したんだから、あたしとしては二人を信じるより他は無い。

 二人とも、頑張ってね……!





 ◇





 ロリぺド髭男〇奴隷商人のギャリソンの賭けの申し出を承諾してから二日後。

 あたし達は冒険者ギルド・アズファラン支部へとやって来ていた。もちろん今回は、賭けの対象となってしまったロクサーヌも一緒だ。



「大丈夫ですよ、ロクサーヌ。商会の仲間を信じなさい」


「は、はい……!」



 ロクサーヌには既に今回のあらましを話して聞かせてある。伯爵の面子を潰さないためとはいえ、勝手に賭けの賞品にしたことを謝ると、あの子は随分と落ち着いた様子で一言。



『分かりました。どうか守ってください』



 そう、あたしの目を真っ直ぐに見て言ったのだ。


 あたしもキョウヤみたいな戦闘系の適性なら、それこそラノベ主人公よろしく、カッコ良く戦うんだけどねぇ……。その点はキョウヤが羨ましくもあり、戦う術のない自分が歯痒くもあったな。


 普段通りギルドの裏口に到着したあたし達は、いつもの門番のおじさんに通されてそのまま、訓練場へと向かった。今日の賭け試合はこのギルド支部の訓練場で行われるのだ。

 当然、あたしが賭け試合の証人としてお願いしたのは……



「よく来たなお嬢さん。いや、マリア会長と言った方が良いかな?」


「ハボックさん。マリア、と呼び捨てで良いですよ。今日はありがとうございます」


「久し振りだな、嬢ちゃん!」



 ……なんであんたまで居るのさ……!?


 あたしが証人として見届け人を依頼したのは、事ある毎にお世話になっている当ギルドの支部長、ハボックさんだ。お父さん(スティーブ)が存命の頃からの付き合いで、この街で最も奴隷商会に理解がある人だと思っている。

 今回のことを相談した時なんて、自分から証人として立ち会うと言ってくれたし、とにかく何かとお世話になっている人だ。


 で、それは良いんだけれど。



「グリード警備隊長……。どこから嗅ぎ付けてきたんですか……?」


「おいおい、嗅ぎ付けるなんて人聞きの悪いこと言うなよ嬢ちゃん。いやなに、証人は多い方が良いと思ってな? 警備隊の暇してる連中も連れて来たぜ!」


「はぁ!?」



 何を言ってるんだこの男は……。相変わらずの軽薄なノリで、さらりととんでもないことを話すこの人は、このアズファランの街の警備隊の隊長さんだ。

 最初の出会いでは険悪にもなったけれど、両親が亡くなった時に遺品から父母であると気付き、家に帰してくれた人でもある。

 その後和解し、この街を襲った先の魔物の暴走(スタンピード)では手を取り合って協力した仲だ。


 そんなことを思い出しながらも皆足は進み、ギルドの訓練場へと辿り着いた……のだけれど……。



「な、なんなのこれ……」



 そこはお祭り騒ぎだった。訓練場の広い外周をぐるりと人の群れが囲い、一分の隙間もない程に埋め尽くしている。



「いやあ、グリードの発案でな。どうせなら見世物にしてやろうと言い出しのだ。ギルドとしても、一流の戦士の試合は学ぶところが多いしなぁ」


「警備隊も同じ理由だ。あとの野次馬は、せめてもの応援だとさ」


「は? 応援?」



 確かに、見回して観れば警備隊の面々だけでなく冒険者達の姿も多くある。みんな興奮した様子で、これから行われる試合への期待が高まっているのが手に取るように分かる。

 それとは別に、警備隊の兵士が誘導している一区画。そこには、アズファランの街の住民達の姿があった。



「ワーグナー商会を応援に押し寄せて来たんだよ、当たり前だろ? 酒場でオレとギルマスの話を聞いた奴が広めたんだろうな。“街の英雄”の戦いをこの目で見たいって、朝から大騒ぎだ」


「英雄? 何それ初耳なんだけど」


「スタンピード防衛戦で誰よりも活躍したのは誰だよ、まったく。嬢ちゃんの商会の連中の武勇伝は、一時期街で大流行してたんだぜ?」



 何それ知らない。いつそんなことになってたの……?



「グリード、マリア会長……マリアは奴隷商への偏見を嫌って、あまり街の住民との接点が無いんだ。察してやれ」


「あ……そっか、そうだよな……。まあとにかく、嬢ちゃんの商会は、今やアズファランの救世主みたいなモンなんだ。それにこれだけの衆人環視の下なら、相手もセコい手なんか使えねぇし、言い訳も効かねぇだろ?」



 そっか……。あたしがしてきたことは、みんなの頑張りは、無駄じゃなかったんだ。こんなにも大勢の人達が、“奴隷商会”であるウチを応援に来てくれたんだ……。

 いつか“建前”としてグリードに話した内容が、本当に現実になっていたんだな……!



「……グリードにしては冴えてるね。その前に酒場なんかでこんな大事なことを話し合ってたことへの文句も沢山あるけど」


「素直じゃねぇなぁオイ。あと、情報漏れはスマン。だけどギルマスも同罪だからな!?」


「お前がしつこく訊いてきたんだろうが……。あ、いや、すまなかったマリア」



 ははっ! 本当に、()は人に恵まれてるなぁ……!

 この世界に転生して13年。どれだけの人にこうして支えられ、助けられ、励まされてきただろう。


 まあグリードのバカは後で問い詰めるとして、いよいよ試合の刻が迫ってきていた。

 何やかんや言われては敵わないとギルマス達と別れ、俺は仲間達と静かにその時を待っていた。


 そして。ちょうど昼の12時になり、対戦相手であるギャリソン会長率いる、“ゴルフォン商会”が訓練場に姿を現したのだ。





「それではこれより! ワーグナー商会の奴隷二名と、ゴルフォン商会の奴隷二名による試合を執り行う! 勝負の方式は二対二の複数戦! 武器は真剣を用い、魔法の使用も許可する! 観衆は警備隊員よりも前に出ないように!!」



 いつかの御前試合なんか目じゃない盛り上がりだね。まあそれもむべなるかな、いかんせん娯楽の少ない世界だからね。

 ギルドマスターのハボックさんが、あらかじめ定められた試合のルールを、高らかに読み上げる。



「試合の見届け人兼証人はこのワシ、冒険者ギルド・アズファラン支部のギルドマスターであるハボックと……」


「アズファランの街の警備隊隊長、グリードだ。オレ達が務めさせてもらう。ワーグナー商会会長マリア、並びにゴルフォン商会会長ギャリソン両名は、事前の契約に従い粛々と結果を受け入れるように!」



 おおー。グリードが真面目に隊長っぽいこと言ってる……! あ、やべ目が合ったわ、逸らしとこ。



「両商会は、奴隷をここに!」



 ハボックさんの宣言に従い、あたしはロクサーヌの手を引いて二人の元へと歩いていく。ロクサーヌの手は、微かに震えていた。



「大丈夫だよ、ロクサーヌ。あのミリアーナが大丈夫って言うんだから、信じよう。ヘレナとキョウヤを、しっかり応援してあげててね」


「……分かりました。あの、マリア会長!」


「ん? なにかな、ロクサーヌ?」


「その……、この試合が終わって、みんなで商会に帰ったら……、また色々なお話がしたいです……。仕事だけでなく、何でもない些細なことでも……」


「ははっ! そうだねロクサーヌ。早くみんなでウチに帰って、ムスタファの美味しい料理で祝勝会しようね!」



 力強く握られたその手は、もう震えは止まっていた。



「ワーグナー商会より、奴隷ロクサーヌです」


「ゴルフォン商会より、奴隷カレンです。もう一人の賞品であるハダリーは試合に出ますので、試合後に」


「…………確認した。では会長両名は、各陣営まで下がってくれ」



 わざわざギルド所有の鑑定の魔導具まで用いて本人確認を行い、賭けの賞品となった二人の身柄は、ハボックさんとグリードに預けられた。

 奴隷のカレンという少女を観た時に二人の顔が一瞬歪んだ気がしたけど、もしかしたら、彼女の境遇を察しでもしたのかもね。



「それでは、試合に出る戦士を紹介する! ゴルフォン商会より、ダルトン! ハダリー!! ワーグナー商会より、ヘレナ! キョウヤ!!」



 熱狂に沸く訓練場の中央に、二つの奴隷商会のとっておきの戦闘奴隷が歩み出る。

 鑑定で視た能力は、誰もがAランク冒険者並み。【重戦士】に【狂戦士】、そして【拳王】が二人。


 果たしてどんな結果になるのか、戦闘の素人であるあたしには想像も着かないけれど、他でもないミリアーナが大丈夫だと言ったんだ。

 さっきロクサーヌに言ったように、あたしも二人を信じて、一生懸命応援しよう。



「それでは、両者構え! ……始めえッ!!」



 戦いの火蓋が、切られた。





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