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第49話 前男爵からの手紙とマリア

更新再開します。

ご心配おかけしました。


 ふんふふんふふーん♪

 あたしマリア・クオリア、13歳。

 中身は男だけれど、この世界に生まれたこの身体はれっきとした女の子のもので、(胸は無いけど)はっきり言って美少女だよ!


 両親の遺伝子のおかげさまだなー。

 あの事件で亡くなってしまったけれど、イケメンなお父さんと美人で可愛いかったお母さんのいいとこ取りした感じだね。


「……マリア会長、如何なさいましたか? 先程からずっと鏡をご覧になっておいでですが」


 ハッ!? ば、バネッサさん、いつの間に部屋に!?


「な、なんでもないよ!? 両親のいいとこ取りしたあたし可愛いなーなんて思ってないからね!?」


「いえ、マリア会長……。声に出ておいでです」


「ああっ、しまったぁーーッ!?」


 あたしのバカバカ! これじゃあ自意識過剰なイタい子みたいじゃないかっ!!

 うう……! 穴があったら入りたい……ッ!


「マリア会長が大変見目麗しいのは周知の事実ですので、それほど恥じ入らずとも良いのでは……?」


「やめて……! 余計に恥ずかしくなっちゃうから……! それでバネッサ、何か用事かな?」


 バネッサの訪室の用件を訊いてなんとか誤魔化すけど、うぅ……! 顔が熱いよぉ……!


「そうでございました。()()()()()()()セイラム男爵家からお手紙が届いております」


「ッ!! 分かった。先に目を通しておくから、部長達を集めてくれる?」


「かしこまりました。ただちに」


 音も無く扉を閉めて、バネッサが部屋から出て行く。

 あたしは封蝋を割らないようにペーパーナイフで開封して、中身の手紙を取り出した――――







「失礼します。マリア会長、部長達が集まりました。会議室へとお願い致します」


「ん、分かったよ。アンドレとアニータはまだ戻ってないのよね?」


「いえ、つい先程戻りました。その報告も併せて行いたいとのことでございます」


「分かった。帰って来たばかりで悪いけど、それも大事なことだもんね。それじゃ行こっか」


「かしこまりました」


 あたしは読み終わった手紙を持って自室から会議室へと移動する。


 手紙の内容?

 まあ大方は予想通りだったかな。正直もっと早くに届くと思ってたくらいだ。


 あたしはこれからの事を脳裏に描きながら、バネッサが先導して開けてくれた会議室の扉をくぐる。


「「「「マリア会長、お疲れ様です」」」」


「うん、みんなもお疲れ様。座ってちょうだい」


 会議室に入ると、招集された我がワーグナー商会の部長達が一斉に起立し、あたしに挨拶をしてくる。

 あたしはそれを制して着席させ、自身も自分の席へと腰を下ろした。


「みんな、仕事中に急に呼び出してごめんね。ウチの本家に当たるセイラム男爵家から、手紙が届いたよ」


 開口一番にまずその事実をみんなに知らせた。

 みんなはそれを聞いた途端、表情を引き締めて緊張した顔になった。


 みんなあの男爵家には思う所があるからね。遂に来たかって感じで、空気まで張り詰めているように感じるよ。


「アンドレ、アニータ。大変なお仕事を任せてごめんね。お疲れ様。そして、おかえりなさい」


「いいってことよお嬢。気にしなさんな」


「ん。ただいまご主人。お土産と誕生日の贈り物を買ってきたから、後で渡す」


「ありがと。アニータもありがとね。早速報告を……といきたいけど、先に手紙の内容をみんなにも共有しようと思うの。だから少し待っててね」


「あいよ」


「ん。問題ない」


 アンドレとアニータの了承を得たことだし、あたしは封筒から手紙を取り出して、みんなに聴こえるように読み上げる。



『奴隷商ワーグナー商会会長、我が甥スティーブの娘マリアよ。不幸にも両親が死んだとの報せが我が耳に届いた。ついては幼き貴様の身柄を我が男爵家で預かろうと考えるものである。不遇な適性である貴様を養子に迎え入れる我が寛大さに大いに感謝し、商会の権利に関する総ての書類と所属する奴隷全ての契約書類を持参し、我が男爵家へと訪問するべし。これは本家たるセイラム男爵家の名に於いて命ずるものである――――』



 うわぁ……! 会議室の中が一気に殺気立ったよぉ……っ!


「何たる物言い……ッ! 許せん……ッ!!」


 ちょっ、ミリアーナ!? そんな怖い顔しないでよぉ!?

 あ、あぁ〜……ミリアーナだけじゃなくてみんなも怒り顔だぁ……!


「み、みんな、ちょっと落ち着いてね……? それでカトレア。この申し出を断った場合、あたしはどうなると思う?」


「そうですね……。親戚筋とはいえ貴族位にある者の()()を平民が拒んだ場合は、不敬罪が適用され最悪は無礼討ちも有り得るかと。まあそれも、相手が()()()()()()()()()……ですが」


「つまりカトレアは、()()()()()()()()()()()()だと考えてるんだね?」


「はい、マリア会長。先の伯爵閣下よりの報奨によって、マリア会長には家名が与えられました。これは名誉貴族……準貴族として扱うという事です。


 世襲は残念ながら叶いませんが、マリア会長は“マリア・クオリア女士爵”として既に独立しており、そして任命されたムッツァート伯爵閣下の庇護下に居るものとして扱われます。


 つまり伯爵閣下よりの許可が出ねば、本来は他家が命令を下すことはできません。よって、このような“命令”に従う必要は無いものと考えられます」


 そうなのだ。あたしが本家との縁を切りたいがために求めた家名は、やはりと言うかなんと言うか、貴族の称号が付随していたのよね。


 伯爵の、その家名の証文に添付されていた手紙にはちゃっかりと、『我が領地の発展に寄与するべし』と書かれていたよ。

 まあ、それと共に『商会を好きに育んでみせよ。制約は課さぬ』とも添えられていたけどさ。


 要はあたしは一代限りとはいえ、意図せず貴族の仲間入りを果たしてしまっていたというワケ。

 まあもともと実のお祖父(じい)様は前男爵の弟なわけで、分家となった我が家も半ば貴族のようなものだったんだけどね、形式上は。


「そうだね。あたしにはこんな命令に従う義務も義理も無い。だけど敢えて、あたしはこの誘いを受けようと思うの」


「「「「なッ!!??」」」」


 おおー、みんな驚いてる驚いてる。


「か、会長!? どうか考え直してくださいっ! こんなの明らかに罠じゃないですかっ!?」


「そうですぜお嬢! あんな胸糞悪い家には、お嬢は近寄らない方がいい!」


 ルーチェ、そしてアンドレが立ち上がり、あたしに翻意するように進言してくる。表情を見る限り、他のみんなも同意見みたいだね。


 だけど、ごめんね。


「落ち着いてみんな。とりあえずこの話は一旦ここまでにしよう。アンドレ、アニータ。あなた達のお仕事の報告を聞かせてくれる? それ次第な部分もあるからさ」


 あたしの言葉に、ざわめき立っていた会議室はなんとか静けさを取り戻す。


「……俺とアニータで、男爵家の別邸を調査しました。成果はナシです」


「ん。セイラム前男爵はよほど慎重な男らしい。屋敷に匿っている“魔力紋”を押された奴らとの契約書の類いも、一切別邸には保管されてなかった。もちろん、魔導具も」


 アンドレの後を引き継いで、アニータが詳細を報告してくれる。

 凄いよね、たった二人でこれだけの調査ができるんだもん。


「うん。それで本邸にも行ったんでしょ? どうだった?」


「一言で言うなら、侵入すら出来ませんでしたね。アレはおかしい」


「ん。何処の要塞かと思った。“魔力紋”持ち以外にも、金で雇った傭兵やら冒険者やら、男爵家子飼いの戦力が四六時中詰めていて、何かを護っていた」


「ふぅーん。それってさ、逆にナニかありますよーって言ってるようなモンよね?」


「ですね。俺もそう思って、とにかく監視だけは徹底して行いましたよ。で、魔導具――“魔力印”の存在だけは確認できました」


職業技能(スキル)【千里眼】で、前男爵が“魔力印”を使用している場面を目撃した。押された“魔力紋”は、確かにワーグナー商会のものだった」


 やっぱり……ね。

 お父さん、遂に見付けたよ。あたし達奴隷商人の誇りとも言うべき大切な魔導具を。


「報告ありがと。大変だったでしょ?」


「いやまあ、口封じを警戒して当事者の(ナマ)の声が聴けなかったのは口惜しいですがね」


「仕方ない。死なれると探っているのがバレる恐れがあった」


「うん。あたしもあの隠居爺さんだったら、平気で口封じとかやると思う。だから、二人は良くやってくれたよ。それじゃあそれを踏まえてさっきの話に戻すけど……」


 奪還は叶わなかったけど、セイラム男爵家の本邸に奪われた魔導具が在ることは確認できた。

 あとはどのようにしてそれを暴くか、だけど。


「カトレア、伯爵の諜報員達と話し合いの場を設けられる?」


「え、ええ。それは可能ですが。わたくしの報告書もいつも諜報員に渡して届けておりますので……。マリア会長……何をなさるおつもりですか……?」


「“蟻のひと噛み(つつみ)を崩す”ってね。あたしが乗り込んで、その秘密主義な堤を崩してやろうかなって」


 いや、みんな? どうして『あー』みたいな呆れた顔してるのかな?


「この手紙の内容から察するに、前男爵はあたしが士爵位を賜ったという情報を手に入れていない筈。時間との勝負になるよ。あたしのことをただの分家の、平民の小娘だと思っている内に仕掛けないと……!」


「……承知しました。至急諜報員に連絡を付けましょう」


「それと、憲兵を動かせるかも確認をお願い。あくまであたしは現場に居合わせた第三者。吊るし上げるのは伯爵閣下の役どころだって、約束しちゃったもんね」


「お嬢様! 私は絶対にご一緒しますからね!?」


「会長っ! わたしもですっ!」


「当然、この作戦にはみんなにもついて来てもらうよ。下手をすれば敵軍の本丸で孤軍奮闘する事になるからね。アンドレとアニータもできるだけ身体を休めておいてね。ムスタファはまた商会の留守を、総務部のみんなと守っていてくれる?」


「あいよ、お嬢」


「ん、分かった。まだまだ働く」


「わ、分かりました、会長サマ……ッ!」




 あたし、マリア・クオリア。


 いよいよ因縁深き本家――セイラム男爵家に仇討ちをする時が近付いてきたよ。


 頼りになる仲間達と一緒に、必ず両親や奴隷達の仇を取ってみせます。




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[良い点] 更新待っていましたー [一言] 遂に1つの山場が 久しぶりに男前なマリアが見れるかなー 恥を知れ!俗物! みたいな(笑)
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