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第57話 女子会観光とマリア



 さてさて、オークションで見事目的は達成した訳だけれども。

 だがしかし。一つ用事が増えちゃったから、もう少しこの貿易都市サンクローラに滞在してなきゃいけないのよね。


 と、言うわけで……!



「お出掛けだぁ〜♪」


「おぉ〜」


「アニータ! 声が小さーい!」


「おお〜っ!」



 そう、観光なのだ!!

 前世では碌に旅行なんかしてこなかったこのあたしが、今世では若干13歳にして同じ国内とはいえ様々な都市を観て回るなんて、とても考えられないよね!


 まあウチの領のお隣、ファステヴァン侯爵領に関しては全然観光なんかしてないんだけどね。



「お嬢様、このリボンなどはきっとお嬢様に似合いますよ!」


「ホント? ミリアーナ、着けられる?」


「うっ……! ば、バネッサ、頼む……!」


「ですからたまには身嗜みも学んではと言ったでしょう。マリア会長、失礼します」



 うへへへ……! ヤバい、メチャクチャ楽しいよぉおおおおおおお!!!

 だって、周りは美女だらけで、知らない土地で、色んな見たこともない品物や人種が溢れ返ってるんだよ!?


 自他共に認める超絶美少女のマリアの身体でなくても、これは絶対に楽しいよ。まあその場合は、もれなく美女達は居なくなるだろうけどね。


 あたし、マリア・クオリア13歳。


 今あたしは、ミリアーナら女性陣を引き連れてここサンクローラの市場を見学中なの。

 仮に暴漢に遭ってもミリアーナ達に勝てるとは思わないし、せっかくなので女子会ってモノを企画したのだ。


 しかし、この市場ってばホントにすごい。

 様々な食品・調味料はもちろん、陶器や道具類の雑貨や刀剣や鎧などの武具、それに衣服やアクセサリーなどの服飾品まで、何でも揃っているのだ。しかも多種多様な国家民族の風習に則った様々な様式の物が鎬を削っているため、活気に溢れ目にも耳にも、ついでに言えば屋台なども出てるから鼻にもお腹にも楽しい。



「ん。ご主人、こんな物見付けた。着けてみて」


「こ、これは……!? ね、ネコミミカチューシャ!? アニータ、こんな物何処で見付けたの!?」


「ん、アソコの土産物屋。主人が獣人が大好きでノリと勢いで作ったんだって」



 アニータに連れられその店に近寄ってみると、あるわあるわ……!

 ネコミミにイヌミミは当然として、ウサミミにウマミミ、クマ、キツネ、コレはタヌキ? アライグマ? あと山羊の角のカチューシャや、牛の角と耳(しかもホルスタイン柄)のカチューシャ、コアなヤツだとキリンとか……ってかこの世界キリン居るの!?



「コレは……見事というか、変質的と言うべきか……!」


「お! 黒豹族の姉ちゃん、さっきはお買い上げありがとな……はっ!? こ、このお嬢ちゃんが、もしかして……!?」


「ん、アテのご主人。さっきのネコミミ似合うと思って」


「いや! このお嬢ちゃんならどれでもイケるだろ!? ちっと待ってな! 最高の一品を選び出してやるッ!!」


「え、ちょ……!? はいいいいいッ!?」



 やべえ!? なんか店主のケモミミスキーなスイッチが入ったっぽい!?

 なんか店の奥の棚から明らかに出来が良いであろう品を次々と引っ張り出してきてやがるぞ!?


 これは……あたし一人では手に余る……ッ!!



「みんなもおいでよ! みんなで着けて見せ合いっこしよう! 気に入ったのが有ったらみんなで買おうね!」



 必殺、“旅は道連れ”攻撃だ! まあ、被害者を増やしただけもと言うけどね。

 だってこの後の展開が容易に想像つくんだもん! 絶対に着せ替え人形よろしくオモチャにされて、見世物になるんだ! だったらみんなで試着したって良いじゃないか!

 ……はい、あたしがみんなが着けてるとこ見たいのもありますよ! なんか文句ある!?



「うわぁ……こ、コレは凄いですねっ!」


「ここまでですと圧巻ですわねぇ……!」


「な、なんなんですかコレは!?」



 お、ルーチェにカトレア、ヘレナも来たね♪

 ヘレナなんかはこのホルスタインカチューシャが良いんじゃないかな? あとはもうちょっと服装の露出を増やしてもらって。

 いや絶対似合うって! なにしろそのオッパイだもん! まさに牛チch……あ、ハイごめんなさい。謝るから泣かないで!?


 姦しいってのは、こういうのを言うんだろうね。あたし達が来るまではコア過ぎたのか閑古鳥が鳴いていた店内が、一気に賑やかに、華やかに喧しくなる。


 ん? あれ……?



「バネッサ、ロクサーヌは?」


「ロクサーヌでしたら、あちらの柱の陰に隠れて居りますよ」


「あ、ホントだ。何してんのロクサーヌ?」


「ま、マリアさま……、わたくしにもソレを着けるのですか……?」


「ふっ……。当たり前じゃない! ロクサーヌは犬っぽいからこのイヌミミカチューシャ着けてみて!」


「いいいいやですわあああーーっ!? 何でわたくしがこんな目にぃいいいい!?」


「こういうのはみんなで羽目を外した方が楽しいって♪ 今度はこの垂れ耳タイプのね!」


「うわああああんっ!? たすけてえええええっ!!」



 良いではないか良いではないか♪ 別にカチューシャ着けるだけでイヤらしいことなんか何一つないんだし。まあヘレナはちょっとそっち系にいきそうになっちゃったけど。


 さあ! ケモミミファッションショーの始まりだよーっ!!



「ミリアーナは……それは獅子かな?」


「そうですね。なんでも魔物を除けば百獣の王と呼ばれるとアニータが言っていまして、私の茶色い髪にも合いそうでしたので……。変ですか?」


「ううん! とっても似合ってる! ミリアーナの茶髪が(たてがみ)みたいで、丸っこい耳が覗いてカワイイよ♪」


「ッ!! 店主! 私はコレにする! 幾らだ!?」



 おおう……! ま、まあお世辞じゃなく本当に似合ってたから、気に入って買うなら良いんじゃないかな……?

 しかし、ライオンかぁ。まさにミリアーナの勇猛さにピッタリ過ぎて、ちょっと面白いね。鬣があるのはオスだけど。



「バネッサは……コレは羊なのかな?」


「だ、そうでございます。アニータが使用人だからと持ってきました」



 アニータさん……? もしかして“執事”と“ヒツジ”を掛けたのかな?

 クルっと巻いた角の付いたカチューシャは少し重そうだけど、素材に拘っているのか見た目ほどバネッサに負担は無さそう。

 バネッサのフワッとした深い紫色の髪から、乳白色の巻き角が側頭部に生えてるように見えて……うん、違和感ないね!



「コレはコレでアリ……かも?」


「左様でございますか? 私のような無愛想な人間には可愛らし過ぎるかと存じますが……」


「バネッサは別に無愛想なんかじゃないよ。うん、耳だけじゃなくて角もアリだよね! カワイイし似合ってるよ♪」


「……承知致しました。では私はこれを購入して参ります」



 あっれー? なんかあたしが評価してそれを購入する流れが出来始めてない?

 いやまあ似合ってるのは事実だし、たまにはこうやって遊ぶのも楽しいから良いのかな? 物が残れば思い出にもなるしね。



「会長会長っ♪ どうですかコレ!?」


「る、ルーチェ部長、流石にコレは私には……!」


「ルーチェ? それにヘレナも…………って、そ、それは……!?」



 物色しながらみんなの様子を見回っていたあたしの元に、ルーチェと戦闘部のヘレナがやって来た。いや、ヘレナは顔を赤くして無理矢理引き摺られてきてるみたいだけども。

 そして二人の金髪の頭には、ピョコリと三角形の耳が生えていた。



「えへへへっ♪ ヘレナとお揃いの狐の耳にしてみたんですっ! どうですか? 似合います?」


「こんな可愛い耳、ガサツな私には似合わないですよぉ……!」


「そんなことないですってっ! ヘレナの長くて真っ直ぐな金の髪に良く似合ってますよっ! 会長もそう思うでしょうっ!?」



 うん、ルーチェさんグッジョブ!!

 ルーチェのフワリとウェーブの掛かった金髪にも良く似合ってて、まさにモフモフって感じでカワイイ。けど金髪ストレートヘアーのヘレナにも凄く良く似合っている。


 いかんね。さっきはついついオッパイの大きさで悪ノリしちゃったけど、王道の金髪に黄金色のキツネミミの良さを失念していたよ。



「二人ともカワイイよ! ヘレナもそんな縮こまってないで。ちゃんと似合ってるしカワイイから、胸を張りなさいよ」


「やったーっ! ほらヘレナ、わたしが言った通りでしたよっ! さすが会長、見る目が確かですっ♪」


「うぅ……、ほ、本当ですかぁ? さっきみたいにからかっていませんかぁ……?」


「からかうだなんて心外だなぁー。さっきはごめんって。ホントに似合ってるよ」


「ほらほらーっ! ヘレナの分もわたしが買ってあげますから、一緒に行きましょうっ!」


「わっ!? ま、待ってくださいルーチェ部長ぉ〜!?」



 うんうん。仲良きことは美しきかな♪

 21歳のルーチェと19歳のヘレナは、宿のお風呂の一件で随分と距離が縮まったみたいだね。

 歳も近いし、お互い元冒険者ってことで話も合うみたいだし、ルーチェからすれば妹ができたみたいな感覚なのかな?

 百合百合しくて大変眼福であります!



「マリア会長? わたくしも見て下さらないかしら?」


「カトレア? どこ行ってたの……って!? か、カトレアさん!?」



 大変尊い百合姉妹を見送るあたしに、後ろからお声が掛かったので振り返ると、そこには……



「まさかのウサミミ!?」



 そう。普段は氷の女王とでも言うべきクールビューティーなカトレアさんが、下ろしたシルバーグレーの長髪のテッペンにニョキっとウサミミを生やしていたのだ。それも自分の髪色に合わせた、銀に近い灰色の物をわざわざ探したみたいで、そのウサミミの片方はあざとく中程で折れて、赤いリボンまで付いている。



「変……でしょうか……?」



 普段のイメージとはあまりにかけ離れたそのギャップにあたしが放心していると、落ち込んだ心配そうな顔をして首を傾げてくる。

 あざとい! あざといよカトレアさん!?



「へ、変では無いし似合っててカワイイんだけど……あまりに普段との差異が……」


「まあ、ヒドイですわマリア会長。わたくしこう見えて可愛らしいモノが大好きなんですのよ?」


「それ初耳だよ!? いつも澄ました顔でテキパキ働いてるし……!?」


「お褒めの言葉として受け取っておきますわ。ですがわたくしとしては、もう少し愛想良くしなければと思ってますのよ? コレを着けて過ごせば少しは印象も変わるでしょうか?」


「いやいや確かにカワイイけど! さ、流石に普段使いはやめといた方が良いんじゃないかな!? 今みたいな楽しい時とか、商会の宴会とかそういう時ならともかく……」


「ふふっ、冗談ですわ♪ ではお墨付きをいただきましたし、わたくしもお会計を済ませてきますわね」



 は、はい……。いやあ、凄いギャップだったなぁ……!

 鉄面皮と言うと聞こえは悪いけど、普段無表情なカトレアがウサミミをねぇ……。バニースーツとかスタイル良いし凄い似合いそうだなぁ……!


 まあ、カトレアもウチに来てしばらくになるし、最初の頃に比べればだいぶ表情も判り易くなってきてるんだけどね。

 ミリアーナ達女性陣とも良好な友人関係を築いているみたいだし、いっそ出向じゃなくてウチに就職してくれないかなー。



「ん。ロクサーヌ、きっとコレも似合う」


「どれですの? また犬ですの!? 一体犬の耳はいくつ種類があるんですのおおーーーッ!?」



 そしてコッチでは、ロクサーヌがアニータのオモチャにされているね。二人の傍らにはこれから着けるのか着けた後なのか、大量のケモミミカチューシャが積み上げられている。

 うん……? うわ、コレ全部イヌミミだ!? ざっと20個は積まれてるんだけどコレ全部犬種の違うやつだし!?



「店主は犬派なのかな……?」


「あ、ご主人」


「マリアさまああああーーっ!! この方何とかしてくださいいい!?」


「えーっと…………そ、それも似合うね、ロクサーヌ……?」



 ラブラドール・レトリーバーっぽい垂れ耳を着けたロクサーヌが泣きついてくるけど、あたしとしてはもっとちまっこい……柴犬みたいなヤツが似合うと思うんだけどなぁー。



「そうではなく! もう何回も付け替えて付け替えて付け替えて付け替えて……! このままではわたくし、本当に犬になってしまいますぅー!!」


「ん。ロクサーヌ、これはただのカチューシャ。犬になることはない」


「ウンザリだと言っているのですぅーーッ!」


「あはは! 随分とアニータに気に入られたみたいだね? お? コレ柴犬っぽい。ロクサーヌ、コレ着けてみてよ!」


「ん。さすがご主人、目の付け所が鋭い。アテもそれを本命として最後に薦めるつもりだった」


「『さすがご主人』じゃないのですぅーっ!? それとシバイヌってなんですのぉーーーーッ!?」


「まあまあ。それが似合ってたらそれあたしが買ってあげるから、ね? お願いロクサーヌっ♪」



 結論から言うと、超似合ってた。

 髪が濃紺色なのでそれに合わせて黒柴ぽいイヌミミカチューシャを着けたロクサーヌは頬を膨らめてそっぽを向いてしまったが、その顔は赤く染まっていた。


 うん、何このカワイイ生き物。あたしの目にはパタパタ揺れる犬のシッポが視えるようだったよ。

 あれかな? 箱入り娘だけに同年代とこうして触れ合う機会が無かったとか、そんな理由で嬉しいとか、照れ臭いとかそういう感情表現が下手なのかもしれないね。


 はい。お買い上げ決定ですよもちろん。

 これは買わねば人類の損失。そう思う。少なくともあたしは。


 とまあワチャワチャイチャイチャしてたんだけど――――



「待たせたなお嬢ちゃん!!」


「!!??」



 ロクサーヌをイジって楽しんでいたあたしは、()()()()をすっかり忘れていた。

 そう。あたしにとっておきを持ってくると豪語して姿を消していた、店主の存在を――――





「いやあ、眼福だった! 店主! 良き仕事に感謝する!」


「お、獅子の姉ちゃん分かってるねぇ! また来てくれたら勉強させてもらうぜ!?」


「それは良いな! またこちら方面の遠征があったら寄らせてもらおう!」


「ん、その時はアテも一緒に来たい。ご主人にはまだまだ可能性がある」


「黒豹族の姉ちゃんもありがとな! 久し振りに店が賑やかになって、しかもとびきりケモミミの似合うお嬢ちゃんと知り合いになれた! 俺ぁ今日ほどこの店を開いて良かったと思った日はねぇよ!」


「店主様、慢心はいけませんわ。マリア会長はこれから更に美しく成長なさいますもの。それに見合うケモミミを、これからも作り続けてくださいましね?」


「あ、ああ、任せとけ! アンタらがいつ来てくれても胸を張ってオススメ出来るように、精進するぜ!」



 なんか良い話だなーみたいにやってるそこの三名! それと店主! あたしゃそれどころじゃねーっての!!


 まあね、アレよね。案の定というか店主も絞り切れなかったのか、店に出してる秀作とは一線を画する傑作を、全部奥から持ってきやがったのね。

 そして始まった試着会というかなんというか。服じゃなくてカチューシャ程度で良かったよ、ホント。


 結局何を買ったのかって?

 それはここに居るみんなにも秘密だね。商会で何かのパーティーでもやる時に、他のみんなにお披露目しようと思ってるよ。お土産でみんなのケモミミも沢山買っちゃったしね♪


 いやしかし、最後は疲れたけど、すっごい楽しかったなぁ♪

 気付けばもう午後の3時を回っているし、何処かでお茶でもして宿に引き返そうかな。

 早ければもう一つの用事の連絡も来てるかもしれないしね。





 あたし、マリア・クオリア13歳。

 中身は男だけど、前世も今世も合わせて初めての女だらけの観光ってモノを経験しました。


 いや、女の子の勢いって凄いよね!

 あんなにビクビクしてたロクサーヌも、今ではすっかりアニータと打ち解けて姉妹みたいに笑い合ってるよ。

 あたしも少しは距離を縮められたかな? 負い目があるだろうからあたしの場合は難しいかな?


 そんなこんなで特にトラブルも発生せずに、あたしは一日のんびりと、この大都市での観光を楽しんだのであった。





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