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第53話 貿易都市とマリア



 “貿易都市サンクローラ”。我がフォーブナイト帝国が誇る有数の港湾都市にして、南国との交易の要衝。

 海路と陸路によって様々な国の様々な品物が飛び交う、大変に活気溢れる、ある意味混沌とした栄えた都市だ。


 その都市の高級宿の前に降り立ったあたしは、その喧騒を、その空気を胸いっぱいに吸い込んで、気合いを新たにしていた。



「なんとか間に合ったね。これで二日後には競売が始まるんだよね? バネッサ、会場は明日組合本部で発表されるんだっけ?」


「そう招待状には記されてございます、マリア会長」



 あたし達奴隷商会が所属する奴隷商組合。その本部が在るこの都市にて組合員を対象とした奴隷競売(オークション)が開催されると、招待状が届いたの。


 組合員、つまり奴隷商人を対象とするということは、主催者は国であるという事。扱われる商品は、国から払い下げられる犯罪者達……つまりは元貴族やその家人達だ。

 他にも罪を犯して取り潰しとなった奴隷商会が所持していた奴隷なども出品されるけど、あたしの目的は今のところ一つだけだ。



「色々な国の文化が入り乱れてるから、奴隷商も嫌われ難いのかな……? でも内陸から三週間掛けて来るのは流石に遠かったなぁ〜」


「まあまあ、お嬢様。今日は一日宿でゆっくりと過ごして、旅の疲れを癒しましょう。アンドレの事前情報によれば、この宿は貸切の湯殿も在るということです。お背中をお流ししましょうか?」


「ミリアーナ……。うん、そうだね! お風呂に入ってサッパリして、オークションに備えなきゃね!」



 現金な娘(中身は男)なあたしである。

 宿のロビーで部屋を取っておいてくれたムスタファとアニータの二人と合流し、受付を済ませて部屋へと案内される。


 本番は明後日。

 前日ギリギリに会場が発表されるのは、奴隷となった元貴族らを奪還しようという勢力を撹乱するためだ。

 奴隷貴族の親戚だったり寄親だったり、そういった連中の手の者が暴れ騒ぎになった事件が、実際に過去に有ったらしいからね。そういった万難を排するための措置らしい。



「マリア会長、ご入浴はお食事の前になさいますか? 後になさいますか?」


「そうだね、正直疲れてるから、ご飯食べたらすぐに寝ちゃいそうなんだよね。先に入っとこうかなぁ」


「マリア会長、わたくしもご一緒してよろしいですか?」


「カトレア……。まあ女同士だし、別に良いけどさ」



 うおいマジか!? 正真正銘の貴族のご令嬢であらせられるカトレア・ストークス男爵令嬢とお風呂だとォッ!?

 アレ? ()ってば死んだのかな? ここは天国かな……?



「どうせ貸切なんだし、女性陣はいっぺんに入っちゃおうか。宿の人も何度もお湯を沸かすよりはその方が楽でしょ」


「ん、アテも良いの?」


「もちろんだよ、アニータ。ルーチェやバネッサ、それからヘレナもね」


「はいっ、喜んでっ!」


「かしこまりました、マリア会長」


「わ、私もご一緒して良いのですか!?」


「当たり前でしょヘレナ。こういうのは一度に済ませちゃった方が良いんだよ」



 やったぜ……! 言ってみるモンだな……!!

 落ち着け()……いや、あたし。あたしは女の子。だからこんな美女達と一緒にキャッキャウフフとお風呂に入っても何もおかしくないのだ!!

 久し振りにあたしの遠出に同行した戦闘部のミリアーナ大好きっ()なヘレナも、せっかくだから巻き込んじゃる!



「会長サマ。ではワタシはお荷物の番をしていれば良いでしょうか?」


「ムスタファや残りの男性の護衛は、馬車の見張りを交代でしててくれれば自由行動でいいよ? 貴重品は部屋の金庫に入れて鍵を持ち歩けば良いし、せっかくだからお夕飯までゆっくりしてなよ」


「で、ですが……」



 今回はなんと、調理部の部長ムスタファが旅に同行してるの。商会(ウチ)のお留守番はアンドレに任せたのよね。

 いつも遠出の度にムスタファには留守をお願いしちゃってたし、たまにはということで同行メンバーに加えたのだ。



「それにホラ、この都市は色んな国の交易品で溢れてるから。他国の珍しい食材や調味料なんかも見付かるかもよ?」


「っ!! 会長サマはズルいです。そうやって料理人のワタシが抗えないようなコトを……!」


「ふっふっふっ♪ 良いんだよ、ムスタファ。あなたはもう奴隷じゃないんだからさ。お夕飯まで、自由に市場を覗いておいでよ」


「分かりました。お言葉に甘えさせていただきますね」



 心は女性なムスタファなんだから一緒にお風呂……とは流石にいかないのが心苦しいところだけれど。

 まああたしだけでなく他にもうら若き乙女達が居るのだから、申し訳ないが我慢していただこう。


 さてそれじゃあ、お風呂の支度が整うまでは部屋でノンビリさせてもらおうかな〜。





 ◇





 ふおおおおおおおおーーーーーーッ!!!!

 こ、ココこそが桃源郷……ッ!!


 あたしの目の前には、花も恥じらう程の美女達の肢体が湯に濡れ、石鹸の泡でその膨らみや際どい部分が見え隠れし、その艷めく上気した肌を、薄暗く設定された魔石灯の明かりが怪しく照らし出している。


 ヤバい鼻血出そう……!



「ミリアーナ、背中洗ってあげようか?」


「そんなっ! お嬢様にお願いするなど……!」


「ん、ならアテをお願い。ミリアーナの背中はアテが洗ってあげる」


「なっ!? アニータお前、それはズルいだろう!?」


「変に遠慮なんかしてるから悪い。ほら、向こう向いて」


「あははは♪ みんなで洗いっこも楽しいねぇ〜♪」



 などと表面上ではカンペキに女の子を演じつつ、内心では血湧き肉躍るこの世の絶頂を迎えていた()

 そんな()に。



「ではマリア会長のお背中は、わたくしが洗って差し上げますわね♪」


「か、カトレアっ!?」


「あら、いけませんかマリア会長?」


「い、いや……! いけなくはないというかむしろ嬉しいけどっ! だけど正真正銘の貴族のご令嬢に洗ってもらうなんて……」


「そんな寂しい事を仰らないで下さいな。わたくしだってマリア会長の部下ですし、こういった女性同士の“裸のお付き合い”というものに憧れも持っていたのですよ?」



 ドギマギして後ろを振り返れば、普段は涼やかな瞳を優しく綻ばせて、そのスレンダーな一糸まとわぬ肢体で迫るカトレア。

 貴族の嫁入り前のご令嬢の、汚れ無き生まれたままのお姿を目に焼き付けつつ、()は頭に一気に血が昇ってくるのを感じ慌てて視線を前に戻す。


 って! 前は前で魅惑的な揺れる尻尾とその根元のプリンとした可愛らしいお尻がぁッ!?



「おぅふっ!」


「ん、どうしたのご主人?」



 思わず漏れた()の奇妙な声に、クルリと振り返るアニータ。その17歳の張りのある瑞々しいプルルンが目の前に……!!



「ありがとうアニータ。なんでもない、なんでもないのよ」


「ん、おかしなご主人。早く洗ってお湯に浸かろう」


「そだね」



 アニータってば意外と着痩せするタイプなのね……!

 それはCくらいの素敵なプルルンで、普段の服装では分からなかったモノだ。また背中の向こう側に行ってしまわれたのが多少口惜しくもあったけど、背中側は背中側で可愛らしいお尻とソコから生えた豹の尻尾がなんとも……!



「んひゃ!? ご、ご主人、シッポ変な触り方しちゃダメっ」


「ご、ごめんアニータ、普段のフンワリが濡れて細くなってたから気になって……!」


「ぐぬぬ……、おのれアニータぁ……! お嬢様のお手が! たおやかなお手がアニータの肌の上を艶めかしくお洗いに……!」



 こらそこミリアーナっ、変な言い方しないでよ!?

 そんなセクハラみたいな触り方してないからね!? ホントだからね!?


 それはそうとヘレナが静かだね?

 彼女ってば憧れのミリアーナとお風呂ってことで随分と緊張してたみたいだけど……


 首を巡らせてヘレナを探してみれば、そこには洗い場の隅に追いやられたヘレナと、それを追い詰めるバネッサ、ルーチェの姿があった。


 え、何してるの……?



「ふっふっふっ。逃がしませんよヘレナっ。いつも思ってたんですっ。ヘレナは日頃のお手入れが杜撰過ぎますっ!」


「奴隷の品格は主人の品格を表します。ヘレナ、貴女は戦闘奴隷ではありますが女性なのです。もう少々髪やお肌のお手入れをしませんと」


「そ、そんな部長様方の手を煩わせる訳には……!? そ、それに私のようなガサツな女にそんなこと……!」


「まあまあそんなこと言わずに〜っ。 ふむ、やっぱりまだ19歳なだけあって肌もツヤツヤですねっ!」


「あんっ!? そ、そんなところ……ッ!?」


「ルーチェ、21歳の貴女が言っても嫌味にしか聞こえませんが。それはそうと本当に瑞々しいお肌です。これはお手入れのし甲斐がありますね」


「ひうんっ!? ば、バネッサ部長……!? そ、そんな……ひゃうっ!?」


「…………何してるの二人とも?」


「かい、かいちょぉお〜! た、助けてくださいぃぃ!」



 なんだかとっても楽しそうなコトをしていたのでつい声を掛けてしまった。

 ルーチェとバネッサに揉みくちゃにされていたヘレナが、その挟撃を掻い潜って()の元へと逃げてきた。


 たゆんたゆんと素敵な果実を揺らして。

 うん。ヘレナあなた、胸部装甲だけなら多分ミリアーナに勝ってるよ……!!



「二人とも、ヘレナがこんなに怯えてるじゃないの。どうしたの?」


「会長、違うんですっ! ヘレナってばせっかく胸もあってスタイルも良いのに、全然髪やお肌のお手入れとかしないんですよっ!? 勿体ないじゃないですかっ!」


「素材を磨くのも奴隷の務めでございます、マリア会長」



 いやそれにしたってお二人さんよ、ヘレナが子犬みたいに縮こまっちゃってますがな。

 見なさいコレを。()の脚に抱き着いてビクビクと……モニュモニュと柔らかいモノがムニュンムニュンで…………ハッ!?



「ん、んんっ! と、とにかく、無理矢理はダメでしょ。もっと優しくやってあげなよ。ヘレナも、二人は別に怖いことする訳じゃないから、大人しくお手入れを教えてもらいなさいね?」


「か、会長ぉ〜……! で、でも私みたいな女が……」


「そんなことないよ。ヘレナはたまにおっちょこちょいだけど美人だし、ルーチェも言った通りスタイルも良いんだから。バネッサとルーチェには優しくって言っておいたから、戦いの術だけじゃなくて女性としても磨いてほしいな」


「う、うぅ……!」


「それにさ。ただ強いだけの奴隷なんて沢山居るけれど、その上それが綺麗な人だったらスゴくない? ヘレナやあたしが大好きな、ミリアーナみたいにさ♪」



 冷静に戻った(戻ったんだよ!)あたしのその言葉が決め手になったようで、渋々二人の元に戻って行くヘレナ。


 時折悩ましい声を上げつつも、仲睦まじく百合百合しく、お手入れ教室の講義を受けていたよ。



「お嬢様、お身体が冷めてしまいますよ」


「マリア会長、良い湯加減ですわよ。ご一緒に浸かりましょう」


「ん。ご主人、早く入らないと風邪ひいちゃう」


「はーい、今行くよ〜」



 広い浴槽に伸ばされたスラリとしたそれでも柔らかそうな……というよりは柔らかいそれぞれの手足。

 そしてナニがとは言わないけどお湯に浮かぶ素敵なモノ。


 あたしは身体に残っていた泡を掛け湯で流してから、まさにこの世の極楽とも言えるその浴槽の中へと、身を沈めていったのだった。





 あたし、マリア・クオリア13歳。


 我が帝国が主催する奴隷商向けのオークションに参加するため、遠路遥々この貿易都市サンクローラまでやって来ました。


 オークション自体は明後日だけれど、明日には開催会場の発表があるから奴隷商組合の本部に顔を出さなきゃね。


 そして今日はグッスリ休むことにして、ただいま天国を味わってます。


 亡くなったお父さん、お母さん。あなた達の娘は、マリアは、あたしは……!

 今、とてつもなく幸せを噛みしめております……ッ!!


 まだお夕飯も食べてないけど、なんだかとっても満足なのです!





オークションまでいけませんでした(えへ♪)

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